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61.俺のもの
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「もちろん光栄なことだとは思っております。ですが人の婚約を壊すような方とは添い遂げられると思いません」
ヒィィィィィィィィ…と侯爵夫妻の口から微かに悲鳴が漏れた。咎めようとするがうまく言葉が出てこず手をバタバタさせることしかできない。
彼らを落ち着かせるかのごとくマーシャは大丈夫ですよと軽く微笑みを見せるとルシアンに対峙する。
「婚約を壊したのは私だと仰るの?」
「そうです。婚前のことなど目を瞑れば良かったではありませんか。婚姻さえしてしまえばきっと彼らも縁は切れていたでしょう。彼らの仲を深めるような行動をするなど愚かです」
お、愚か……公爵家の令嬢に愚か……再び夫婦は白目を剥いた。その場で動かなくなった2人を横たわらせるよう指示したあと、ゆっくりと足を組んだマーシャ。
その様にルシアンは目を細める。
「あなたの家は知らないけれど私はフライア公爵家の娘。格上たる私がなぜ浮気を容認しなければならないの?」
「婚約をうまく続けていくためには多少の我慢が必要でしょう」
「うまく続けていく?続けていきたいと願っているのは相手であり、我慢とは相手がするものであり私がするものではないわ。そこまでの価値が彼にあったとでも?私が得る利はなあに?」
「それは…………」
なんたる傲慢な思考。だが確かに彼女に利はない。
「あなただって落ちぶれたとはいえ格上の侯爵家、あなたの許容が家の名を貶めるとは思わないの?我慢が美徳などという意味のわからないものの為に家族を犠牲にするなど考えられないわ」
「………………」
「あなたがどんな相手であれ婚約者だからと誠実に向き合おうとしていたことを理解していたにも関わらず破棄へ導いたことは認めましょう。でも私と婚約すれば婚姻すれば様々なことが好転する。今までと同じじゃない。私が気に入らなかろうと我慢すればよいだけ。簡単なことじゃない?」
やることは同じだ。
ユリアのことだって我慢の連続だった。ただ祖父が結んだ婚約ということだけで。
でも、なぜだろうか。
「それでも私は……俺はあなたと婚約したくない」
無性に反発したくなる。
「……皆様も彼と同じ考えですか?」
マーシャがルシアンの家族へと視線を移す。
彼らはその視線から逃れるようにすっと目を下げる。それは肯定に他ならない。ふむ……とマーシャは少しだけ考え込む。
押せばどうにかなると思ったが、こちらを格上の相手と認識し逆らうべきではないと理解していながらも強固な態度。どうするべきか。
「私では駄目でしょうか?」
静寂に満ちた場に一つの低い声が発された。
「ちょ、何を言ってるんだ!?」
慌てた様子のルシアンがその場に立ち上がり発言した人物――兄を見る。
「義務的にでも一途に貴方様だけを見ることなら私でもできます。愚弟はあなた様の申し出がどれだけ有難いものなのか理解していないのです。ですが私は違います。是非このチャンスを掴みたい」
ルシアンに反応することもなくそこにいないものかのように視線さえ向けない兄。カッとなったルシアンは兄の肩に手を置き揺さぶる。
「どうして兄上が!兄上には義姉上だっているじゃないか!」
自分と違って仲の良い2人。おっとりとしていつも穏やかな微笑みを浮かべる彼女を見て何度自分の婚約者と取り替えたいと思ったことか。
「このチャンスをモノにしようと思わないお前にはわからないだろうな。私は嫌なんだよ。もうこんな家。侯爵家とは名ばかり、嘲笑われるこの家なんて。フライア公爵家と姻戚になれば誰も馬鹿になんてされないだろう?そして何よりも彼女自身とても魅力的な女性だ。男なら彼女を求めて当然だろう?」
兄の薄ら笑いを浮かべながら発された言葉に肩を掴んでいた手から力が抜ける。その目には深い欲の沼が映し出されているようで怖くなった。
そして……
「彼女は俺に求婚をしているんだ。兄上にじゃない。俺に……俺が求められているんだ。彼女は俺のもの……」
自分が口走ったことが信じられず、口を抑えるルシアン。周囲にいた者たちはその言葉にふっと笑う。
「……面白い申し出だけれどそちらの女性の幸せを壊す気はなくってよ。良い婚約者様をお持ちだわ。あなたの言葉に揺らがない」
「失礼なことを申しました」
「過分なお言葉勿体のうございます」
マーシャに頭を下げる2人を見てルシアンはごくりと唾を飲む。
今自分は何と言った?
カッとなった時……彼女は自分のモノだ!と強烈な思いがこみ上げた。接していくうちに絆されていたというのか。
美しく何もかも持っているが傲慢で人を振り回す傍迷惑なこの女性に。
「私が狙った獲物を逃がすとお思い?この圧倒的な美、カリスマ性でアピールされていたあなたの頭、心には私が刷り込まれているでしょう?強がりはやめてさっさと申し出を受け入れなさい?」
マーシャとルシアンの瞳がぶつかる。
片方は余裕のある瞳。
もう片方は悔しいながらも恋焦がれる瞳。
どちらが婚約を申し入れているのかわからない。
「…………申し出を受け入れます」
ぽつりと呟かれた言葉にマーシャは嫣然と微笑んだ。その笑みは当然だと言わんばかりに傲慢で……反発しそうになる心を抑えつける。
「ではそういうことで、手続きを進めましょう。宜しいですね?」
マーシャの微笑みに見惚れていた夫婦は視線を向けられるとハッとしてコクコクと慌てて頷く。
手続きが終わり皇帝に出してきますねと公爵家は去って行った。
サインした指を閉じたり開いたりを繰り返すルシアンは兄に問う。
「あれは本気だったのか?」
「さあ?どうだと思う?」
「なんだよそれ…………………………俺はうまく彼女とやっていけるのかな?」
「ん~?あの我儘娘にも耐え続けたお前なら大丈夫だろう?」
「でもなんかあの人と接してると反発したくなるんだよ。自分を抑えられないというか」
「はは!彼女は魅力的な人だからな!」
不思議そうな顔をするルシアンに兄は笑う。
弟は間違いなくマーシャに惹かれている。なんでもかんでも我慢我慢我慢我慢してきた弟が人に対して感情を、気持ちを出そうとしている。
それは彼女が特別な存在に他ならないから。自分の気持ちに戸惑いどこか素直になれないのだろう。では兄から言う言葉はこれだけで十分だ。
「反発心から浮気するなよ?」
「するわけないだろう!?」
カッカッ怒る弟にこれなら大丈夫そうだと安堵する兄だった。
ヒィィィィィィィィ…と侯爵夫妻の口から微かに悲鳴が漏れた。咎めようとするがうまく言葉が出てこず手をバタバタさせることしかできない。
彼らを落ち着かせるかのごとくマーシャは大丈夫ですよと軽く微笑みを見せるとルシアンに対峙する。
「婚約を壊したのは私だと仰るの?」
「そうです。婚前のことなど目を瞑れば良かったではありませんか。婚姻さえしてしまえばきっと彼らも縁は切れていたでしょう。彼らの仲を深めるような行動をするなど愚かです」
お、愚か……公爵家の令嬢に愚か……再び夫婦は白目を剥いた。その場で動かなくなった2人を横たわらせるよう指示したあと、ゆっくりと足を組んだマーシャ。
その様にルシアンは目を細める。
「あなたの家は知らないけれど私はフライア公爵家の娘。格上たる私がなぜ浮気を容認しなければならないの?」
「婚約をうまく続けていくためには多少の我慢が必要でしょう」
「うまく続けていく?続けていきたいと願っているのは相手であり、我慢とは相手がするものであり私がするものではないわ。そこまでの価値が彼にあったとでも?私が得る利はなあに?」
「それは…………」
なんたる傲慢な思考。だが確かに彼女に利はない。
「あなただって落ちぶれたとはいえ格上の侯爵家、あなたの許容が家の名を貶めるとは思わないの?我慢が美徳などという意味のわからないものの為に家族を犠牲にするなど考えられないわ」
「………………」
「あなたがどんな相手であれ婚約者だからと誠実に向き合おうとしていたことを理解していたにも関わらず破棄へ導いたことは認めましょう。でも私と婚約すれば婚姻すれば様々なことが好転する。今までと同じじゃない。私が気に入らなかろうと我慢すればよいだけ。簡単なことじゃない?」
やることは同じだ。
ユリアのことだって我慢の連続だった。ただ祖父が結んだ婚約ということだけで。
でも、なぜだろうか。
「それでも私は……俺はあなたと婚約したくない」
無性に反発したくなる。
「……皆様も彼と同じ考えですか?」
マーシャがルシアンの家族へと視線を移す。
彼らはその視線から逃れるようにすっと目を下げる。それは肯定に他ならない。ふむ……とマーシャは少しだけ考え込む。
押せばどうにかなると思ったが、こちらを格上の相手と認識し逆らうべきではないと理解していながらも強固な態度。どうするべきか。
「私では駄目でしょうか?」
静寂に満ちた場に一つの低い声が発された。
「ちょ、何を言ってるんだ!?」
慌てた様子のルシアンがその場に立ち上がり発言した人物――兄を見る。
「義務的にでも一途に貴方様だけを見ることなら私でもできます。愚弟はあなた様の申し出がどれだけ有難いものなのか理解していないのです。ですが私は違います。是非このチャンスを掴みたい」
ルシアンに反応することもなくそこにいないものかのように視線さえ向けない兄。カッとなったルシアンは兄の肩に手を置き揺さぶる。
「どうして兄上が!兄上には義姉上だっているじゃないか!」
自分と違って仲の良い2人。おっとりとしていつも穏やかな微笑みを浮かべる彼女を見て何度自分の婚約者と取り替えたいと思ったことか。
「このチャンスをモノにしようと思わないお前にはわからないだろうな。私は嫌なんだよ。もうこんな家。侯爵家とは名ばかり、嘲笑われるこの家なんて。フライア公爵家と姻戚になれば誰も馬鹿になんてされないだろう?そして何よりも彼女自身とても魅力的な女性だ。男なら彼女を求めて当然だろう?」
兄の薄ら笑いを浮かべながら発された言葉に肩を掴んでいた手から力が抜ける。その目には深い欲の沼が映し出されているようで怖くなった。
そして……
「彼女は俺に求婚をしているんだ。兄上にじゃない。俺に……俺が求められているんだ。彼女は俺のもの……」
自分が口走ったことが信じられず、口を抑えるルシアン。周囲にいた者たちはその言葉にふっと笑う。
「……面白い申し出だけれどそちらの女性の幸せを壊す気はなくってよ。良い婚約者様をお持ちだわ。あなたの言葉に揺らがない」
「失礼なことを申しました」
「過分なお言葉勿体のうございます」
マーシャに頭を下げる2人を見てルシアンはごくりと唾を飲む。
今自分は何と言った?
カッとなった時……彼女は自分のモノだ!と強烈な思いがこみ上げた。接していくうちに絆されていたというのか。
美しく何もかも持っているが傲慢で人を振り回す傍迷惑なこの女性に。
「私が狙った獲物を逃がすとお思い?この圧倒的な美、カリスマ性でアピールされていたあなたの頭、心には私が刷り込まれているでしょう?強がりはやめてさっさと申し出を受け入れなさい?」
マーシャとルシアンの瞳がぶつかる。
片方は余裕のある瞳。
もう片方は悔しいながらも恋焦がれる瞳。
どちらが婚約を申し入れているのかわからない。
「…………申し出を受け入れます」
ぽつりと呟かれた言葉にマーシャは嫣然と微笑んだ。その笑みは当然だと言わんばかりに傲慢で……反発しそうになる心を抑えつける。
「ではそういうことで、手続きを進めましょう。宜しいですね?」
マーシャの微笑みに見惚れていた夫婦は視線を向けられるとハッとしてコクコクと慌てて頷く。
手続きが終わり皇帝に出してきますねと公爵家は去って行った。
サインした指を閉じたり開いたりを繰り返すルシアンは兄に問う。
「あれは本気だったのか?」
「さあ?どうだと思う?」
「なんだよそれ…………………………俺はうまく彼女とやっていけるのかな?」
「ん~?あの我儘娘にも耐え続けたお前なら大丈夫だろう?」
「でもなんかあの人と接してると反発したくなるんだよ。自分を抑えられないというか」
「はは!彼女は魅力的な人だからな!」
不思議そうな顔をするルシアンに兄は笑う。
弟は間違いなくマーシャに惹かれている。なんでもかんでも我慢我慢我慢我慢してきた弟が人に対して感情を、気持ちを出そうとしている。
それは彼女が特別な存在に他ならないから。自分の気持ちに戸惑いどこか素直になれないのだろう。では兄から言う言葉はこれだけで十分だ。
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