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ハロウィンの夜
しおりを挟む今日はハロウィン。
ガチ三十一日当日だ。土曜日だから、街は混んでいた。色んな仮装をした人が駅前を歩いている。
どう見ても関係ないじゃん、っていう社会現象にもなったアニメ「汚物のサリバン」の恰好の人がやたら目につく。
和柄可愛いな。自分には似合わないだろうけど。
私は今日は、実につまらない格好をしていた。
今日は女子会じゃない。ハロウィン合コンになってしまったからだ。
友人たちから「てめぇええ、お色気うっふんな恰好してきたら殺すぞ、あたしたち純日本人に勝ち目ないじゃん」と脅されたのだ。
だから今日は、カントリー風のカボチャ色のロングスカートに、普通のニット姿だった。女の友情なんてこんなものだ。
ただし、男性陣とは初めて会うので、目印としてネコミミを付けている。
田沢さんは営業だけあって顔が広い。A社のほかに、足りないメンツを大学時代の友人から呼んだり、設備業者に声かけたり……けっきょくすごく人数が増えてしまった。
まあ、どうでもいい。瞼は腫れてひどい顔をしてるし、そういう気分にはなれない。
あの後抜け殻状態で、思い出しては泣き、泣いては思い出して過ごした。
全部妄想だったと思うと、どうしようも無くイタいやつだ。
だけどあまりにリアル過ぎて、私は去年よりも深く傷ついてしまった。
あの物件は、まだ売れていない。
幹事の私は、念のためもう一度店に予約の確認をする。しゃがんだままスマホをしまった時、目の前に革靴。ずいぶんいいブランド履いてるじゃん、田沢さん。勝負靴か?
でも──。
「田沢さん遅い。男性側の幹事なんだから、もっと早く──」
立ち上がって目を見開いた。私の中の時が、止まる。
目の前にルジェクが居た。
周囲の人が振り返るくらい長身で……スーツ姿の。
「ルジェ……うそ」
「ああ、ヨカッタ」
少し訛りのある日本語。
「ずっとオレの夢に出てきてた、ネコミミ魔女……やっと会えたネ」
優しい笑顔で言われて、私は思わず彼に抱きついていた。
「騎士のコスプレしないの?」
その耳に囁く。
「あれはコスプレじゃなかったらしいヨ。俺の中じゃ、ほんとうにとある領地の騎士設定ダッタ。シャワーもシャンプーも、なにも無い時代の騎士」
困惑顔。それでも彼は、私をしっかり抱きしめ返し、私の髪に顔を埋めた。ネコミミを歯でひっぱりながら、ああこの匂いだ、懐かしい、と呟いている。
「日本語ペラペラに話せていたのにね。なんかしゃべり方変……もう二度と、会えないかと思った」
「オレも──。まさか馬車にはねられて、異世界転生するナンテネ。ある日突然前世の記憶を思い出した……って言ったら、日本の友達、なんのライトノベルだよ、って笑うんだ」
私は、お姉さんの小説の続きを読まなかった。
私物が残ってましたよ、と社長に返してしまった。
本当にただの妄想だったように思えて怖かったのもあるけれど、あの小説の最後は悲しすぎる結末だと思い込んでいたから。
社長は言っていた。
「亡くなる前に、姉は後悔してた。何度か失敗したくらいで、恋愛を怖がるんじゃなかったってね。若い頃、もっと経験しておけば、創作の肥やしにもなったのにって……」
まあ、独身も気楽だけどね、と社長はウィンクしてみせて、姉の遺品をデスクにしまった。
もしかしてそこには書いてあったのかもしれない。本の中の騎士が、馬車にはねられて転生するところまで。
ルジェクにそっくりな彼は、ハンカチを取り出して私の目元を拭う。それから低い声でこう聞いた。
「ところで、あのぐるぐるキャンディ、持ってるカイ?」
田沢さん含め、今日のメンバーが集まってきたとき、私は彼にしがみついたままわんわん泣いていたらしい。
「俺の大学の留学生だった、ルーファウス君だ。今は大手外資系デベロッパーの管理職で、この辺りの駅前再開発事業を手掛けることになっ……聞けよ! 紹介する前にさっそく今日一押しのエリートに手を付けるなんて、なんてあざといやつだ! お前の友人たちの目、死んでるぞ」
大丈夫。だって、集まってきた私の友人たちは、切り替えが早い。みんなもう田沢さんを見てるから。
だから田沢さんも、もう女はこりごりなんて言わないで。
もう一度信じてみて。
例えばそれは、合体から始まったっていいのかもしれない。
だってハロウィンの夜は、奇跡が起きるかもしれないんだから。
完
ご愛読ありがとうございました。
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これも面白かったです。ありがとうございました。
ウオオオオアアアア\( 'ω')/アアアアアッッッッ!!!!!
こちらもお読みくださいありがとうございます! そうか、こちらもモブレ無しの安心設計!
ハロウィン用のやつです!
✧*。٩(ˊᗜˋ*)و✧*。
また来年のハロウィンに違うの載せますので、よろしくお願いします❤