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第五章 婚約志望者の秘密
11.秘密の家族会議 3
しおりを挟む「さて、揃ったな」
母さん以外、全員がソファに腰掛けている。
いつもは母さんじゃなく俺が扉の前で見張りだったから、末席とはいえここにいるのが落ち着かない。
とはいえ、いつかは通る道だ。アリスやロザリーをなんとかしないといけないし、それがカイルや、何よりリーナの為になる。
膝で握った拳にじんわりと汗がにじむ。
ごくりと唾を飲み込む音が、やけに響いた。
「今日集まったのは他でもない、カーライル伯爵家のことだ。反現政権派の主流ともいえる一派の家だが、そこにニムルスの同級生が連れ去られた」
え、と声を上げたのは、アドニス兄ちゃんだ。
「嫌々だったのか?探してた娘がやっと見つかったって、あの家では喜ばれてるぞ。正妻の娘だったんだろ?誘拐されて今までどこにいたのかが、なかなか掴めないんだけどさ」
あ、いや、それは。
口を開きかけた俺を、親父が目線で制する。
「アリスは、庶子だ。カーライル伯爵家の当主が、メイドに産ませた子供で、母親共々妊娠がわかった途端に追い出されている。その後母親は職場をわざと転々とし、ノーリス男爵家に落ち着いたらしい」
がたん、と、ペルラ姉がソファを揺らす。姿勢を少し崩したようだ。
「ノーリス。反政権派の家、というかカーライル家の血族よね?そんなところにいて、よく今までバレなかったものだわ」
ふるふると親父が首を振る。
「どうやら、承知の上で飼い殺されていたようだ。母親は逃げおおせていると思ったようだが」
……どういうことだ。探してて、見つかったんじゃないのか。何で今まで放っておいたんだ。
「司祭の執務室でアリスの記録を見た。高級住宅街に住んでいた。あの家は、普通の男爵家侍女には支払えない金額の家賃がかかる。相当待遇はよかっただろう」
ふむ、と、兄ちゃんが口に手を当てて考え込む。
「それにしちゃ、アリスちゃんの動き方が積極的なんだよな。貴族のマナーなんかもびっくりするくらいの早さで覚えているし、護身術と称して練習させられているナイフや毒の知識も貪欲に学んでいる」
……アリス。覚悟の上で行ったんだな。
俺は口を開いた。
「アリスがいなくなる前の日まで、あいつ本当に何の素振りも見せなかったんだよ。同日に実の母親らしき人間が教会に逃げ込んでいる。どうも変だ」
兄ちゃんが、目を見開いた。
身を乗り出して息を巻く。
「ノーリスやカーライルの差し金だったとしたら、実の母親はとっくに消されているはずだろ?実子として戸籍を書き換えたって、ハルデンツェルト家では掴んでたらしいじゃないか」
ふむ、と、おじさんが考え込んでいる。
「タイミングが良すぎるな……。橋渡し、というか実行役が寝返っていたか。手際のよさから言って、裏稼業の人間だと思うんだが。カラム、どう思う」
親父は、ゆっくりと頷いた。
「間違いないだろう。アリスを連れ去った奴と、母親を教会に連れ出したのは同一人物だ。しかし、そいつがどこに行ったかだな」
はっと、気づいた。そうか。今は。
「ニムルス、気づいたか。実行犯は消される。そいつはよくわかっていたんだろう。おそらく外国に逃げようとする。しかし、今は」
「それが、できない」
そう。今、精霊のボイコットなのか何なのかわからないが、この国は孤立している。他国との道が途切れているんだ。
国境まで逃げても、逃げ道はない。
「彼の名は、ダルク。半年間行方をくらましている。冒険者ギルドにも、死亡報告は上がっていない。……一体、どこにいるのか」
ふぅ、と、ため息をついておじさんがこめかみを抑える。
「彼は、気づいただろうな。この国の今の現状に。探し出さなければ」
ごくりと唾を飲み込む。秘密を知る人間は、王都には少ない。手が足りない。だとすれば。
「ニムルス、初仕事だ。俺と一緒に行くぞ」
親父が、にやっと笑う。
……ついに来たか。
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