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転がるハム~執事視点~
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俺は部屋の中の光景に目を疑った。
面接した旦那様にそっくりな外見の若者が、やけに入り組んだ縛り方をされ、床の上に転がっていたからだ。
「うー! うううー!」
しかも、猿轡されている。いったい何があったんだ? 強盗か!?
大慌てで口に巻かれたスカーフをずらす。
「やあ、君が新しい執事だね、父から話は聞いているよ」
爽やかに言われたが、一体何があった!?
「エイベル坊っちゃまでございますね、今お助けいたします」
戒めを解こうとしたが、固っ! しかも解くためにロープを引っ張ったせいか、網の目のように縛り付けられた坊っちゃまは、さらに締め付けられたようだ。苦痛の呻き声をあげさせてしまった。
「も、申し訳ございません。一体何が……誰がこんな玄人縛りを」
「メイベルに解かせてよ。縛るのも解くのも得意だから」
お嬢様が!? え? これやったのお嬢様!?
ハッと振り返ると、いつの間にかお嬢様がゆらりと背後に立っていた。
「お兄様が悪いのよ」
拗ねたように言うと、彼女は目を逸らす。
「士官学校が全寮制だなんて、聞いていなかったもの。私は断固として反対ですからね!」
エイベル坊っちゃまは、縛られたまま息をついた。
「しかし、僕は将来的には北の砦の司令官となる身の上だよ? 学ぶことはたくさんあ──」
「私をこの屋敷に一人にするつもり!?」
険しい顔で地団駄を踏むお嬢様。いいから早く坊っちゃまの戒めを解いてやれよ。
「メイベル、僕の卒業と使用人らが辞める時期が重なったことは謝る。ヴァーノンの死も辛かったね。寂しいのは分かるよ。……でも、メイドたちの求人は出しているからすぐに応募してくるだろうし、後任の執事もこうして来てくれたじゃないか。いい子だから、聞き分けておくれよ」
え……寂しいから縛って監禁していたの? 俺がドン引きしていると、メイベルお嬢様はぶんむくれて否定する。
「さ、さみしいわけじゃないわよ! ただ、家族は一緒にいるべきだって思ったの! それだけよ!」
縛って監禁してまで一緒にいるべきものではない気がするが……。
「とにかくメイベルお嬢様、この縄を外してさしあげませんと」
「なによ、あなた。このメイベルに指図しようっていうの?」
腕を組んで睨みつけてくる。面倒だな。俺は仕方なく胸元からナイフを出し、それでロープを切った。
「なっ! 勝手に何をしているのよ! あなたなんてクビよ!」
背後で喚いているが、俺は彼女に雇われたわけではない。
エイベル坊っちゃまを助け起こしながら、体にまとわりついたロープを外していく。
「はははっ、すまないね! ネイサンだっけ? ビックリさせてしまったかな」
何かあるとは思ったが、想定の範囲内でなかったのは確かだ。なによりもこんな仕打ちを妹からされて、爽やかに笑っていられる兄も怖い。
「まさか、辞めたりしないよね?」
不安そうにエイベル坊っちゃまに言われ、俺は首を振る。貴族令嬢とは元来我儘なもの。俺を縛ろうとしなければ問題ない。
「僕が入寮するから、実力行使に出たんだ。普段はすごくいい子だから! よろしく頼むよネイサン」
中等科の、今度二年生になるのか。一番ヤバい──ゴホン、多感な時期だからな。
ブスッと膨れて立ち尽くしているメイベル様を見上げる。
まあ……これくらいなら問題は無いだろう。今までの奉公先の女性らのように、俺に惚れさえしなければ。
と、この時はそう思っていた。
面接した旦那様にそっくりな外見の若者が、やけに入り組んだ縛り方をされ、床の上に転がっていたからだ。
「うー! うううー!」
しかも、猿轡されている。いったい何があったんだ? 強盗か!?
大慌てで口に巻かれたスカーフをずらす。
「やあ、君が新しい執事だね、父から話は聞いているよ」
爽やかに言われたが、一体何があった!?
「エイベル坊っちゃまでございますね、今お助けいたします」
戒めを解こうとしたが、固っ! しかも解くためにロープを引っ張ったせいか、網の目のように縛り付けられた坊っちゃまは、さらに締め付けられたようだ。苦痛の呻き声をあげさせてしまった。
「も、申し訳ございません。一体何が……誰がこんな玄人縛りを」
「メイベルに解かせてよ。縛るのも解くのも得意だから」
お嬢様が!? え? これやったのお嬢様!?
ハッと振り返ると、いつの間にかお嬢様がゆらりと背後に立っていた。
「お兄様が悪いのよ」
拗ねたように言うと、彼女は目を逸らす。
「士官学校が全寮制だなんて、聞いていなかったもの。私は断固として反対ですからね!」
エイベル坊っちゃまは、縛られたまま息をついた。
「しかし、僕は将来的には北の砦の司令官となる身の上だよ? 学ぶことはたくさんあ──」
「私をこの屋敷に一人にするつもり!?」
険しい顔で地団駄を踏むお嬢様。いいから早く坊っちゃまの戒めを解いてやれよ。
「メイベル、僕の卒業と使用人らが辞める時期が重なったことは謝る。ヴァーノンの死も辛かったね。寂しいのは分かるよ。……でも、メイドたちの求人は出しているからすぐに応募してくるだろうし、後任の執事もこうして来てくれたじゃないか。いい子だから、聞き分けておくれよ」
え……寂しいから縛って監禁していたの? 俺がドン引きしていると、メイベルお嬢様はぶんむくれて否定する。
「さ、さみしいわけじゃないわよ! ただ、家族は一緒にいるべきだって思ったの! それだけよ!」
縛って監禁してまで一緒にいるべきものではない気がするが……。
「とにかくメイベルお嬢様、この縄を外してさしあげませんと」
「なによ、あなた。このメイベルに指図しようっていうの?」
腕を組んで睨みつけてくる。面倒だな。俺は仕方なく胸元からナイフを出し、それでロープを切った。
「なっ! 勝手に何をしているのよ! あなたなんてクビよ!」
背後で喚いているが、俺は彼女に雇われたわけではない。
エイベル坊っちゃまを助け起こしながら、体にまとわりついたロープを外していく。
「はははっ、すまないね! ネイサンだっけ? ビックリさせてしまったかな」
何かあるとは思ったが、想定の範囲内でなかったのは確かだ。なによりもこんな仕打ちを妹からされて、爽やかに笑っていられる兄も怖い。
「まさか、辞めたりしないよね?」
不安そうにエイベル坊っちゃまに言われ、俺は首を振る。貴族令嬢とは元来我儘なもの。俺を縛ろうとしなければ問題ない。
「僕が入寮するから、実力行使に出たんだ。普段はすごくいい子だから! よろしく頼むよネイサン」
中等科の、今度二年生になるのか。一番ヤバい──ゴホン、多感な時期だからな。
ブスッと膨れて立ち尽くしているメイベル様を見上げる。
まあ……これくらいなら問題は無いだろう。今までの奉公先の女性らのように、俺に惚れさえしなければ。
と、この時はそう思っていた。
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