約束の夢を少女は信じた。

音爽(ネソウ)

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名も無き少女は夢を見る

卑陋なお茶会2

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「ふん、丁度良い。下女の面白い話を披露するですだ。ちょっとした余興ですマス。下女、こちらにきて夢の話を王子様にするのだ」

呼びつけられて渋々と歩を進め、客人方に礼を取る。視線が痛い。
「……わ、わたしは幼少から同じ夢を見るのです。夢の中の私は美しい城の薔薇庭園で華やかなドレスを着てダンスをしています。私の家族はみんな美しく着飾って優雅にお茶を飲んでいます。茶会が終わると私は馬車に乗せられ旅に出るのです。『必ず迎えに行くから良い子で学ぶのですよ』お母様が私を抱きしめそう言いました。」


話を纏める為に目を閉じ一呼吸。そこで王子様が問いました。
「ずいぶん具体的だね、まるで実際に体験したかのようだ」
「う、はい。そうなんです。香しい薔薇園の風景もお茶の味も知っているし、抱きしめられた感触もあるのです」

それを聞いた王子はもう一度質問してきました。
「その薔薇園にはなにがある?設備などは見たのかい?」
「は、はい。白い噴水があります、中央に水瓶を抱えた美しい女性のまわりを羽の生えた小さな生き物が飛び交う像が立っていて、甕から水が噴き出して虹がでていました」

かなり鮮明な情景を語る私を王子様と文官が驚いた顔をしてる。
何やら二人でこそりと会話してるの。


そこに腹を抱えて笑う、お嬢様が場の雰囲気を壊した。
「ぶひゃひゃひゃ!おかしいでしょう?こんな汚い下女がまるで姫みたいな夢を見るだなんて!」
その侮蔑の声に執事と侍女が合わせるように大笑い。


私は羞恥でいっぱいになり顔が赤くなっていく。
涙は辛うじて零れずに堪えてたの、退室したい気持ちが逸りサロンのドアを何度も見たわ。
しかし、お嬢様はそれを許さない。晒し者として吊るし上げるのはこれからなのね。


「どうだす?愚かな夢を見る身の程知らずのこの下女をお笑いくださいデス」
グハハハハッと大声でお嬢様は笑う。


私の心は限界にきて、一粒涙が零れてしまった。
それを見たお嬢様が手を振り上げ私の頬を叩いた、衝撃はそれほどないけどショックだった。

渇いた音がサロンに響いた。
「汚い水でカーペットを汚すな!下女のお前が一生かけても買えない品だ!当分飯抜きで働け!」
それは死の宣告同然で、普段でも1食程度なのに餓死が確定したようなもの。


私は詫びながら涙がつぎつぎ零れてしまい、止めたくても止まらないの。
いっそここで斬り捨てて欲しいと思わず騎士様を見てしまった。

「薄汚いと言っているだろう!」
お嬢様が再び手を振り上げた、逃げたくても身が竦んで避けられそうもない。

痛みを覚悟して歯を食いしばったわ。
でも頬に手が到達する前に、お嬢様の腕が騎士様に掴まれていた。

目の前のことが信じられず、茫然としてしまう。

「見目と同じに性根も醜いようだな!」
騎士様がお嬢様に向かって恫喝されていた。
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