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第三章 わんわん君の断罪は遅れてやってくる
13.酒場のロザリー
しおりを挟むいつも通り、剣術の授業が終わった後、走ってリーナんちの酒場に向かった。
季節は、しょか、ってやつになろうとしている。ちょっと、走ってると汗をかくようになってきた。
夏か。学校に行くようになったのが秋だったから、もうそんなに経ってるんだな。
最近は、体の痛みも収まってきた。椅子はまだまだ軽々と持ち上げるまでは行かないけど、ほうきとかバケツなら軽く扱えるようになった。
作業も楽に進むようになって、余裕も出てきた。
だから、ロザリーが上の階から降りて来る頃には、椅子は拭き終わっている。
本当はテーブルをきれいなふきんで先に拭くんだけど、ロザリーにしゃがんで作業させないように、最近は掃除の順番を変えている。
「だいぶ慣れてきたわね、カイル」
金髪縦ロールことロザリーが、布巾を絞りながら話しかけてきた。
まっすぐ俺を見ている。その細い手は、相変わらず細かい傷だらけだ。
……あれ、なんか違和感。
「ああ、ロザリーの言う通りだった。慣れて来るんだな。体も、まだ痛いけど前ほどじゃなくなった」
ふふっ、と、口に手を当てて上品にロザリーが笑う。ちょっとつり目のきつい印象だけど、笑うと柔らかい顔に、なるんだよな。
エリサさんとカラムさんくらいにしか見せなかった表情を、最近はお客さんや、クラスの他のやつにも見せるようになってきた。
リーナんちに泊まり込むようになってからかな。
本当に、何があったんだろう。家に帰らなくていいのかな。けっこう、あれから経ってる気がするんだけど。
「よかったわ。私がお掃除をする時は、椅子なんか持ち上げないから。カイルが掃除の手順を言い渡されていた時、心配していたのよ」
あ、そうか。ロザリー、わん……って、言いかけてやめるの、なくなったな。
ちゃんと本当に名前で呼んでくれるように、なった。やっと。
じんわりと、胸にあったかいじくじくしたものが広がる。むず痒い。なんだこれ。
……ん?ちょっと待て?
「床を掃くのは毎日でしたけれど、磨くのは5日ごとくらいだったかしら。カイルは兵士になりたいのよね。ちょっときついメニューになっていたようだったから」
くすくす、と、ロザリーが笑う。
え、えーと?ちょっと待って俺の作業量って。
「あー……。言うなよ、ロザリー。秘密のメニューなんだぞ、それ」
カウンターの中から、ディアスさんが声をかけてきた。
わざとか!わざとだったのか!!
「すまんな、カイル。開店当初は毎日やってたことなんだが、繁盛し始めてから仕込みで俺が動けなくなっちまって。助かってんだよ。いやほんとに」
にやにやしながら、ディアスさんは頭をぽりぽり掻いている。
いや、俺は知ってる。ごはん屋で、こんなに丁寧に床まで掃除するとこなんか滅多にない。残飯処理用に犬が床を歩き回ってるところもあるんだ。
変だと思った!思ってたんだよちくしょう!!
「しかし、それを続けてたら、いつかニムルスにも一矢報いることもできるかもしれんぞ?あいつをやっつけたくは、ないか?」
ディアスさんは、カウンターに寄りかかって、俺を見つめてきた。
ちょっと待てなんて怖いこと言うんだ。
ぶんぶんと首を横に振って、俺はちょうど店に来たカラムの後ろに隠れた。
絶対嫌だ!殺される!!
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