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「私の差し上げられる至宝はです、それ以外に考えられません」
「なんだと!?巫山戯るな!」
憤激した王子は怒りに任せてがなり散らした。呆気に取られたピエリナ王女側は「まぁ」と言って立ち上がり退散していった。

「ああ、恐れていたことが……王子、いくらなんでもこの仕打ちは酷いのでは」
側近のひとりが諌言すると「うぬぅ」と唸り憤怒の形相をして震えていた。頭に血が上った彼は「明朝には帰国する」と一言発して立ち去った。



「とんだ無駄骨であったわ、くそぅ!何が真心か、そんなもので腹が膨れるのならば苦労せぬ」
帰路についた王子一行はみんな一様に「やれやれ」といった感じだ。やっと決まると思った縁談が無に帰したのだから当たり前である。
「このままでは王太子の座は第二王子になるだろう」
「ああ、その通り……受け取った羊も色を付けて返さねばならない」

羊千匹に対し五百を足して返還するのが筋と言えた、勘定方は頭が痛い事だろうと側近らは噂した。


「して、王子よ。如何様にして詫びるつもりか、羊千五百は痛いぞ」
ミオス王は威厳たっぷりに睨みつけてバルトロ王子を威嚇した、たっぷりと髭を蓄え眼光鋭い王はただでは済まさないと立腹していた。
「ひゃ、ひゃい我が王よ……私の自領から補填したいと思います……はい」
「ふん、欲深な王子は見事玉砕したというわけか。追手沙汰をだす謹慎しておれ」
「はい……」

踏んだり蹴ったりの王子はすっかり悄気て、大人しく居室にて謹慎した。
「ああ、なんということか、やはり妥協してギリアンの姫君を娶るべきであったか……。いや、しかし真心などという虚けだ碌なものではないはず、そうだこれは英断だったのだ。そうに違いない!」
愚かな王子は反省するどころか「ギリアンの姫が悪い」のだとブツクサ文句をつけた。

「やはりあの時点で、我に見合った至宝はくらい言えなくては話にならない!」
バルトロは己の価値を見誤り自己肯定が強いのだ、自尊心を傷つけられた彼はギリリと爪を噛み苛立った。
人の価値とはそういうものではないのだが、彼には分からないのだ。

***

一方、ギリアンの姫は新たに舞い込んだ縁談に飛びついていた、今度こそは誠実な男性であって欲しいと祈っていた。星の国リオナからティーノ王子が是非にと懇願してきたのだ。

「初めましてティーノ殿下、私には勿体ない縁談で恐縮いたしております」
「いいえ、姫。私はそのままの貴女が良いのです、純朴にして情に熱いと伺っています。是非私の所へ嫁に来て欲しい」
黒髪黒目の珍しい相貌をしたリオナの王子は精悍な顔立ちをしていて、穏やかな性格といえた。ピエリナ王女はポ~ッと麗しい姿に熱を上げた。

今度こそは間違えないと王女はリオナ国の王子に「私の真心を受け取ってくださいますか」と問うのだった。
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