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婚約者編

1.始まりは、婚約破棄の定番のように

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 貴族学園の卒業パーティー。
 卒業式も恙なく終わり、会場は別れを惜しむ声や、明日から始まる新生活への希望に満ち溢れていた。

 卒業生代表として乾杯の言葉を求められた、前生徒会長でありこの国の第二王子であるオレファン・オリゴマーは上機嫌で壇上へ上がった。

 豪奢なシャンデリアの光を受け、まるで太陽がそこにあるように輝く金の髪とエメラルドを嵌め込んだような美しい瞳。成績は常にトップを守り切り、剣の腕も立つという。
 常に冷静な表情を崩さず、模範的というより冷徹とさえ称されることの多いこの王子が笑顔を浮かべている。
 参加していた生徒一同、いや教職員ですら、思わずその姿に見惚れた。


「今日という善き日を皆で迎えられたことを嬉しく思う。明日からはそれぞれ違う道を歩むことになるが、ここで学んだものを糧として、まっすぐに前を向いて歩いていこう!」

 そう言って、シャンデリアの灯りを受け煌めくクリスタルのグラスを掲げ、一気に飲み干す。

 会場の卒業生たちも、それに倣ってグラスに口をつけていく。
 グラスの中のシャンパンから立ち昇る気泡と芳香、そして咽喉を伝わっていくアルコールによる高揚感で、会は華やいだ。

 後ろに控えていた在校生である現生徒会長が、飲み干されたグラスを受け取ろうと傍に寄った。だが、それに気が付かないのか空になったグラスを手にしたまま、オレファンが声を張り上げ一人の女生徒の名前を、声を大にして呼びだした。

「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」

 ざわめきが走り抜ける。

 第二王子と、二つ下の学年にいる婚約者は学年が違うという以上に傍にいることが少ない。
 登下校は別。朝も、校門前で顔を合わせた時にさっと挨拶をするだけ。
 昼食も別行動。
 別行動すぎて、あまり仲は良くないらしいともっぱら噂されていた。
 別行動なのは、婚約者が生徒会の役員ではないことも大きい。
 役員は、成績が優秀であると学園が認めた者に声を掛けるシステムになっていたので、王子の婚約者で公爵令嬢ともあろう者が声を掛けられないことを嘲笑う者も多かった。
 そして生徒会役員となれなかった婚約者の代わりに王子の傍で常に寄り添い共に行動していたのが、現生徒会長であるエリー・ワイス子爵令嬢であった。
 一部の生徒の間では、子爵家では王子妃として身分が足りないから悲恋に苦しんでいるのだろう、ふたりは真実の愛で結ばれ惹かれ合っている、などと実しやかに囁かれていた。

 ゆっくりと、周囲から人が離れていく。
 距離を取られたミリアの前までオレファンが歩いて来た。
 その宝石のように碧の瞳は、じっとミリアを見つめて離さない。

 あまりの緊張感に、同じ会場にいる生徒たちの中には、真っ青になって今にも頽れんばかりになっている者もいた。
 不仲であると噂のある婚約者たちがどうなるのか、周囲は固唾を呑んで見守る中、オレファンが、いきなり婚約者の手を取り、大きな声で宣言した。


「明日、大聖堂で二人だけの婚姻式をしよう。披露宴は半年後でも一年後でも我慢する。でももうこれ以上、ミリアと婚約者なだけでは我慢できないんだ」




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