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夕暮れの歌

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初見ではないと言ったカーティス。
ではどこで出会っていたのか――。

赤くなって謝罪するエリアナに彼は眉を下げて詫びる。

「少し意地悪をしました、会ってはいましたが名乗ってはいませんでした。ですから謝罪は要りません」
青年は意味ありげな発言をするのでエリアナは訝しい顔をになる。

「失礼でなければどこでお会いしたか聞いても?」
「はい、貴女に会ったのは去年の夏でした」

それを聞いたエリアナはハッとして口を押える。
去年の夏、それは北の領地で静養していた頃だった。なにかを思い出したエリアナはカーティスの顔を見上げる。

「別邸の護衛さんだった方?」
「はい、僅か半年ほどでしたがお屋敷を護らせていただきました」

カーティスは懐かしい目をして語った。
「夕暮れ時になると貴女は窓を開けて歌われていましたね、とても澄んだ美しい声でした」
「……ふふ、そんなこともありましたわ、聞かれていたのですね恥ずかしい」

田舎の夕方はとても静かで虫の声しか聞こえない。
護衛の存在を失念して、誰もいないと思い込んでいたエリアナは毎日夕暮れの空へ向けて歌っていたのだ。

「あの時の歌はなんというのですか?」
「タイトルはないんです、私が気分で適当に作った歌ですから」
「そうでしたか、通りで販売されてないわけだ」

カーティスは歌声を反芻して知人や商店を周りレコードを探したという。
「いやだわ素人の歌ですのに」
「とても素敵な歌です、恥ずかしがることはない」

頬を染め合う二人に父バルドの咳払いで我に返る。


***

三日間の祭りが終わり、騎士カーティスとも会うことはないだろうと芽生えそうな恋心を閉じてエリアナは報酬の小説を読み耽った。

長編小説は15冊にも及んだが一気に読んでしまったエリアナは再び虚しさをおぼえる。
「はぁ、素敵な恋物語だったけど……なにかしらこの物足りなさは。ラウラの虚無病がうつったかしら」

気分転換に庭園へ散策へ出たエリアナはすっかり秋になった気配を楽しみ上を向いた。
優しくなった陽射しとうろこ雲が青い空を覆っている、微かに冷たい風が頬を撫でた。
夕暮れに歌ったあの唄をなんとなく口ずさむ。


アザミが綿帽子を広げていたのでそれを摘んで風に散らして遊んだ。
「いつぶりかしら?服に着くからと乳母に怒られたわね」

童心に帰ったエリアナは次々と散らしていく、気が付けば庭一杯に白い綿毛が舞っていた。
そこへ馬車の音が聞こえた、来客だと慌てて屋敷へ戻った。

「アラアラお嬢様!綿毛だらけですよ、お召し換えください」
「え?あらやだドレスが綿だらけ!」

大慌てで自室に戻り素早く着替えた、一応客人に備えてだが誰に会いに来たかは今時点で不明。
するとメイドが応接室にくるようにと託けを持って来る。

「私に?先触れはなかったけれど」
父が接待するように指示したのだろうと髪を調えてエリアナは足早に向かう。

お待たせしましたと声をかけて入室すれば見知った顔がそこにあった。
長い足を組んだ青年が立ち上がり優しい声でエリアナを呼ぶ。

「エリアナ嬢、きょうは天界から降りてきたのですか?白い産毛が可愛らしい」
「え!?……あああ!」

白い綿毛が髪の毛にくっついていた。

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