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58.自業自得
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つまらない――そんなことをユリアが思えたのは僅か数日のことだけだった。
「なんでよ!?」
バンッ!と机を叩く音が部屋に響き渡る。
ここはガーマ男爵家の執務室。
そしてそこに置かれたそこそこ高価な派手な執務机に手を振り下ろしたのはユリアだ。
「嫌よ!嫌よ!嫌よ!」
室内にユリアの絶叫が響き渡る。
「仕方ないだろう」
激昂するユリアに対し冷静な態度を崩さない父親。
「嫌だって言ってるでしょ!」
こんなやりとりを何度しただろうか。疲れ果て言葉なく無言で首を横に振るユリアの父。だがその姿に尚更カッと怒りが増すユリア。可愛い娘は金になるといつも自分に甘い父がこんなに嫌だと言っているのに首を縦に振ってくれないなんて。
さっさといつものようにいいよと言いなさいよ!
「嫌よ!私は……私はルシアンと結婚するのよ!」
そんな絶叫が室内だけでなく男爵邸に響き渡る。それを耳にした使用人達は数少ないながらも皆呆れるばかりだった。
男爵父娘が何を話しているのか。
それはユリアとルシアンの婚約破棄について。
そして……
「なんで私がたかが伯爵家出身のルイスと結婚しなきゃいけないのよ!?」
ユリアとルイスの婚約について。いや、婚姻について。
「なんでって……………」
呆れた様子なのは父親だけではなく、使用人たちまでもだ。日頃ユリアに蔑まれている侍女達はクスクスとざまあとばかりに嘲笑っている。
「お前が…………お前がルイスの子を身籠ったからだろう?」
2人は相性が良かったようで関係を結んではや数ヶ月ユリアのお腹には愛の結晶が宿っていた。
「ルイスの子じゃないわ!ルシアンの子よ!」
「冗談でもそんなことを言うな!お前とルシアン様は清い関係だろう?」
「はっ!これから結んで早産だと言えば良いのよ!お腹も全然出てないし誤魔化せるわよ」
いやいやいやいや、もう数ヶ月月経が来ないと聞いている。早産と誤魔化すにはしっかり育った子供が生まれるに違いない。もう少し早く気づけばその手も有りかもしれないが無理だ。
ユリアはただの不調だと思ったよう。
いつもしっかり月経が来ていたというのに……。
なんとも呑気なものである。
「そんなことをしてバレたらどうなる?相手は侯爵家なのだぞ?没落気味だろうが貧乏だろうがうちよりは裕福で格上なのだぞ!?それに厳格で堅物で真面目な家だ。愛人の子をあなたの子として生みました。ごめんね!だけではすまないのだぞ!」
「うるさい!うるさい!うるさい!はっ!そうだ!じゃあこんなもの消しちゃえば良いじゃない!こんな私を困らせるだけのものなんていらないわよ!産まれてもきっと可愛いと思えないだろうし……うん、それがいいわ」
「…………ユリア……お前は……どこまで愚かなのだ……」
父親の顔が娘のあまりにもの非情な言葉に青褪めた。
「ていうかそもそもなんでそんなに私を責めるのよ?ルイスとの関係はお父様にもお母様にも言っておいたはずよ?だからルイスとやった日には子流しの薬を手配してもらって飲んだんだから!お父様ちゃんとしたものを手配したの?こうなっているのはお父様のせいよ!!!」
「………………………」
ユリアの吐いた言葉に急に黙り込む父親。その様子を見て今なら父親は自分の言うことに従うはずだと目を輝かせ口を開く。
「ねぇ「クスクスクス」」
いやその猫撫で声で発された言葉は美しく残酷な笑い声によって消えた。
「なんであんたがここにいるのよ!?」
「ヒッ!ユリアお前はなんて口の利き方をするのだ!も、申し訳ございません………マーシャ様!」
音もなく部屋に入室してきたのはマーシャだった。余裕たっぷりといわんばかりにゆっくりと足を動かしユリアの前に立つ。
「ふふっ構わなくてよ。負け犬がどれだけ吠えようとただただ哀れなだけだもの」
その言葉にあからさまにホッとした表情となった父をユリアは強く睨みつける。娘が負け犬と言われているのにこの父親は正気なのだろうか?
「あらあらそんな怖い顔をしないでちょうだい。父君は何も悪くないのよ?そもそも婚約者がいる身で人の婚約者と関係を結ぶ人が悪いことは理解できて?」
「はあ?婚約者を寝取られたからいちゃもんつけに来たわけ?私の方が魅力があっただけでしょ?自分の魅力のなさを後悔しなさいよ!あんたが悪いのよ!」
「ユリアッ!!!」
怒りからか焦りからか顔を真っ赤にしながら叫ぶユリアの父にマーシャは軽く手を上げ口出し無用と伝える。彼はオロオロしながらも口を閉じた。
「全ての人から好意を寄せられる人間なんて存在しなくてよ?私だってルイスに魅力を感じなかったし……お互い様よね?」
「負け惜しみね!あなたの婚約者は私を選んだんだから!」
「そうね。そして天もあなたとルイスが結ばれることを選んだ」
言葉と共に向けられた視線はユリアの腹部に向く。そこはまだ膨らみもなく命があるかどうかは見た目ではわからない。だが確かにそこには存在する。
「なんでよ!?」
バンッ!と机を叩く音が部屋に響き渡る。
ここはガーマ男爵家の執務室。
そしてそこに置かれたそこそこ高価な派手な執務机に手を振り下ろしたのはユリアだ。
「嫌よ!嫌よ!嫌よ!」
室内にユリアの絶叫が響き渡る。
「仕方ないだろう」
激昂するユリアに対し冷静な態度を崩さない父親。
「嫌だって言ってるでしょ!」
こんなやりとりを何度しただろうか。疲れ果て言葉なく無言で首を横に振るユリアの父。だがその姿に尚更カッと怒りが増すユリア。可愛い娘は金になるといつも自分に甘い父がこんなに嫌だと言っているのに首を縦に振ってくれないなんて。
さっさといつものようにいいよと言いなさいよ!
「嫌よ!私は……私はルシアンと結婚するのよ!」
そんな絶叫が室内だけでなく男爵邸に響き渡る。それを耳にした使用人達は数少ないながらも皆呆れるばかりだった。
男爵父娘が何を話しているのか。
それはユリアとルシアンの婚約破棄について。
そして……
「なんで私がたかが伯爵家出身のルイスと結婚しなきゃいけないのよ!?」
ユリアとルイスの婚約について。いや、婚姻について。
「なんでって……………」
呆れた様子なのは父親だけではなく、使用人たちまでもだ。日頃ユリアに蔑まれている侍女達はクスクスとざまあとばかりに嘲笑っている。
「お前が…………お前がルイスの子を身籠ったからだろう?」
2人は相性が良かったようで関係を結んではや数ヶ月ユリアのお腹には愛の結晶が宿っていた。
「ルイスの子じゃないわ!ルシアンの子よ!」
「冗談でもそんなことを言うな!お前とルシアン様は清い関係だろう?」
「はっ!これから結んで早産だと言えば良いのよ!お腹も全然出てないし誤魔化せるわよ」
いやいやいやいや、もう数ヶ月月経が来ないと聞いている。早産と誤魔化すにはしっかり育った子供が生まれるに違いない。もう少し早く気づけばその手も有りかもしれないが無理だ。
ユリアはただの不調だと思ったよう。
いつもしっかり月経が来ていたというのに……。
なんとも呑気なものである。
「そんなことをしてバレたらどうなる?相手は侯爵家なのだぞ?没落気味だろうが貧乏だろうがうちよりは裕福で格上なのだぞ!?それに厳格で堅物で真面目な家だ。愛人の子をあなたの子として生みました。ごめんね!だけではすまないのだぞ!」
「うるさい!うるさい!うるさい!はっ!そうだ!じゃあこんなもの消しちゃえば良いじゃない!こんな私を困らせるだけのものなんていらないわよ!産まれてもきっと可愛いと思えないだろうし……うん、それがいいわ」
「…………ユリア……お前は……どこまで愚かなのだ……」
父親の顔が娘のあまりにもの非情な言葉に青褪めた。
「ていうかそもそもなんでそんなに私を責めるのよ?ルイスとの関係はお父様にもお母様にも言っておいたはずよ?だからルイスとやった日には子流しの薬を手配してもらって飲んだんだから!お父様ちゃんとしたものを手配したの?こうなっているのはお父様のせいよ!!!」
「………………………」
ユリアの吐いた言葉に急に黙り込む父親。その様子を見て今なら父親は自分の言うことに従うはずだと目を輝かせ口を開く。
「ねぇ「クスクスクス」」
いやその猫撫で声で発された言葉は美しく残酷な笑い声によって消えた。
「なんであんたがここにいるのよ!?」
「ヒッ!ユリアお前はなんて口の利き方をするのだ!も、申し訳ございません………マーシャ様!」
音もなく部屋に入室してきたのはマーシャだった。余裕たっぷりといわんばかりにゆっくりと足を動かしユリアの前に立つ。
「ふふっ構わなくてよ。負け犬がどれだけ吠えようとただただ哀れなだけだもの」
その言葉にあからさまにホッとした表情となった父をユリアは強く睨みつける。娘が負け犬と言われているのにこの父親は正気なのだろうか?
「あらあらそんな怖い顔をしないでちょうだい。父君は何も悪くないのよ?そもそも婚約者がいる身で人の婚約者と関係を結ぶ人が悪いことは理解できて?」
「はあ?婚約者を寝取られたからいちゃもんつけに来たわけ?私の方が魅力があっただけでしょ?自分の魅力のなさを後悔しなさいよ!あんたが悪いのよ!」
「ユリアッ!!!」
怒りからか焦りからか顔を真っ赤にしながら叫ぶユリアの父にマーシャは軽く手を上げ口出し無用と伝える。彼はオロオロしながらも口を閉じた。
「全ての人から好意を寄せられる人間なんて存在しなくてよ?私だってルイスに魅力を感じなかったし……お互い様よね?」
「負け惜しみね!あなたの婚約者は私を選んだんだから!」
「そうね。そして天もあなたとルイスが結ばれることを選んだ」
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