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第五章 婚約志望者の秘密
10.秘密の家族会議 2
しおりを挟むごとん、と、壁の特定の石を押す。
この通路の扉は特別だ。ちょっとしたコツがないと開かない。そして行き先の部屋も、俺たち専用だ。
「来たか、二人とも」
親父が仁王立ちで待っていた。なんで。
「父上、お待ちでしたか。遅くなり申し訳ありません」
兄ちゃんが謝る。本当は遅れてなんかないんだけど、上位者を待たせるのはマナー違反だ。
平民の生活をしていると、完全にそれを守るのは無理なんだけどな。
「いや、いい。楽にしなさい。俺と兄、母さんしか今回は会議に参加しない。護衛もいない。普段通りで大丈夫だ」
ほっとした。なんだ、公式じゃないのか。
いや、公式なら話せないことばっかりだから、そりゃそうか。ちょっと考えが足りなかった。
扉を閉めて、親父について部屋を歩く。ここは名目上は寝室だ。ベッドがあり、暖炉には火が入っている。しかし本当は使われていない。たまに親父とおじさんが密会するくらいだ。
俺達が使うのは、隣の広い応接間。私的な空間という体なので、長椅子が4つ程に、一人がけの椅子がひとつ。間に低いテーブルが並べられた、ラフなものだ。
「ニムルス、久しぶりね。元気そうで何よりだわ」
視界の隅に、金色の髪を緩くまとめた細身のシルエットが見える。母さんだ。ここの部屋の続き間で生活している。
からからとお茶のワゴンを押して近づいてきて、そっと頭を撫でられた。
その緑色の瞳が、ふっと緩められる。細い指先が確かめるように、俺の目のあたりに触れた。
「強く、なっているわね。やはりあなたは優秀だわ」
何だろう。褒められているのに、その目が俺を見ていない。いつもの母さんじゃない。何かあったのか。
「ディナ。気持ちはわかるが、定めだ。諦めなさい」
親父がなぜか母さんを叱る。どうした。
母さんは、お茶をテーブルに並べると、そっと端に立った。この部屋の入り口付近だ。誰かがここに入って来ないように聞き耳を立てる役割だ。
いつもは、俺の位置。
何してんだ、母さん。城の中の情報収集は、母さんの大事な役割だ。まだなんの役にも立っていない俺が、そこにいるべきなのに。
「母さん、俺がそこに」
「いや、お前はこっちだ。今日はお前と同じ教室にいた子の話があるからな」
親父が顎でソファを指す。いや、でもそれは親父が全部知ってるはず。なんで。
とりあえず、言われるままにソファに座った。
姉達も続々とやってきて、メンバーは揃った。あとはおじさんだけだ。
母さんが、扉の外に向けて、特殊なリズムでノックする。しばらくして、その扉は開いた。
紫色のガウンに、派手な刺繍。肩まで伸ばされた青い髪は、後ろでひとつにまとめられていた。
……本当にラフな格好で来やがった。そのガウンの下、寝間着だろ、おじさん。
「久しぶりだな、カラム、お前たちも。遅くにすまない」
「ああ、兄貴、もうちょっとなんとかならないのか。仕事なんて他の奴に任せられるとこ任せちまえって、いつも言ってるだろ。遊びにも行けやしねぇ」
はぁ、と、ため息を吐いて、おじさんは一番奥の一人がけの椅子に座る。
「そうもいかないよ。任せられる人間なんてそんなにいない。ちゃんと全てに目は通すものだよ、カラム。そんな風にふらふらしなきゃ、とっくに国のことなんてお前に任せているのにさ」
はぁ、と、盛大にため息をつく、おじさんことカーラベル・コペランディ。
目尻の下がった国王の緑の瞳は、俺に向かって微笑みかけてきた。
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