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第一章:アーリーンの恋 【第二部】貴族学園で二度目の恋を
5.淡くて切ない初恋に清算を
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「すまない。ヒーロー役を奪ってしまった」
まるで悪いとなど思っていないとばかりに、にこやかな笑顔でヤミソンへの謝罪告げながら、エルドレッドはヤミソンとアーリーンの傍へとやってきた。
「……いいえ。僕ではあの場を収めることも、アーリーン嬢に酷いことをした令嬢に罪を認めさせることもできませんでしたから。さすがですね、兄上」
「私ももう最終学年だからね。学園のことはかなり把握できているつもりなんだ。済まなかったね、アーリーン・ペイター侯爵令嬢。在学生相手なら、こんなことはさせなかったのに」
させなかった、という言葉にアーリーンはふるりと寒気を感じた。
きっとこれまで何度も先ほどのような大鉈を揮うような差配を示したのだろう。
それでも、見上げたそこにあるのは、大人びてしまってはいてもアーリーンの知っている優しい王子様の笑顔だ。
「エルドレッド第一王子殿下へ、ペイター侯爵家一女アーリーンがご挨拶申し上げます。殿下のお陰で、これからは落ち着いた学生生活を送れそうです。ありがとうございました。頂いたお言葉を胸に、これから一層勉学へ励んで参ります」
朝、ヤミソンへ贈った最上級のカッツィーと同じものを万感の思いを込めて贈る。
あの日の言葉はずっとアーリーンの胸に刺さったままだった。けれど、ようやくあの時の言葉を、アーリーンは素直に受け取れるようになった気がした。
「綺麗なカッツィーだ。沢山練習をしたのがわかる。頑張ったね、アーリーン嬢」
「ありがとう、ぞんじます」
あの日から、がむしゃらに練習を繰り返した日々が報われた気がした。
膝の痛みやドレスを汚してしまったからだと誤魔化して熱が出るほど泣いて。
『アーリーンは、……無理だよ』そう言って、アーリーンを切り捨てたエルドレッドに前言撤回させられるようになりたいと願った。
本気で重ねた努力が認められたのだと、頑張った自分が誇らしかった。
だからようやく、エルドレッドにも笑顔を返せた。
「さぁ。アーリーン嬢も、ヤミソンも、急いでランチを掻き込んだ方がいい。でないと本当に午後の授業でひもじい思いをすることになる。席は、私たちのところへ来ればいいよ」
そういって、たくさんのテーブルが並んでいる奥の一角を指差して、エルドレッドは友人たちと共に席へと戻っていった。
まだ自分達も食事中だったのだろうが、わざわざアーリーンたちの窮地を救う為に来てくれたのだと思うと胸が熱くなった。
「私だけの王子様じゃなくても、エルドレッド兄様はやっぱり王子様だわ。未来の、国王陛下なのね」
強く正しい国王となった未来のエルドレッドの姿を想像して、アーリーンの胸が熱くなった。
そうして、あの日の彼の言葉がすとんと胸に収まった気がした。
彼の想い描く妃には、きっとアーリーンは相応しくない。
守られる側ではいけないのだ。彼の隣に立ち、共に民を守る者でなければ選ばれない。
それでも、臣下として彼を信じついていくことくらいは、アーリーンにだってできる。
できるようになりたいと、心を新たにした。
去っていくエルドレッドの後ろ姿を振り切るように、「さあ、わたくし達もランチにしましょう」とアーリーンは、ランチを配っている列へと並んだ。
すでに選択肢もかなり減っていた。残っているのは魚介のパスタのセットと、チーズやコールミートが乗せられたパンケーキのセットのみ。
「わたくし、なんだか興奮しすぎてあまり食べられそうにないからパンケーキにするわ。ヤミソン様はどちらに致しますか?」
はしゃぐアーリーンは、だからヤミソンが呟いた言葉に気が付かない。
「僕が、一番傍にいたのに」
ぎゅっと拳を握りしめ、続きの言葉を飲みこんだヤミソンは、笑顔をつくってアーリーンの傍へと駆け寄った。
「ねぇ。どちらもっていう選択はアリだと思う?」
まるで悪いとなど思っていないとばかりに、にこやかな笑顔でヤミソンへの謝罪告げながら、エルドレッドはヤミソンとアーリーンの傍へとやってきた。
「……いいえ。僕ではあの場を収めることも、アーリーン嬢に酷いことをした令嬢に罪を認めさせることもできませんでしたから。さすがですね、兄上」
「私ももう最終学年だからね。学園のことはかなり把握できているつもりなんだ。済まなかったね、アーリーン・ペイター侯爵令嬢。在学生相手なら、こんなことはさせなかったのに」
させなかった、という言葉にアーリーンはふるりと寒気を感じた。
きっとこれまで何度も先ほどのような大鉈を揮うような差配を示したのだろう。
それでも、見上げたそこにあるのは、大人びてしまってはいてもアーリーンの知っている優しい王子様の笑顔だ。
「エルドレッド第一王子殿下へ、ペイター侯爵家一女アーリーンがご挨拶申し上げます。殿下のお陰で、これからは落ち着いた学生生活を送れそうです。ありがとうございました。頂いたお言葉を胸に、これから一層勉学へ励んで参ります」
朝、ヤミソンへ贈った最上級のカッツィーと同じものを万感の思いを込めて贈る。
あの日の言葉はずっとアーリーンの胸に刺さったままだった。けれど、ようやくあの時の言葉を、アーリーンは素直に受け取れるようになった気がした。
「綺麗なカッツィーだ。沢山練習をしたのがわかる。頑張ったね、アーリーン嬢」
「ありがとう、ぞんじます」
あの日から、がむしゃらに練習を繰り返した日々が報われた気がした。
膝の痛みやドレスを汚してしまったからだと誤魔化して熱が出るほど泣いて。
『アーリーンは、……無理だよ』そう言って、アーリーンを切り捨てたエルドレッドに前言撤回させられるようになりたいと願った。
本気で重ねた努力が認められたのだと、頑張った自分が誇らしかった。
だからようやく、エルドレッドにも笑顔を返せた。
「さぁ。アーリーン嬢も、ヤミソンも、急いでランチを掻き込んだ方がいい。でないと本当に午後の授業でひもじい思いをすることになる。席は、私たちのところへ来ればいいよ」
そういって、たくさんのテーブルが並んでいる奥の一角を指差して、エルドレッドは友人たちと共に席へと戻っていった。
まだ自分達も食事中だったのだろうが、わざわざアーリーンたちの窮地を救う為に来てくれたのだと思うと胸が熱くなった。
「私だけの王子様じゃなくても、エルドレッド兄様はやっぱり王子様だわ。未来の、国王陛下なのね」
強く正しい国王となった未来のエルドレッドの姿を想像して、アーリーンの胸が熱くなった。
そうして、あの日の彼の言葉がすとんと胸に収まった気がした。
彼の想い描く妃には、きっとアーリーンは相応しくない。
守られる側ではいけないのだ。彼の隣に立ち、共に民を守る者でなければ選ばれない。
それでも、臣下として彼を信じついていくことくらいは、アーリーンにだってできる。
できるようになりたいと、心を新たにした。
去っていくエルドレッドの後ろ姿を振り切るように、「さあ、わたくし達もランチにしましょう」とアーリーンは、ランチを配っている列へと並んだ。
すでに選択肢もかなり減っていた。残っているのは魚介のパスタのセットと、チーズやコールミートが乗せられたパンケーキのセットのみ。
「わたくし、なんだか興奮しすぎてあまり食べられそうにないからパンケーキにするわ。ヤミソン様はどちらに致しますか?」
はしゃぐアーリーンは、だからヤミソンが呟いた言葉に気が付かない。
「僕が、一番傍にいたのに」
ぎゅっと拳を握りしめ、続きの言葉を飲みこんだヤミソンは、笑顔をつくってアーリーンの傍へと駆け寄った。
「ねぇ。どちらもっていう選択はアリだと思う?」
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