勇者の曾孫の迷走録

たくみ

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34.兄弟過去話⑤

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 リカルドに伯爵家を任せよう。そう思いつつもなかなか言い出せないまま日々は過ぎていく。そんな気ばかりが焦る中リリアが父親と屋敷に遊びに来た。

「ご機嫌ようトリスタン様、リカルド様」

「ご機嫌ようリリア」

「いらっしゃい。リリア様」

 その後、父親同士は何やら難しい話をしに場所を移し、子供たちだけで遊んでいた。リリアはその間もリカルドばかりに視線がいき、自分の方を見ることは少なかった。

 ため息が出そうになるのを堪えながら過ごしていると夕食の準備ができ、食堂に皆で向かった。父と母、リリアの父とリリア、トリスタンとリカルドが集まった。

 和やかに談笑が始まる中、トリスタンの心臓は早鐘を打っていた。ここで言おう、そう決めたからだ。伯爵家をリカルドが継ぐとなればリリアの婚約者もトリスタンからリカルドになる。彼女の父親にも聞いてもらった方が良いと思った。

「あ「ねえねえリリア様!」」

「何でしょう?リカルド様」

 うおっ……びっくりした。リカルドの大声に驚き思わず黙ってしまったトリスタン。そんな兄には気づかずリカルドはリリアに話しかける。

「リリア様は兄上より僕の方が好きなの?」

「え?」

 リカルドの発言に場はシーンと静まる。

「家臣のおじさんがね、リリア様は僕の方が好きみたいだからリリア様と結婚してあげたらって言ってきたんだよ」

 その言葉にゴクリと唾を飲み込む父。リリアとの婚約は跡継ぎたる者となっている。家臣が口出しすることではない。ましてこのような幼子にそのような言葉がけをするなどあってはならない。

 だが、リカルドを推す者がいるということでもある。誰がそんなことをと問いたいところだが、リリアの返答を聞いてみることにする。

「えっ、はっ?私はトリスタン様のことが好きです!……はっ!」

 思わずポロリと出てしまった本音。みるみるうちにリリアの顔は赤く染まった。

「リンゴだ」

「おやめなさい、リカルド!」

 母親からの叱責に一瞬シュンと大人しくなったが、すぐに立ち直るのがこの弟のすごいところで……

「ですよね!リリア様は兄上と話すのが恥ずかしくて僕に話しかけてただけですよね!」

「うっ………あっ…………」

 何か返事をしなければと思うが言葉にならないリリア。その通り。その通りなのだ。トリスタンと話がしたいが何を話せば良いかわからないし、目が合うと恥ずかしくて直視できず。

 でもそれを口に出すのは恥ずかしい。ただでさえ今いっぱいいっぱいだというのに。だが言葉がなくともリカルドの言う通りだということはわかる。

 トリスタンまで顔が熱くなってくる。もしかして赤くなっているかもしれない。
 
 が、その熱はすぐにひくことになった。

「皆の言う通り、リリア様は幼児趣味じゃなかったよ!」

 皆――彼の視線の先にはリカルド付きの使用人たち。皆尋常ではない量の汗をダラダラとかいている。彼らには悪気はなかったと思う。きっと兄とその婚約者の仲を心配する坊っちゃんを安心させようとしたのだろう。

 だが、ちょっとばかり言葉のチョイスが悪かったのだ。スポンジのように大人の言葉を吸収する幼児の前で言って良い言葉ではなかった。

 良かった良かったとほんわかしているリカルドが異質な者に見えるほど部屋の空気が冷たい。いや、リリアの父君は何やらプルプルと震えている。あれは笑っているな。

 ガタンッと椅子が動く音がしたかと思うとリリアが先程以上に顔を真っ赤にさせ、立ち上がっていた。

「あ……リリア嬢。リカルドはまだ幼くて、きっと意味もわからず使っているだけなんだ」

「そうよリリア。リカルドがごめんなさい。この子素直というかちょっと考えが足りないというか…………」

 バンッ!

 父と母が焦ったように言葉を紡ぐがリリアはテーブルに思いっきり手を叩きつけた。非常に痛そうだ。涙目になっている。手の痛みか羞恥かはわからないが……。

 いつも穏やかなリリアの乱暴な所作に皆ビクリと身体を震わせた。彼女に視線が集まる。

「私は……私は……幼児趣味じゃない!リカルド!ちゃんと覚えておきなさい!」

「は、はいぃ」

 リカルドのなんとも気の抜ける返事を聞くとドスドスと去っていくリリア。皆呆気にとられながら見送る。

「兄上、リリア様怖いよー。なんであんなに怒ってるの?兄上あんな怖い人と結婚するの?大変だね」

 その言葉にリリアの父君がぶふぉっと噴き出す。

 はは、楽しそうで何よりだ。

「……さあ、なんでだろうな」

「リリア様が義姉上かぁ。こわー」

「リカルドー!あなたが悪いんでしょうがー!!!」

 リカルドの幼い故の無邪気?な言葉についに母がキレた。

「母上はもっと怖いー!鬼みたいだー!」

「女は皆心に鬼を隠してるのよ」

「何それ怖いー!」

「じゃああんな無礼な言葉を使うんじゃないわよ!」

「ごめんなさい~~~~い!」

 うぇ~んと泣き出すリカルド。食事会はグダグダになり終わった。



~~~~~~~~~~

 
 
「てなことがあったんだよ」

「は、はあ」

 トリスタンの過去話が終わり、俺は気の抜けた返事をしていた。

「要するにリカルドのアホさ加減に呆れてお兄さんがやっぱり家を継ごうと思ったってことですか?」

「そういうことだね」

 優雅にお茶を口に運ぶお兄さん。

「そのときからこいつ社交大丈夫なのかと疑念を抱き、その後もなんともおまぬけな言動を繰り返すのを見て、あ、これは長としては駄目なタイプだと察したよ」

「…………そうですか」

「本当に色々と優秀?もはや天才レベルなのになんとも残念な弟だと思わないかい?まあそこが可愛くもあるんだが」

「仲が良くていいことですね…………」

 うんうんと頷くトリスタンに呆れてそれだけしか言えない俺だった。



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