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新天地ルデルバリ
しおりを挟む長い船旅を終えて地に足を付いた、港町ホシルタだ。国名はルデルバリという。
大きな期待を胸に彼女ララはその町を闊歩する、「なにか楽しいことが起こりそう」と言うのだ。
「なにかとはなんだ?」
「なんでも良いのよ、例えばそうね、食べ物が美味しいとか」
「ふぅん?」
ホシルタは兎に角美しい街並みだ、淡く青い屋根が並び目に眩しい。白浜が続く海岸線は永遠に長い、この景色だけで素晴らしいとララは思った。
「さすが観光地ね、クルーズ船が頻繁に行き交っているわ」
うっとりと眺める彼女に「ポートリックと何が違うのだ」とシェイドが言った。
「もう無粋だわ!この違いがわからないなんて!」
「ごめんごめん、そう怒らないで」
彼女のご機嫌が斜めにならないように彼は「ほら、そこに美味しそうなパン屋がある」と誤魔化す。冷や汗を掻きつつララのほうを見ると顔が輝いていた。
「買いにいくかい?」
「え、うう~ん……買う」
頬を赤らめてそう呟く彼女が可愛くてシェイドはハイテンションだ、さっそく買いに行こうと誘った。カランカランというドアベルを鳴らして店内へ行くと「いらっしゃい」という朗らかな声がした。
「わぁ、色んな種類があるのね、魚介のパイにベリーまで」
どれひとつ取ってもツヤツヤで香ばしい香がしてきそうだ。いくつかのパンを取って会計に持って行く。
「毎度、お嬢さんは観光かい?」
「え、はい。そのつもりです」
パン屋の女将はニコニコと笑い「ありがとう」と言って手を振る。
良い買い物が出来て良かったと彼女はさっそくと砂浜へと降りていく、そこで食べるようだ。
「ん!美味しい!焼きたてパンが香ばしいわ」
「そうか、良かったな」
シェイドは穏やかに微笑みパンを齧るララの頭を撫でた、急にそんな事をされた彼女は気恥ずかしい。
「あの……パン食べる?」
「いいや、いいよ。店内に入っただけで満足だ、とても良い香だった」
シェイドはそういうとお腹をポンポンと叩く、どうやら供物としてパンを愛でたらしい。
「なんかズルイ!」
「ははっ悪いな神の特権だ、代わりに小さい加護を与えてきた。きっと今日のパンは美味いぞ」
「そうなの?じゃあここにあるパンが美味しいのもそのせい?」
なんとはなしに見た海老のグラタンパンを不思議そうに眺める。するとキュルルという腹の虫に再び顔を赤らめてララは慌ててパンを食んだ。
***
「なんだこれは!どうしたというのだ!」
オルフォード城の玉座の間に生えていた黒い実がザワザワと蠢いていた。王はずっと小康状態だった実をみつめて慄いていた。黒い実は膨らみ今にも弾けそうなのだ。
悪い事はしていないはずだと王はが鳴り散らす、そこへ暫く留守にしていた大将校が青い顔をしてやってきた。王はそれだけで嫌な予感をおぼえる。
「ご報告いたします、ポートリックに派遣した騎士が数名瀕死の体で戻ってきました。その、なんといいいますか衛兵に連れられて」
「ええい!誤魔化すなはっきり申せ!」
悪い予兆を齎す黒い実がすべてを物語っていると王は怒鳴った、すると大将校は意を決したのか話し出す。
「な、んだと……通りで黒き実に異変が起こるはずだ!何という事してくれたのだ!極刑だ、極刑にて責任を果たせ!むろん大将校、貴様もだぞ!」
「そんな!あんまりでございます!せめて降爵を」
「喧しい!連帯責任だ、痴れ者が!」
押し問答をしている最中にも黒い実はいまにも爆ぜそうになっていた。それを見た王は「どうか怒りを抑えてください」跪いた。大将校も同じに跪く。
だが、ブルリと震えた実はそのまま落ちてきて禍々しいオーラを醸し出して来た。悲鳴を上げた王は「もう駄目だ」と言った。鬼が出るか蛇が出るかと恐れた王は脱兎の如く玉座の間を後にした。
「お待ちください王よ!」残された側近らは慌てて追いかける。
「煩い!お前達に構っていられるか!」
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