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第五章 婚約志望者の秘密
21 初仕事 10 失敗
しおりを挟む目が覚めると、藁の上に寝かされていた。
驚いたことに、縛られていない。手足は自由だ。
今、何時くらいなのか。クロは本当にディアスさんちに戻ったのか。
「目、覚めたみてぇだな」
がたん、と、近くのテーブルに座ってたダルクが、近くの水がめで水を汲む。
コップだった。俺に、差し出してきた。
いや、この状況でそれを飲むほどバカじゃない。俺はぷいっとそっぽを向いた。
「はは、大丈夫なんだけどな。まあ、間違っちゃいない。お前さん、筋モンか。そうは見えなかったけどな」
まあ、そんなようなもんだよ。
「すまんな。あそこで俺が舐められるわけにゃいかんかったんだよ。お前が俺の知り合い扱いになっちまうと、お前も狙われるからな。引きずって連れてった、って建前が必要だっただけだ」
そのままそのコップの水を自分でごくりと飲み込んで、とんとテーブルに置く。
「ちょっと距離がある方が安心だろ?俺はここにいる。ちなみにお前の後ろの窓から外に出られるぞ。ここは3階だが、下に藁が敷いてある。充分に逃げられるな」
ふと、窓の外を見た。本当だ。
「で?お前さんどこの人間だ?カーライルか、それともハルデンツェルトか。どっちにしても、俺の命はないわけだが、保護ってどういうことだ」
ん?ハルデンツェルトにも狙われてると思ってんのか?
「……なんでハルデンツェルトがおまえを狙うんだよ」
ははっ、と、ダルクは乾いた笑い声を上げた。
「ああ、そうか、ロザリーちゃんの独断かな?悪いがな、そっちに行っても俺は消される。ロザリーちゃんの秘密も俺は知ってるんだからな。
ロザリーちゃんはわからんだろうが、ご実家の考えはそうなんだよ」
はぁ、と、ダルクはため息を吐く。
「……詰んだ。完全に、詰んだよ」
なんでだ。俺を殺すって選択肢は。
「お前を殺さないのかって目だなそれは。お前が急に消えてみろ。直前に行ってた闇市が怪しいってことになるに決まってんだろうが。俺には、本当にもう、逃げ場がねえんだよ……」
そうだよな。知らなかったよな。
「まさか、国から出られないなんて、わかんねぇもんな」
つい、口から出た。
「……なんで知ってる。国境で情報は統制されているはずだ」
睨むような目に、変わった。
心臓が跳ねる。情けねぇ。落ち着け俺。ダルクは俺を殺せないってさっき聞いたばっかりだろ。
その時、天井から、とととんと、音がした。
次に窓の外から、するりと入って来たものがあった。
黒い猫は、俺のひざの上に乗って、にゃあと鳴いた。
あ、ここ、すぐ上が屋根なんだ。
音は3つした。てことは。
「よ。待たせたな」
窓から器用に入って来たのは、親父と。
「ああ、これはひどいな。改善が必要だ」
おじさん。国王その人だった。
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