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1巻
1-3
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「僕は卒業後、彼女の献身的な国民への奉仕に心を打たれた。宮廷に咲く悪の紫薔薇と言われていたエディンプール公爵令嬢が、これほど思慮深く慈愛に溢れた女性であったとは思わなかったのだ」
ローレッタ様が、献身的で優しい!?
「わたくし、彼女が刺客を雇ったり毒を盛ったりしたというのは、信憑性に欠けると思いますの」
ローレッタ様は必死といえるほど、声高に言い募る。でも、今さら私を庇おうとするのはなぜ?
私にはそのすべてが白々しく思えた。
案の定、ローレッタ様を見るクリフォード様の目尻は、ますます優しく下がっていく。
「僕は本当に見る目がないな……。外面が悪すぎるよ、ローレッタ。中身はまるで天使じゃないか。しかしねローレッタ、弑逆者を赦すわけにはいかない。判決は覆せない」
「いいえ、まだ暗殺事件のことすら公にはなっておりません。考えてみてください。陛下が暗殺されそうになったことが明るみに出れば、王宮の警備の甘さが露呈してしまいますし、国内の反勢力に隙を見せることになりますわ! 公爵家当主がローレンス王子の継承権の放棄を促したところで、親族の中にはまだ王子が王太子になることを諦めていない者もいます。ですから、クリフォード様が頼めばきっと、なかったことにできるはず」
早口で並べ立てるローレッタ様に、クリフォード様は口元を綻ばせた。とろけそうな表情に、私の胸の内がズタズタになる。全部、私だけのものだった。
「君は頭もいいのだな、ローレッタ」
彼女が何か言えば言うほど、印象がよくなっていく。つまり、私を庇うのはローレッタ様の計算に違いない。私はギリッと奥歯を噛み締めた。
「では、僕からの求婚を受けてくれるのかい? もし君が僕を許してくれて、もう一度正式に僕の婚約者になってくれるなら、この者やその家族にも、陛下の恩赦がくだるだろう」
ローレッタは頭を抱えている。
「ヤンデレ怖っ……やっぱ領地でスローライフがいいわ……でもゲーム内とはいえ人の命がかかってる!」
ブツブツ理解不能な独り言を呟いていたけれど、やがて諦めたようにローレッタ様は頷いた。
「分かりましたわ。まだどこかに分岐点があるかもしれないし。ヤンデレ溺愛ルート──いえ、殿下の求婚をお受けします!」
クリフォード様の顔がパッと輝く。
「婚約を破棄した僕を許してくれるなんて! では、君に証明しよう。僕はもうニーナに未練などないのだと!」
「いえいえ、結構です、早く解放してあげてくださいませ!」
ローレッタ様が叫ぶも、悦に入ったクリフォード様は、背後に控える騎士様に命じた。
「ノワール。ニーナを犯せ、我々の目の前で」
※ ※
殿下にそう命じられ、悪趣味だな、と俺は思った。元恋人の下した命令に凍りついた娘は、入学してすぐ殿下の心を掴んだ魔性の女、恐れ多くも王族の結婚を邪魔した愚か者だ。王族の婚姻関係など、触れてはいけない伏魔殿なのに。
このニーナという娘、顔は見るからに純粋そうな童顔である。マシュマロのようなふくふくした頬に、若草色の明るい瞳、柔らかそうなクリームブロンド、そして人に癒しを与える家庭的な雰囲気を持っていた。
それなのに、胸と尻は世のすべての女が羨ましがるような大きさと形で、計算なのだろう、触ってくださいと言わんばかりに突き出し、フリフリ動かしながら歩くのだ。アヒルか!
分かりやすいアピールだというのに、つい目で追ってしまう自分に苛立ったものだ。
性格も、一瞬で距離を詰めてくる馴れ馴れしさ。ケツの青い男子学院生たちが、ハートを撃ち抜かれるのも分かる気がする。要するに、あざといのだ。だが、まさか人間不信の王太子殿下まで骨抜きにされるとは、正直思わなかった。
そして違う意味で俺も騙された。殿下の寵愛を受けて調子づいた、ただの身の程知らずのアホだと思っていたのに、まさか国王の暗殺をたくらむほどの悪人だったなんて……
だがここまでお粗末な計画しか立てられなかったとなると、悪人であり、かつアホなのだろうか。まず刺客がド素人だった。王宮の衛兵ごときに簡単に見つかり、しかもいとも簡単に投降したと聞く。
それだけではない。王室騎兵隊の面々が拷問の準備をして勇んで尋問室に向かったのに、刺客は爪一枚剥がす前にあらいざらいペラペラとしゃべってきた。この娘が股を開いて、国王陛下を殺せば、もっと気持ちいい思いをさせてあ・げ・る、と誘惑してきたのだとか。
いや……やらないだろう、普通。女に誘惑されたくらいで、国王暗殺などという大それた罪を犯そうとするだろうか。俺はすっかり困惑していた。国王を手にかけたら気持ちいい思いどころか、苦痛を伴った処刑となる。
「たかが女のために、そこまでするものか? 未遂だろうと極刑に違いないのに」
尋問の後で俺がその疑問を口にすると、専属騎士仲間のドレとルージュは肩をすくめた。
「性への欲望ってのは、時に人を狂わせる」
「ニーナたん……いや、あの女の手管はすごいよ」
「俺たち王室騎兵隊のエリート騎士たちだけじゃなく、王宮の衛兵にまで差し入れを持ってきていただろ? 隠れファンは多かったぜ」
「今思えば、王宮に入り込むための根回しだったのかなぁ。怖いねぇ」
「妹属性で甘えん坊でちょっぴり我儘なところとか、鼻にかかった声とか、小悪魔っぽくてタイプだったのに」
「萌え~って気持ち分かる? お前クソ真面目だから分からないだろうなー」
「スタ──いや、ノワールは母親がヤリマンだったから超女嫌いだしな。童貞だっけ?」
「童貞じゃない!」
最後にだけ強く反論した俺である。
各自お互いを黒だの金だの赤だの呼んでいるのは、殿下の希望により、髪の色に因んだ騎士名を名乗るように言われているからだ。二つ名で呼ばれるようになると、伝説の騎士みたいでカッコイイから、だそうだが……いい歳して恥ずかしいな!
女嫌いなのは本当のことだが、専属騎士にはハニートラップによる懐柔に備え、定期的に性欲を解消させなければならないといううっとうしい隊則があるため、断じて童貞ではない。それゆえに、女の性的な部分においての魅力は分かっているつもりである。
その点から見れば、ニーナという娘は確かに魅力的だ。おそらく、世の男子たちの理想に近いのではないか。ローレッタ様のような近寄りがたい美女ではなく、気さくで手近な町娘という感じが男心を掴むのだ。正直俺だって可愛いとは思う。
ただ俺は、交際するなら俺だけ愛してくれる女がいい。あちこちにいい顔をするのはもちろん、俺の母親のように惚れっぽい恋愛脳なんかはごめんだ。
ニーナという娘は分け隔てなく愛想を振りまき、その可愛らしい笑顔で男どもに多大な期待をさせる。娼婦が誰にでも媚びるのは立派な仕事だが、普通の娘がそれでは、男どもは絶対に勘違いする。もうビッチという言葉以外は思い当たらない。
彼女が上級者だと思ったのは、貴族間の派閥争いで幼い頃から暗殺の危機にさらされていた人間不信の王太子殿下ですら、篭絡したことだ。殿下の前ではウブそうに振舞っているが、相当男と遊んでいたのではないか。
なにせ、一般人の男の理性をすっ飛ばし、刺客に仕立て上げるほどの床上手だからな。
「早くしろ、ノワール」
殿下の声に、俺はハッと我に返った。
「その女を辱めろ」
いやいや冗談じゃないぞ。何言ってんだこいつ──じゃない、殿下。俺はイラッとした。いくら忠誠を誓った主君とはいえ、そんな命令まで聞く義理は──
──義理は実はある。
専属騎士契約の際に、どんな命令も聞くという契約書に判を押している。その代わり、あり得ないほどの俸給をもらえるのだ。
「……できません」
婦女子を無理矢理犯すなど、高潔な騎士ができるわけがない。王太子殿下の目が吊り上がる。
「ほう。暗殺者を、何もなかったかのように解放しろと?」
「しかし──」
俺はローレッタ様に目線を移した。彼女だって望んでいないように思える。必死で王太子の胸を叩き、お考え直しください、と訴えているじゃないか。それなのに殿下は、むしろ楽しんでいるように見えた。殿下は、こんな残忍な性格だったか?
「ローレッタ、僕はこの者にこれ以上の慈悲はかけたくない。処刑と辱め、二択ならどちらがいい?」
ローレッタ様が黙り込む。小さく、ヤンデレ化ってこんなのだったっけ? あのゲームってエロゲだったっけ? と苦痛に満ちた声で零したが、俺にはなんのことか分からなかった。
「やれ、ノワール。僕が満足するまで、彼女を犯せ」
殿下は再び俺に命じ、牢番の男を呼びつけて革張りの椅子を用意させる。どっかりと腰かけて膝にローレッタ様を乗せ、見物する気満々だ。本気か? 黒い手袋をした手の平がじっとりと湿った。
なんだか急に人が変わったかのようだな。そう、ローレッタ様も確かそうだった。
「殿下──」
「専属騎士契約の間、僕の命令は絶対だよな? 国王とガイアス神に宣誓しているはずだ」
鉄格子の中、ニーナがいやいやをするように首を振っている。
「いやよ、クリフォード様どうして──」
「ニーナ、この僕を裏切ったのに、何も罰を受けないというのは虫がいい話ではないか。それとも、一家で四つ裂きがいいのかい?」
ひぃぃっ、とニーナが震え上がった。殿下は顎で俺を促す。
「ノワールよ。お前が欲しがっていたブリトニーをやろう」
俺は息を呑んだ。
「……やります」
鉄格子の扉を開け、くぐって中に入ると、ニーナは警戒して後ずさった。なによ、ブリトニーって誰よ、と喚いている。
柔らかなクリームブロンドの猫っ毛が、恐怖に固まる顔をふんわり覆っている。上着を脱ぎながら近づくと、大きな目がますます見開かれた。怯えた若草色の瞳が加虐心をそそる。確かにこれには、普通の男ならやられそうだな……
不吉な血の色をした俺の瞳は、さぞ彼女を怖がらせているだろう。
「やめてよ」
「すぐ終わる」
こっちだって人前で女を犯すなんてしたくない。命令されて強姦なんて、勃つかどうかも怪しい。
だが、契約違反はできない。王族の直属騎士は契約の間、理不尽な命令以外すべて聞かなければならないのだ。死刑の代わりの辱めは、理にはかなっている。あと、ブリトニーは喉から手が出るほど欲しい。
俺は逃げようとした彼女を羽交い絞めにし、足をかけて引き倒した。
「助けて!」
明るい色の瞳が、キュッと委縮した。俺は可哀そうになってしまい、適当に犯っているようにごまかせないかと、牢の外に目をやる。殿下はローレッタ様を抱きしめながら、面白そうにこちらを凝視していた。
俺は舌打ちする。どうやら拗らせたあげくふっきれたこの王太子は、変な趣味に目覚めたらしい。給料はバカみたいにいいがストレスも多い専属騎士の職。次は契約を更新せず退職しよう。
身寄りがなく寂しいのか、祖父から実家に帰ってこないかと打診もしつこい。早く戻って安心させてあげたい。母と俺は、彼から金銭的援助を受けてきた。恩があるのだ。
何より、王族に振り回されるのはもう真っ平だった。
「報いを受けさせてやれ」
顎で急かされ、俺は息をついた。こいつの命令を聞くのは、これが最後。さっさと済ませてしまおう。
仕方なく、怯えるニーナの胸衣を、思いきり剥がしていた。コルセットに押し上げられた、大きな二つの塊が現れる。
「──っ」
けっこうパンチがあるな。
俺は愚かな犯罪者の乳房ごときに、股間が熱くなるのを悔しく思った。顔があどけないから、そのアンバランスさがよけいいやらしいのか……。さすが、殿下を篭絡した淫婦だ。
殿下は腐っても王太子。幼い頃から厳しい帝王学を身に着けており、忍耐強いところがある。俺もドレやルージュらと共に、殿下とこの女が二人きりにならないよう四六時中見張っていた。イチャイチャまではいいが、本番には至らせてはならないと、必死だった。その甲斐あって、殿下とこの女に体の関係はまだないはずだが、もし妊娠でもしようものなら、管理責任を問われて我々専属騎士の首が飛んでいたところだ。庶子とはいえ、殿下が洗脳された状態では、王位継承権を認めろとごねかねない。
昨今の流行である貴族の恋愛結婚のせいでこの娘は期待してしまったようだが、王族の政略結婚はそんなに簡単なことではないのに……
「自分の魅力と頭の悪さを呪え」
言ってから、これでは半分褒め言葉みたいだな、と俺は思った。背後の殿下を気にして、わざと蔑んでやる。
「お前の実家に、梅毒の薬があったよな? 病気を移されたらかなわ──」
思いきり頬を張られていた。ニーナの大きな若草色の瞳が、真っすぐに俺を貫いていた。俺はそれを見てドキッとなる。
「いいかげんにして、やめてよ」
「極刑よりはいいだろう」
「死んだ方がましよ」
想像していた反応と違う。ビッチならすぐに観念して、大人しく股を開くかと思っていたのに。俺は戸惑った。しかしここでやめれば、せっかくの公爵令嬢の温情が無駄になってしまう。
「ローレッタ様の優しさを甘受するんだな」
殿下の機嫌を損ねれば陛下に話はいかず、このままでは本当に一家で大逆罪だ。
「やだっ」
俺は彼女を押さえつけて無言でコルセットを引き下げ、大きくシュミーズも裂く。ニーナは悲鳴をあげた。暴れるので、露わになった乳房がふるふる揺れ、俺に妙な気を起こさせる。
「大っ嫌い」
濡れた大きな瞳から涙が溢れ、ポロポロ零れ落ちる。俺の胸が抉れた。これが魔性の女か。くそっ、今さらカマトトぶるな。
「やめさせてください、クリフォード様!」
背後を窺うと、殿下はじっと元恋人の娘を見据えていた。
「クリフォード様、どうしてこんなことをお命じになるのですか! 私のこと、愛してないの?」
情などに訴えても、もう無駄だ。殿下の愛はローレッタ様に移っている。それが分からないのか?
男女の関係など、一方が冷めれば終わりなんだよ。
「平民の分際で名を呼ぶなニーナ。汚らわしい。王太子殿下と呼べ」
侮蔑に満ちた声でそう返した殿下は、一転して愛おしそうにローレッタ様の体をまさぐりだす。初夜まで待てない、といった雰囲気に呆れた。まあ、いいか。相手はエディンプール公爵令嬢だ。彼女になら、どこで盛ろうと構わない。
その時思った。こちらを注視していない今なら、ごまかせるか?
ニーナを見下ろすと、また殿下に向かって助けを求めようと、口を開くところだった。
「静かにしろっ」
ダメだ、殿下の注意を引くんじゃないっ!
手を伸ばすと、彼女は悲鳴をあげた。俺は舌打ちする。
「黙れ」
「触らないでっ!」
思わず、揺れる乳房を鷲掴みしていた。革の手袋越しにでも分かる、柔らかく、それでいて弾力のあるむっちりした肉の感触が。股間が熱くなる。この女は断じて魅力的などではない、売女だ。
「ひねりつぶすぞ、黙れ」
ニーナが恐怖のあまり、息を止める。
ところが、いつまでも命令を実行しない俺についに気づいたのか、殿下の横柄な声がした。
「騎士の忠誠は偽りか? 無駄に給料だけもらっていたのか?」
厳しい叱責。俺はプライドを傷つけられ、息をついた。騎士など、なるものではないな。
俺は意を決しフリルのたくさん付いたドレスの裾をめくり上げ、指先を噛んで革の手袋を引っこ抜いた。
「今さらしおらしくするな、売女め!」
殿下に聞こえるように、そう吐き捨てる。靴下留めが外れ、むき出しになった太ももに手を這わせると、しっとりした生肌の手触りにゾクッとなる。ニーナは俺を睨みつけた。
その挑むような視線に貫かれ、妙な感情が湧き起こった。この絶望的な状況で、彼女は屈服しようとしない。これがビッチだって?
柔らかい二つの腿の奥に体を入り込ませ、己のモノを取り出して、彼女の下着をずらす。ニーナの体がますます強ばった。
これでは痛いだろうな、濡れていないし……。彼女はビッチ。男など受け入れ慣れているだろうが、それでも俺のイチモツは大きすぎる。
「…………っ」
覚悟を決めたはずなのに、俺はそこでまた躊躇してしまった。すると興ざめしたような殿下の小さな声が聞こえた。
「お前がやらないなら、ドレとルージュを呼ぶか」
俺は一気に青ざめていた。屈強なドレがこの女を後ろから羽交い締めにし、チャラいルージュが彼女のなめらかな脚を大きく開かせ、泣き喚くのも構わず汚い雄を突き立てる。そんな光景が浮かんだからだ。吐き気がした。あいつらは楽しんでやるだろう。何度も、何度も。この娘が壊れるまで。
俺は深い息を吐いた。ニーナが長いまつ毛を揺らして目を開き、問いかけるように俺を見上げてくる。
「耐えろ、これは、鞭打ちと同じようなもの、刑罰だ」
一家で処刑となるのだけは、阻止しなければならない。俺は彼女に覆いかぶさった。
「なるべく痛まないようにするから」
悪女だと分かっているのに、宥めるような優しい口調になっていた。
※ ※
淫婦とか売女とか乱暴な言葉で辱めながらも、彼の手つきがやけに優しいことに私は気づいた。ローレッタ様に愛を囁く殿下の声が聞こえる。まるでその声に合わせるかのように、彼の手が髪や頬を撫でてくることに戸惑った。
「少し慣らす」
小声でそう囁いた彼の表情に蔑みはなく、むしろ真剣で事務的だった。私の体から力が抜ける。
「いい子だ」
そう言ったノワール様の目は思ったより怖くなかった。彼の無骨な手が、スカートの奥に滑り込んでくる。
「ひっ」
脚の奥にある襞をめくられたことにショックを受けた。誰にも触らせたことのない秘密の場所を、嫌いな騎士に素手で触られているのだ。嫌悪しか湧いてこない。
「目をつぶって、相手を俺だと思うな。ただ感じるんだ」
再び低い声で囁かれて、私は目をつぶる。俺だと思うなって、他に誰だと思えばいいの。私を痛めつけるように命じている張本人のクリフォード様? ノワール様は私の表情を見て察したのか、困ったように助言した。
「自慰だと思え」
自慰もやったことがないのだけど──そう思った次の瞬間、秘部をまさぐっていた指が、何かを摘んだ。そんな場所があることすら、私は知らなかった。知らなかったのに、ビリッと刺激が走って腰が跳ねていた。
今の……? 戸惑って目を開くとノワール様と目が合う。大きな手の平が私の瞼を撫で、再び閉じさせた。
その時再びクリフォード様の叱責が響いた。
「ノワール、サボっていないか」
「この身の程知らずの平民女め!」
咄嗟に叫んでから、ノワール様は腰を乱暴に動かすふりをする。しかしその手は相変わらず秘部をまさぐり、優しくほぐしてくれているのだ。さらに、胸の先端にも刺激が走った。ソフトに、しかし執拗に転がされ、なんとなく下腹部がソワソワする。
「殿下、こんなところでおやめください!」
突然ローレッタ様の悲鳴が聞こえた。目を開けてそちらに視線をやると、ローレッタ様まで半分剥かれている。なんてことだろう。クリフォード様はこの異様な状況に自分まで盛り上がってしまい、ローレッタ様相手にいやらしいことを──
「少し濡れたかな」
クリフォード様を気にしていた私は、彼が言った言葉に反応できなかった。直後潜り込んできた指に、苦痛の呻きをあげる。ノワール様が怪訝そうな顔をした。
「え……やけにキツい──」
「ノワール、終わったか? お前の黒の騎士は炸裂したか?」
急かす声が牢に響き、クソッとノワール様が吐き捨てた。彼は小さくすまない、と呟く。次の瞬間私の秘部に、何か灼熱の硬いモノが押し当てられた。押し入ってくるそれはあまりにも尊大でまるで凶器だった。私はたまらず叫び声をあげていた。
※ ※
何度目かという引き裂かれるような痛みの後、お腹の辺りに温かい物がブチまかれた。なんだろ、これ。……おしっこ?
「危なく中出しするところだった。きつすぎて」
ノワール様が荒い息と共に呟いたのを、私はまるで夢の中の出来事のように薄い膜を通した遠くに聞いていた。
泣きすぎてビチョビチョの顔のまま、天井をぽっかり見つめている私は、彼が涙を拭いてくれたことにもしばらく気づかなかった。
「これで刑は執行されたから」
そっと囁く黒の騎士。いつものあの蔑みに満ちた、辛辣な口調じゃないのが不思議だった。真紅の瞳には、哀れみと罪悪感のようなものさえ見て取れた。乱暴にされなかったことは、唯一の救いだった。
体温が遠ざかる。ノワール様が私から離れたから、地下の冷気が肌を刺したのだ。
黒の騎士は自分の身支度を整えながら、気まずそうに言う。
「服を裂いてしまった。代わりの服を持ってこさせる」
「裸のまま、放り出せばよいではないか」
クリフォード様の心ない言葉に、私の中で何かが壊れた。彼はローレッタ様を抱き上げて、私に冷たい一瞥をくれてから出口へと向かう。
「ローレッタ、僕の部屋に行こう。ノワールの恍惚とした顔を見ていたら我慢できなくなった」
「恍惚となど、していませんっ!」
心外そうにぴしゃりと否定した黒の騎士と、焦れたようにローレッタ様を運ぶ恋人だった人の背中をぼんやり眺め、私は首を傾げた。別にどうでもいい。恋人以外には見せてはいけないと言われていた裸を晒したままだけど、不思議と体を隠そうという気にならない。羞恥という概念が働かなかった。
ローレッタ様が、献身的で優しい!?
「わたくし、彼女が刺客を雇ったり毒を盛ったりしたというのは、信憑性に欠けると思いますの」
ローレッタ様は必死といえるほど、声高に言い募る。でも、今さら私を庇おうとするのはなぜ?
私にはそのすべてが白々しく思えた。
案の定、ローレッタ様を見るクリフォード様の目尻は、ますます優しく下がっていく。
「僕は本当に見る目がないな……。外面が悪すぎるよ、ローレッタ。中身はまるで天使じゃないか。しかしねローレッタ、弑逆者を赦すわけにはいかない。判決は覆せない」
「いいえ、まだ暗殺事件のことすら公にはなっておりません。考えてみてください。陛下が暗殺されそうになったことが明るみに出れば、王宮の警備の甘さが露呈してしまいますし、国内の反勢力に隙を見せることになりますわ! 公爵家当主がローレンス王子の継承権の放棄を促したところで、親族の中にはまだ王子が王太子になることを諦めていない者もいます。ですから、クリフォード様が頼めばきっと、なかったことにできるはず」
早口で並べ立てるローレッタ様に、クリフォード様は口元を綻ばせた。とろけそうな表情に、私の胸の内がズタズタになる。全部、私だけのものだった。
「君は頭もいいのだな、ローレッタ」
彼女が何か言えば言うほど、印象がよくなっていく。つまり、私を庇うのはローレッタ様の計算に違いない。私はギリッと奥歯を噛み締めた。
「では、僕からの求婚を受けてくれるのかい? もし君が僕を許してくれて、もう一度正式に僕の婚約者になってくれるなら、この者やその家族にも、陛下の恩赦がくだるだろう」
ローレッタは頭を抱えている。
「ヤンデレ怖っ……やっぱ領地でスローライフがいいわ……でもゲーム内とはいえ人の命がかかってる!」
ブツブツ理解不能な独り言を呟いていたけれど、やがて諦めたようにローレッタ様は頷いた。
「分かりましたわ。まだどこかに分岐点があるかもしれないし。ヤンデレ溺愛ルート──いえ、殿下の求婚をお受けします!」
クリフォード様の顔がパッと輝く。
「婚約を破棄した僕を許してくれるなんて! では、君に証明しよう。僕はもうニーナに未練などないのだと!」
「いえいえ、結構です、早く解放してあげてくださいませ!」
ローレッタ様が叫ぶも、悦に入ったクリフォード様は、背後に控える騎士様に命じた。
「ノワール。ニーナを犯せ、我々の目の前で」
※ ※
殿下にそう命じられ、悪趣味だな、と俺は思った。元恋人の下した命令に凍りついた娘は、入学してすぐ殿下の心を掴んだ魔性の女、恐れ多くも王族の結婚を邪魔した愚か者だ。王族の婚姻関係など、触れてはいけない伏魔殿なのに。
このニーナという娘、顔は見るからに純粋そうな童顔である。マシュマロのようなふくふくした頬に、若草色の明るい瞳、柔らかそうなクリームブロンド、そして人に癒しを与える家庭的な雰囲気を持っていた。
それなのに、胸と尻は世のすべての女が羨ましがるような大きさと形で、計算なのだろう、触ってくださいと言わんばかりに突き出し、フリフリ動かしながら歩くのだ。アヒルか!
分かりやすいアピールだというのに、つい目で追ってしまう自分に苛立ったものだ。
性格も、一瞬で距離を詰めてくる馴れ馴れしさ。ケツの青い男子学院生たちが、ハートを撃ち抜かれるのも分かる気がする。要するに、あざといのだ。だが、まさか人間不信の王太子殿下まで骨抜きにされるとは、正直思わなかった。
そして違う意味で俺も騙された。殿下の寵愛を受けて調子づいた、ただの身の程知らずのアホだと思っていたのに、まさか国王の暗殺をたくらむほどの悪人だったなんて……
だがここまでお粗末な計画しか立てられなかったとなると、悪人であり、かつアホなのだろうか。まず刺客がド素人だった。王宮の衛兵ごときに簡単に見つかり、しかもいとも簡単に投降したと聞く。
それだけではない。王室騎兵隊の面々が拷問の準備をして勇んで尋問室に向かったのに、刺客は爪一枚剥がす前にあらいざらいペラペラとしゃべってきた。この娘が股を開いて、国王陛下を殺せば、もっと気持ちいい思いをさせてあ・げ・る、と誘惑してきたのだとか。
いや……やらないだろう、普通。女に誘惑されたくらいで、国王暗殺などという大それた罪を犯そうとするだろうか。俺はすっかり困惑していた。国王を手にかけたら気持ちいい思いどころか、苦痛を伴った処刑となる。
「たかが女のために、そこまでするものか? 未遂だろうと極刑に違いないのに」
尋問の後で俺がその疑問を口にすると、専属騎士仲間のドレとルージュは肩をすくめた。
「性への欲望ってのは、時に人を狂わせる」
「ニーナたん……いや、あの女の手管はすごいよ」
「俺たち王室騎兵隊のエリート騎士たちだけじゃなく、王宮の衛兵にまで差し入れを持ってきていただろ? 隠れファンは多かったぜ」
「今思えば、王宮に入り込むための根回しだったのかなぁ。怖いねぇ」
「妹属性で甘えん坊でちょっぴり我儘なところとか、鼻にかかった声とか、小悪魔っぽくてタイプだったのに」
「萌え~って気持ち分かる? お前クソ真面目だから分からないだろうなー」
「スタ──いや、ノワールは母親がヤリマンだったから超女嫌いだしな。童貞だっけ?」
「童貞じゃない!」
最後にだけ強く反論した俺である。
各自お互いを黒だの金だの赤だの呼んでいるのは、殿下の希望により、髪の色に因んだ騎士名を名乗るように言われているからだ。二つ名で呼ばれるようになると、伝説の騎士みたいでカッコイイから、だそうだが……いい歳して恥ずかしいな!
女嫌いなのは本当のことだが、専属騎士にはハニートラップによる懐柔に備え、定期的に性欲を解消させなければならないといううっとうしい隊則があるため、断じて童貞ではない。それゆえに、女の性的な部分においての魅力は分かっているつもりである。
その点から見れば、ニーナという娘は確かに魅力的だ。おそらく、世の男子たちの理想に近いのではないか。ローレッタ様のような近寄りがたい美女ではなく、気さくで手近な町娘という感じが男心を掴むのだ。正直俺だって可愛いとは思う。
ただ俺は、交際するなら俺だけ愛してくれる女がいい。あちこちにいい顔をするのはもちろん、俺の母親のように惚れっぽい恋愛脳なんかはごめんだ。
ニーナという娘は分け隔てなく愛想を振りまき、その可愛らしい笑顔で男どもに多大な期待をさせる。娼婦が誰にでも媚びるのは立派な仕事だが、普通の娘がそれでは、男どもは絶対に勘違いする。もうビッチという言葉以外は思い当たらない。
彼女が上級者だと思ったのは、貴族間の派閥争いで幼い頃から暗殺の危機にさらされていた人間不信の王太子殿下ですら、篭絡したことだ。殿下の前ではウブそうに振舞っているが、相当男と遊んでいたのではないか。
なにせ、一般人の男の理性をすっ飛ばし、刺客に仕立て上げるほどの床上手だからな。
「早くしろ、ノワール」
殿下の声に、俺はハッと我に返った。
「その女を辱めろ」
いやいや冗談じゃないぞ。何言ってんだこいつ──じゃない、殿下。俺はイラッとした。いくら忠誠を誓った主君とはいえ、そんな命令まで聞く義理は──
──義理は実はある。
専属騎士契約の際に、どんな命令も聞くという契約書に判を押している。その代わり、あり得ないほどの俸給をもらえるのだ。
「……できません」
婦女子を無理矢理犯すなど、高潔な騎士ができるわけがない。王太子殿下の目が吊り上がる。
「ほう。暗殺者を、何もなかったかのように解放しろと?」
「しかし──」
俺はローレッタ様に目線を移した。彼女だって望んでいないように思える。必死で王太子の胸を叩き、お考え直しください、と訴えているじゃないか。それなのに殿下は、むしろ楽しんでいるように見えた。殿下は、こんな残忍な性格だったか?
「ローレッタ、僕はこの者にこれ以上の慈悲はかけたくない。処刑と辱め、二択ならどちらがいい?」
ローレッタ様が黙り込む。小さく、ヤンデレ化ってこんなのだったっけ? あのゲームってエロゲだったっけ? と苦痛に満ちた声で零したが、俺にはなんのことか分からなかった。
「やれ、ノワール。僕が満足するまで、彼女を犯せ」
殿下は再び俺に命じ、牢番の男を呼びつけて革張りの椅子を用意させる。どっかりと腰かけて膝にローレッタ様を乗せ、見物する気満々だ。本気か? 黒い手袋をした手の平がじっとりと湿った。
なんだか急に人が変わったかのようだな。そう、ローレッタ様も確かそうだった。
「殿下──」
「専属騎士契約の間、僕の命令は絶対だよな? 国王とガイアス神に宣誓しているはずだ」
鉄格子の中、ニーナがいやいやをするように首を振っている。
「いやよ、クリフォード様どうして──」
「ニーナ、この僕を裏切ったのに、何も罰を受けないというのは虫がいい話ではないか。それとも、一家で四つ裂きがいいのかい?」
ひぃぃっ、とニーナが震え上がった。殿下は顎で俺を促す。
「ノワールよ。お前が欲しがっていたブリトニーをやろう」
俺は息を呑んだ。
「……やります」
鉄格子の扉を開け、くぐって中に入ると、ニーナは警戒して後ずさった。なによ、ブリトニーって誰よ、と喚いている。
柔らかなクリームブロンドの猫っ毛が、恐怖に固まる顔をふんわり覆っている。上着を脱ぎながら近づくと、大きな目がますます見開かれた。怯えた若草色の瞳が加虐心をそそる。確かにこれには、普通の男ならやられそうだな……
不吉な血の色をした俺の瞳は、さぞ彼女を怖がらせているだろう。
「やめてよ」
「すぐ終わる」
こっちだって人前で女を犯すなんてしたくない。命令されて強姦なんて、勃つかどうかも怪しい。
だが、契約違反はできない。王族の直属騎士は契約の間、理不尽な命令以外すべて聞かなければならないのだ。死刑の代わりの辱めは、理にはかなっている。あと、ブリトニーは喉から手が出るほど欲しい。
俺は逃げようとした彼女を羽交い絞めにし、足をかけて引き倒した。
「助けて!」
明るい色の瞳が、キュッと委縮した。俺は可哀そうになってしまい、適当に犯っているようにごまかせないかと、牢の外に目をやる。殿下はローレッタ様を抱きしめながら、面白そうにこちらを凝視していた。
俺は舌打ちする。どうやら拗らせたあげくふっきれたこの王太子は、変な趣味に目覚めたらしい。給料はバカみたいにいいがストレスも多い専属騎士の職。次は契約を更新せず退職しよう。
身寄りがなく寂しいのか、祖父から実家に帰ってこないかと打診もしつこい。早く戻って安心させてあげたい。母と俺は、彼から金銭的援助を受けてきた。恩があるのだ。
何より、王族に振り回されるのはもう真っ平だった。
「報いを受けさせてやれ」
顎で急かされ、俺は息をついた。こいつの命令を聞くのは、これが最後。さっさと済ませてしまおう。
仕方なく、怯えるニーナの胸衣を、思いきり剥がしていた。コルセットに押し上げられた、大きな二つの塊が現れる。
「──っ」
けっこうパンチがあるな。
俺は愚かな犯罪者の乳房ごときに、股間が熱くなるのを悔しく思った。顔があどけないから、そのアンバランスさがよけいいやらしいのか……。さすが、殿下を篭絡した淫婦だ。
殿下は腐っても王太子。幼い頃から厳しい帝王学を身に着けており、忍耐強いところがある。俺もドレやルージュらと共に、殿下とこの女が二人きりにならないよう四六時中見張っていた。イチャイチャまではいいが、本番には至らせてはならないと、必死だった。その甲斐あって、殿下とこの女に体の関係はまだないはずだが、もし妊娠でもしようものなら、管理責任を問われて我々専属騎士の首が飛んでいたところだ。庶子とはいえ、殿下が洗脳された状態では、王位継承権を認めろとごねかねない。
昨今の流行である貴族の恋愛結婚のせいでこの娘は期待してしまったようだが、王族の政略結婚はそんなに簡単なことではないのに……
「自分の魅力と頭の悪さを呪え」
言ってから、これでは半分褒め言葉みたいだな、と俺は思った。背後の殿下を気にして、わざと蔑んでやる。
「お前の実家に、梅毒の薬があったよな? 病気を移されたらかなわ──」
思いきり頬を張られていた。ニーナの大きな若草色の瞳が、真っすぐに俺を貫いていた。俺はそれを見てドキッとなる。
「いいかげんにして、やめてよ」
「極刑よりはいいだろう」
「死んだ方がましよ」
想像していた反応と違う。ビッチならすぐに観念して、大人しく股を開くかと思っていたのに。俺は戸惑った。しかしここでやめれば、せっかくの公爵令嬢の温情が無駄になってしまう。
「ローレッタ様の優しさを甘受するんだな」
殿下の機嫌を損ねれば陛下に話はいかず、このままでは本当に一家で大逆罪だ。
「やだっ」
俺は彼女を押さえつけて無言でコルセットを引き下げ、大きくシュミーズも裂く。ニーナは悲鳴をあげた。暴れるので、露わになった乳房がふるふる揺れ、俺に妙な気を起こさせる。
「大っ嫌い」
濡れた大きな瞳から涙が溢れ、ポロポロ零れ落ちる。俺の胸が抉れた。これが魔性の女か。くそっ、今さらカマトトぶるな。
「やめさせてください、クリフォード様!」
背後を窺うと、殿下はじっと元恋人の娘を見据えていた。
「クリフォード様、どうしてこんなことをお命じになるのですか! 私のこと、愛してないの?」
情などに訴えても、もう無駄だ。殿下の愛はローレッタ様に移っている。それが分からないのか?
男女の関係など、一方が冷めれば終わりなんだよ。
「平民の分際で名を呼ぶなニーナ。汚らわしい。王太子殿下と呼べ」
侮蔑に満ちた声でそう返した殿下は、一転して愛おしそうにローレッタ様の体をまさぐりだす。初夜まで待てない、といった雰囲気に呆れた。まあ、いいか。相手はエディンプール公爵令嬢だ。彼女になら、どこで盛ろうと構わない。
その時思った。こちらを注視していない今なら、ごまかせるか?
ニーナを見下ろすと、また殿下に向かって助けを求めようと、口を開くところだった。
「静かにしろっ」
ダメだ、殿下の注意を引くんじゃないっ!
手を伸ばすと、彼女は悲鳴をあげた。俺は舌打ちする。
「黙れ」
「触らないでっ!」
思わず、揺れる乳房を鷲掴みしていた。革の手袋越しにでも分かる、柔らかく、それでいて弾力のあるむっちりした肉の感触が。股間が熱くなる。この女は断じて魅力的などではない、売女だ。
「ひねりつぶすぞ、黙れ」
ニーナが恐怖のあまり、息を止める。
ところが、いつまでも命令を実行しない俺についに気づいたのか、殿下の横柄な声がした。
「騎士の忠誠は偽りか? 無駄に給料だけもらっていたのか?」
厳しい叱責。俺はプライドを傷つけられ、息をついた。騎士など、なるものではないな。
俺は意を決しフリルのたくさん付いたドレスの裾をめくり上げ、指先を噛んで革の手袋を引っこ抜いた。
「今さらしおらしくするな、売女め!」
殿下に聞こえるように、そう吐き捨てる。靴下留めが外れ、むき出しになった太ももに手を這わせると、しっとりした生肌の手触りにゾクッとなる。ニーナは俺を睨みつけた。
その挑むような視線に貫かれ、妙な感情が湧き起こった。この絶望的な状況で、彼女は屈服しようとしない。これがビッチだって?
柔らかい二つの腿の奥に体を入り込ませ、己のモノを取り出して、彼女の下着をずらす。ニーナの体がますます強ばった。
これでは痛いだろうな、濡れていないし……。彼女はビッチ。男など受け入れ慣れているだろうが、それでも俺のイチモツは大きすぎる。
「…………っ」
覚悟を決めたはずなのに、俺はそこでまた躊躇してしまった。すると興ざめしたような殿下の小さな声が聞こえた。
「お前がやらないなら、ドレとルージュを呼ぶか」
俺は一気に青ざめていた。屈強なドレがこの女を後ろから羽交い締めにし、チャラいルージュが彼女のなめらかな脚を大きく開かせ、泣き喚くのも構わず汚い雄を突き立てる。そんな光景が浮かんだからだ。吐き気がした。あいつらは楽しんでやるだろう。何度も、何度も。この娘が壊れるまで。
俺は深い息を吐いた。ニーナが長いまつ毛を揺らして目を開き、問いかけるように俺を見上げてくる。
「耐えろ、これは、鞭打ちと同じようなもの、刑罰だ」
一家で処刑となるのだけは、阻止しなければならない。俺は彼女に覆いかぶさった。
「なるべく痛まないようにするから」
悪女だと分かっているのに、宥めるような優しい口調になっていた。
※ ※
淫婦とか売女とか乱暴な言葉で辱めながらも、彼の手つきがやけに優しいことに私は気づいた。ローレッタ様に愛を囁く殿下の声が聞こえる。まるでその声に合わせるかのように、彼の手が髪や頬を撫でてくることに戸惑った。
「少し慣らす」
小声でそう囁いた彼の表情に蔑みはなく、むしろ真剣で事務的だった。私の体から力が抜ける。
「いい子だ」
そう言ったノワール様の目は思ったより怖くなかった。彼の無骨な手が、スカートの奥に滑り込んでくる。
「ひっ」
脚の奥にある襞をめくられたことにショックを受けた。誰にも触らせたことのない秘密の場所を、嫌いな騎士に素手で触られているのだ。嫌悪しか湧いてこない。
「目をつぶって、相手を俺だと思うな。ただ感じるんだ」
再び低い声で囁かれて、私は目をつぶる。俺だと思うなって、他に誰だと思えばいいの。私を痛めつけるように命じている張本人のクリフォード様? ノワール様は私の表情を見て察したのか、困ったように助言した。
「自慰だと思え」
自慰もやったことがないのだけど──そう思った次の瞬間、秘部をまさぐっていた指が、何かを摘んだ。そんな場所があることすら、私は知らなかった。知らなかったのに、ビリッと刺激が走って腰が跳ねていた。
今の……? 戸惑って目を開くとノワール様と目が合う。大きな手の平が私の瞼を撫で、再び閉じさせた。
その時再びクリフォード様の叱責が響いた。
「ノワール、サボっていないか」
「この身の程知らずの平民女め!」
咄嗟に叫んでから、ノワール様は腰を乱暴に動かすふりをする。しかしその手は相変わらず秘部をまさぐり、優しくほぐしてくれているのだ。さらに、胸の先端にも刺激が走った。ソフトに、しかし執拗に転がされ、なんとなく下腹部がソワソワする。
「殿下、こんなところでおやめください!」
突然ローレッタ様の悲鳴が聞こえた。目を開けてそちらに視線をやると、ローレッタ様まで半分剥かれている。なんてことだろう。クリフォード様はこの異様な状況に自分まで盛り上がってしまい、ローレッタ様相手にいやらしいことを──
「少し濡れたかな」
クリフォード様を気にしていた私は、彼が言った言葉に反応できなかった。直後潜り込んできた指に、苦痛の呻きをあげる。ノワール様が怪訝そうな顔をした。
「え……やけにキツい──」
「ノワール、終わったか? お前の黒の騎士は炸裂したか?」
急かす声が牢に響き、クソッとノワール様が吐き捨てた。彼は小さくすまない、と呟く。次の瞬間私の秘部に、何か灼熱の硬いモノが押し当てられた。押し入ってくるそれはあまりにも尊大でまるで凶器だった。私はたまらず叫び声をあげていた。
※ ※
何度目かという引き裂かれるような痛みの後、お腹の辺りに温かい物がブチまかれた。なんだろ、これ。……おしっこ?
「危なく中出しするところだった。きつすぎて」
ノワール様が荒い息と共に呟いたのを、私はまるで夢の中の出来事のように薄い膜を通した遠くに聞いていた。
泣きすぎてビチョビチョの顔のまま、天井をぽっかり見つめている私は、彼が涙を拭いてくれたことにもしばらく気づかなかった。
「これで刑は執行されたから」
そっと囁く黒の騎士。いつものあの蔑みに満ちた、辛辣な口調じゃないのが不思議だった。真紅の瞳には、哀れみと罪悪感のようなものさえ見て取れた。乱暴にされなかったことは、唯一の救いだった。
体温が遠ざかる。ノワール様が私から離れたから、地下の冷気が肌を刺したのだ。
黒の騎士は自分の身支度を整えながら、気まずそうに言う。
「服を裂いてしまった。代わりの服を持ってこさせる」
「裸のまま、放り出せばよいではないか」
クリフォード様の心ない言葉に、私の中で何かが壊れた。彼はローレッタ様を抱き上げて、私に冷たい一瞥をくれてから出口へと向かう。
「ローレッタ、僕の部屋に行こう。ノワールの恍惚とした顔を見ていたら我慢できなくなった」
「恍惚となど、していませんっ!」
心外そうにぴしゃりと否定した黒の騎士と、焦れたようにローレッタ様を運ぶ恋人だった人の背中をぼんやり眺め、私は首を傾げた。別にどうでもいい。恋人以外には見せてはいけないと言われていた裸を晒したままだけど、不思議と体を隠そうという気にならない。羞恥という概念が働かなかった。
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