78 / 110
第五章 婚約志望者の秘密
8.情報収集の、収集
しおりを挟むリーナの家でみんなで話してから、ちょうど一ヶ月。季節は、初夏になりつつある。
外に出ると、日差しのあるところでは、じんわりと汗をかくようになってきた。暑い。
今日の夜に家族会議がある。俺も、できることをやらないと。
俺はまた、カイルと一緒に狩りに来ていた。
いつものように、狩りに集中しているふりをする。
冷静に、冷静に。
「珍しいな、ニムルスから誘ってくるなんて」
う、痛いとこつくなよカイルなのに。
「だから、追い立て役が必要なんだって。どうしてもうさぎ食いたくて……あぁ、また逃げた」
はぁ、と、もう諦めのポーズを取る。
ちょっと休もう、と言って、小川のほとりに行く。
がぶがぶ水を飲んだ後は、二人で川に足を入れて涼む。
こうするとほら。
「……あれからさ。ハンカチ屋の情報、ないんだよな」
始まった。無言で頷く。
いや悪いけっこう情報上がってるけど開示できない。ごめん。
そっちがどれくらい把握してるのか知りたいんだ。
ああ、嫌だ。カイルも引き込めたらいいのに。
……いや、巻き込んだらダメだよな。俺の勝手な気持ちで、カイルを捻じ曲げちゃ、うん、いけない。
カイルはまっすぐに、明るい道を歩く人間だ。
「ロザリーが、かなり動いてくれててさ。どうやってんのかわかんねぇけど。とりあえず、普通に生活はしてるらしいんだ。かなり厳しく、かていきょうし、ってやつに一日中しごかれてるらしい」
……公爵家だからな。その程度はわかるだろう。
ロザリーは、まだカイルにも身分は明かしてないんだな。なら、それ以上は掴んでても話してないはずだ。
カイルからこれ以上の情報は期待できない。ちょっと際どいけどやっぱりロザリーに直接
「今ハンカチ屋がいるとこって、ロザリーを狙ってる一派の家なんだってさ。ロザリーに近づいて何かさせるために引き取られたと思うって。最悪、殺しに来る、って。
やたら熱心に、ナイフの扱いの練習してるらしいんだよ。毒にも強くなるように訓練してるらしい。
なあ、ハンカチ屋は、悪いことさせられるのか?
止められないのか?」
……色々出てきた。
カイルは、しゅんと項垂れて眉毛を八の字にしている。まっすぐ俺を見る目は、どこまでも単純で透明だ。
うん、そのまま汚れないでくれ。
……いやそこじゃない。ロザリー、しゃべりすぎだろ!!ダメだそんなにバラしたら、わたし現政権派閥の貴族ですって言ってるようなもんだ!
なんて危ねぇ。何してんだ実家ちゃんと教育しろ。
「なあ、カイルそれ、俺以外に話したか?」
ふるふる。茶色いくせ毛がふさふさふるえる。
「いや、ニムルス以外には絶対話すなって言われた」
ほっと胸をなでおろす。その程度の危機管理はできるか。がばがばだけどな。
川でばしゃばしや遊んでたカイルが、すっと、俺をまっすぐ見つめてきた。なんだ。どうしたんだ。
「あと伝言。わたくしに全部話せとは言わないけど、せめてリーナには全部話した方がいいって。リーナはロザリーの秘密も知ってるけど誰にも言ってないから、大丈夫だってさ。
リーナ、ちょっと拗ねてるぞ。お前の父ちゃんが、けっこう色々におわせてる、らしいからな」
……親父!!
まあ、リーナの両親は当然知ってる話なんだし、いずれリーナも片足つっこむ世界の話だ。そろそろ、言っても、いいのかな。
重荷に、ならないかな。
リーナ。君の幸せが、一番大事なんだよ。なによりも。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい
椰子ふみの
恋愛
ヴィオラは『聖女は愛に囚われる』という乙女ゲームの世界に転生した。よりによって悪役令嬢だ。断罪を避けるため、色々、頑張ってきたけど、とうとうゲームの舞台、ハーモニー学園に入学することになった。
ヒロインや攻略対象者には近づかないぞ!
そう思うヴィオラだったが、ヒロインは見当たらない。攻略対象者との距離はどんどん近くなる。
ゲームの強制力?
何だか、変な方向に進んでいる気がするんだけど。
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
転生した世界のイケメンが怖い
祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。
第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。
わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。
でもわたしは彼らが怖い。
わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。
彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。
2024/10/06 IF追加
小説を読もう!にも掲載しています。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる