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第五章 婚約志望者の秘密
22. 初仕事 11 お見通し
しおりを挟む今にも壊れそうな小さな棚と、ぼろぼろの食事をするためだけのテーブル、飲み水を貯める水瓶、俺が座っている、ベッド代わりの藁の塊。
水場も炊事場も共用のこの建物の中はとても狭い。
それらの家具だけでも、部屋はいっぱいだ。
そんな場所に、大柄の親父と、細身だが長身のおじさんこと国王、カーラベル・コペランディが立っていた。部屋の空間は本当にぎりぎりだ。
当然、ダルクは手を出そうとしたら国王の首に手をかけることもできる。ように見える。
親父がいるから、その心配はないんだけど。見た目にはわからないだろう。ダルクはひたすら慌てていた。
変装しているつもりなんだろう、おじさんは、平民の服を着込んでいる。
どこで手に入れたいやその前にどうやって抜け出した。あ、地下通路なのかそうなのか。
こちらをちらと見た緑の瞳が、ふっと細められた。
何やってんだよ。危ねえよこんなとこにきたら。
ちょっと力が抜けた。
しかし、クロがディアスさんちに戻ってから用意したにしては、来るのが早すぎる。
親父をちらと見た。目が合うと、にやりと笑われた。
……お見通しだったか。俺が失敗するところまで。
ぐっと拳を握りこむ。くやしい。俺だって、一族なんだ。それなりに休まず鍛えてきたし、勉強だってしてきた。冒険者くずれの闇業者の後くらい、簡単につけられるはずだったんだ。
でも結果は、こうだ。口の中に血の味がすることに、今更ながら気がついた。いつの間にか、変に歯を食いしばって口の中を切っていたらしい。
「私が誰だか、わかりますか、ダルク」
静かに、おじさんは語りかける。
「……わかんねぇやつは、この界隈にはいねぇよ」
ダルクは、部屋の隅にできるだけ移動して、両手を上げていた。手を出しませんの合図だ。
その顔は、諦めに満ちていた。暴れても何にもならないことは、わかるらしい。
「あなたには選択肢はない。わかりますね」
ふっ、と、ダルクは少し下を向いてから、おじさんに向き直った。
「ああ、俺はここで終わりだ。ひとつだけ言ってもいいか」
口を開きかけたおじさんを、親父が制した。
「……カーライル家に俺が連れて行った、アリスってやつ。もしかしたら名前も変えられちまうかもしれんが、あいつは利用される。罪は犯すだろうが、親を人質にとられてんだ。考慮してやって欲しい」
そう言うと、ダルクはどすんと、床に座り込んだ。
「さあ、やってくれ。一思いだと嬉しいんだがな」
ふっ、と笑う声が聞こえた。おじさんだ。
一足、一足。ダルクに近づいて。
すっと、ダルクに手を伸ばす。
その手には、酒瓶が握られていた。
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