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第三章 わんわん君の断罪は遅れてやってくる
10.断罪は終わらない 1
しおりを挟む次の日、学校に来てみると。
俺の机に、石筆で、犬っころ、ばか、わんわん、尻尾振ってんじゃねぇ、って、書いてあった。
なんだよ。なんだよこれ。なんで俺なんだよ。
誰がやったんだ。予想はつくけどな。
近くの机に座ってにやにやしてるザムに真っ先に話しかけた。
「なあ、ザム。なんか落書きされてんだけどさ、なんか知らねえ?」
話しかけてみた。
「んー?なんだって?俺人間だから犬の言葉わかんねぇんだよな。人語でしゃべってくんね?」
……やっぱりおまえか!!
にやにやにや。嫌らしい、顔。こんな、奴だったのか。
周りにもいちいち聞いて回る。
「なあ、あれ、だれがやったの?」
「わんわんわんわん!ははっ、つうじねえか。俺、人間だもんな。悪いけど犬とはしゃべれねぇわ」
「……悪いけど知らない。ちょっとやりすぎだったんじゃねお前」
「えー、きこえなーい。犬がなんで学校にきてるの?」
「かわいいー。わんわん君、お手できるー?」
女子もか。
まともに話せる奴もいるけど、ほとんどダメだな。
なんなんだよ、なんでだよ。俺、謝ろうとしてただけじゃん。
ねえ、カラムさん。これ、やりあってもいいの?
誰からも証拠が出ねぇんだけど。いや多分ザムなんだけど。明らかにザムの字だし。
でも、確証もないのに殴ったら、またただの暴力になんねぇ?
わかんねぇよ。リーナはどうやって切り抜けてたっけ。
しんと静まりかえる教室。小さく、くすくす、くすくす、と、笑い声が聞こえる。
これが、俺の断罪か。やったことが、そのままこれから、俺に返ってくるのか。
ぐるぐるぐる。悪意が、周り中に渦巻いてる。
わんわん、わんわん、と、声が聞こえる。
ぐっと拳を握りしめ、でも、引っ込めようとした。
受け入れなきゃ、と、思った。
ロザリーは黙って耐えたんだ。ちょっと遅れて順番が回ってきただけだ。
机に座ろうと、ザムに背を向けた時。
ぴしゃん、と、濡れた布が俺の机に置かれた。
ごしごしごし。
茶色い髪の三つ編み、目立たないハンカチ屋もといアリスが、机を擦っている。
え、なにやってんの。
「あー、大丈夫だねぇ。消える消える。
いいんじゃない?犬になっちゃったザムやイリオやトムは、先生に言って退学にしてもらおう。
だって人間のカイルの言葉がわかんないみたいだからね。しょうがないよね。人間やめちゃったんだもんね、かわいそうに」
しん、と、教室が静まりかえる。
こいつ。さらっと、すごいこと言った。
おまえ、まずいぞ。まきこまれるぞ。
「なんだと!!アリス、俺をなんだと」
「わんわん?わんわんわん!!」
「お前めっちゃ弱いくせに」
「わんわんわーーーーん」
アリスは更に煽る。
ザムは、ぶるぶる拳を震わせて、向かってきた。
……ダメだ!ザム、俺とおんなじだそれ!
「つうじないなー?わんわんわーん?わんわんわ」
「おい、やめ」
ばきっ!!
がたがたがたん、どさっ。
アリスは、かなり飛ばされて机を何個もなぎ倒し、下に倒れた。
俺の、何かが切れた。
「ふざけんな!!」
ぶん、拳を振り上げた、その時。
ぱしっ。
それを受け止める存在があった。
青い髪。紫のタレ目。カラムの息子、ニムルスだ。
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