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高速プロポーズ
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あーあ、車でプロポーズなんてする気なかったのに……と、ボヤく蓮君から距離を取るあまり、私は車の扉に体を押し付けていた。
ヤバい人がいる。思い込みが激しすぎて、ストーカーになりかねない人が!
「なにをドン引いてるんですか。確かにうちも芦屋家と同じく、結婚は自分の意志で決められない由緒正しき旧家ですけども」
いや、そういう問題じゃない。そもそもあなたと圭太じゃ違うっていうか……会って三回目なんだけど!?
「大丈夫ですよ。宗主にはちゃんと言ってあります。デロデロに酔ってましたけどね。父にも俺の意志は示しました」
はぁああ!?
「勝手に話を進めないでよ! 私たち、付き合ってもいないのよ!?」
「もちろん反対されましたが、問題ありません。俺が家を出れば済む話ですから。やだなぁ、安心してください。芦屋家の雁助さんみたいに差し迫った事情があったとしても、実家には戻りません。戻る条件は一つだけ。茜さんの嫁入りを、宗主が許可すること」
よどみなく説明しながら、滑るようにシートの上をじりじりと寄ってくる。
怖いよ!?
高速道路じゃなかったら、扉を開けてハリウッド映画よろしく走行中の車から飛び出していたかもしれない。
「蓮君待って、ちょ、ストップ」
必死に迫ってくる彼を押しとどめながら、私は今、自分がどういう状況にあるのか考えていた。
もっとも、いくら考えても──
カルト教団のトップだったと知った元彼から愛人契約を持ち出され、その日のうちに、別のカルト教団の宗主になりそうな人からプロポーズされているこの状況を、理解することはできなかった。
「よく知らない人に、いきなりプロポーズされても困るわよ!」
「俺は困らないけどな。茜さんのオーラで分かるから」
オーラって何!?
「私が困るの! うまくいくか分からないでしょ!? 会ったばっかりよ、私たち!」
「茜さんだって、俺のオーラで分かるはずだけど?」
「私には分からないわよ!」
どいつもこいつも、霊能者って自分勝手な人ばっかりなのかしら。
「ほんとに?」
蓮君が真顔で身を起こし、私を囲むように背もたれに手を突いた。
「第六感で感じてみて」
フワッと彼の纏う空気が柔らかく溶ける。
キスされた時に感じた、あの不思議な──甘美な空気。
私は目を見張った。
オーラって、これかしら? 確かに心地よくて、離れがたいものを感じる。
で、でも、こんなの──勘違いかもしれない。目に見えないもの。
雰囲気に呑まれてるだけ。
彼が犬ころみたいに可愛いから──圭太みたいだから──傷ついた自尊心を癒してくれて、一緒にいると華やぐし、楽しいし……。
私は思い切り首を横に振った。サイテーな自分になりたくない。
「私には分からない。霊能者じゃないから、そんなの感じられないの。ある程度一緒にいて、お互いのこと知らないと信頼関係も生まれないし……それにまだ……」
心の傷が塞がっていない。
五年だ。圭太と過ごした日々を、簡単に忘れるなんてできない。
二ヶ月しか経っていないのよ?
癒えてから次の恋をしたかった。でないと、相手を身代わりにしそうで怖かったのだ。
蓮君は、口に出さなかった部分を察したようだった。
「あー、そうか。そうですよね、時間って大事ですよねー」
納得したような口調なのに、囲った腕を外そうとはしない。
彼は身をかがめ、私の顔を覗き込んでくる。
「ケータと何年付き合っていたかは知りませんが、それでも彼のこと、何も知らなかったのにね」
その言葉は鋭い刃物となって、私の胸の奥を突いた。
蓮君は酷薄そうに、口角を吊り上げる。
「信頼関係も何もあったもんじゃない。つまりは、長いこと一緒にいて生まれるそれは、情ってことですよ。慣れあいってやつ」
そう……なのかな。
時間はたくさんあった。圭太は野良猫みたいな人だったけど、私が家にいる時は、なるべく一緒にいてくれたから。
定期的な収入があるようには見えなかったから、贅沢はあまりしないようにして、部屋でまったりしていることが多かった。
そういえば、くだらない会話ばかりで、彼は自分のことをほとんど話さなかったっけ。
それでも一緒にいられたってことは、お互い過剰な干渉をせずに、老後まで──一生共にいても大丈夫ってことだと、そう思っていた。
でも、限度があるよ、圭太。
本当の家業が何だったのかとか、お父さんが亡くなったこととか、婚約者のこととか、重要なことは一切話してくれなかった。
「圭太は……黙ったまま私との関係を続けようと思えば、できたわ。まだ彼は、誠実だったのよ」
彼を庇うような言葉が、つい出てしまう。
もし圭太が別れを選ばずに実家に戻って結婚していたら──もっとズルい人だったら、私は知らないうちに妻帯者と付き合っていたかもしれない。
だから、そこまで酷い男では──。
蓮君の瞳が、薄暗い車内でギラッと光る。
「バカじゃねーの」
声が一オクターブ下がったと思うと、吐き捨てるように言う。
「結婚することを告げた上で、愛人契約を申し出てきたんだ。充分クズだろ」
ヤバい人がいる。思い込みが激しすぎて、ストーカーになりかねない人が!
「なにをドン引いてるんですか。確かにうちも芦屋家と同じく、結婚は自分の意志で決められない由緒正しき旧家ですけども」
いや、そういう問題じゃない。そもそもあなたと圭太じゃ違うっていうか……会って三回目なんだけど!?
「大丈夫ですよ。宗主にはちゃんと言ってあります。デロデロに酔ってましたけどね。父にも俺の意志は示しました」
はぁああ!?
「勝手に話を進めないでよ! 私たち、付き合ってもいないのよ!?」
「もちろん反対されましたが、問題ありません。俺が家を出れば済む話ですから。やだなぁ、安心してください。芦屋家の雁助さんみたいに差し迫った事情があったとしても、実家には戻りません。戻る条件は一つだけ。茜さんの嫁入りを、宗主が許可すること」
よどみなく説明しながら、滑るようにシートの上をじりじりと寄ってくる。
怖いよ!?
高速道路じゃなかったら、扉を開けてハリウッド映画よろしく走行中の車から飛び出していたかもしれない。
「蓮君待って、ちょ、ストップ」
必死に迫ってくる彼を押しとどめながら、私は今、自分がどういう状況にあるのか考えていた。
もっとも、いくら考えても──
カルト教団のトップだったと知った元彼から愛人契約を持ち出され、その日のうちに、別のカルト教団の宗主になりそうな人からプロポーズされているこの状況を、理解することはできなかった。
「よく知らない人に、いきなりプロポーズされても困るわよ!」
「俺は困らないけどな。茜さんのオーラで分かるから」
オーラって何!?
「私が困るの! うまくいくか分からないでしょ!? 会ったばっかりよ、私たち!」
「茜さんだって、俺のオーラで分かるはずだけど?」
「私には分からないわよ!」
どいつもこいつも、霊能者って自分勝手な人ばっかりなのかしら。
「ほんとに?」
蓮君が真顔で身を起こし、私を囲むように背もたれに手を突いた。
「第六感で感じてみて」
フワッと彼の纏う空気が柔らかく溶ける。
キスされた時に感じた、あの不思議な──甘美な空気。
私は目を見張った。
オーラって、これかしら? 確かに心地よくて、離れがたいものを感じる。
で、でも、こんなの──勘違いかもしれない。目に見えないもの。
雰囲気に呑まれてるだけ。
彼が犬ころみたいに可愛いから──圭太みたいだから──傷ついた自尊心を癒してくれて、一緒にいると華やぐし、楽しいし……。
私は思い切り首を横に振った。サイテーな自分になりたくない。
「私には分からない。霊能者じゃないから、そんなの感じられないの。ある程度一緒にいて、お互いのこと知らないと信頼関係も生まれないし……それにまだ……」
心の傷が塞がっていない。
五年だ。圭太と過ごした日々を、簡単に忘れるなんてできない。
二ヶ月しか経っていないのよ?
癒えてから次の恋をしたかった。でないと、相手を身代わりにしそうで怖かったのだ。
蓮君は、口に出さなかった部分を察したようだった。
「あー、そうか。そうですよね、時間って大事ですよねー」
納得したような口調なのに、囲った腕を外そうとはしない。
彼は身をかがめ、私の顔を覗き込んでくる。
「ケータと何年付き合っていたかは知りませんが、それでも彼のこと、何も知らなかったのにね」
その言葉は鋭い刃物となって、私の胸の奥を突いた。
蓮君は酷薄そうに、口角を吊り上げる。
「信頼関係も何もあったもんじゃない。つまりは、長いこと一緒にいて生まれるそれは、情ってことですよ。慣れあいってやつ」
そう……なのかな。
時間はたくさんあった。圭太は野良猫みたいな人だったけど、私が家にいる時は、なるべく一緒にいてくれたから。
定期的な収入があるようには見えなかったから、贅沢はあまりしないようにして、部屋でまったりしていることが多かった。
そういえば、くだらない会話ばかりで、彼は自分のことをほとんど話さなかったっけ。
それでも一緒にいられたってことは、お互い過剰な干渉をせずに、老後まで──一生共にいても大丈夫ってことだと、そう思っていた。
でも、限度があるよ、圭太。
本当の家業が何だったのかとか、お父さんが亡くなったこととか、婚約者のこととか、重要なことは一切話してくれなかった。
「圭太は……黙ったまま私との関係を続けようと思えば、できたわ。まだ彼は、誠実だったのよ」
彼を庇うような言葉が、つい出てしまう。
もし圭太が別れを選ばずに実家に戻って結婚していたら──もっとズルい人だったら、私は知らないうちに妻帯者と付き合っていたかもしれない。
だから、そこまで酷い男では──。
蓮君の瞳が、薄暗い車内でギラッと光る。
「バカじゃねーの」
声が一オクターブ下がったと思うと、吐き捨てるように言う。
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