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クロイモノ
しおりを挟む王は誰より早く玉座の間から出ようと走り去る、だが半身が蜥蜴である為か上手く動けない。ギクシャクとしていた足が縺れた、「ぐえ」という情けない声を上げてすっ転ぶ。
「ええい!我ながら鬱陶しいことよ、足腰がままならぬ」
ブツクサと文句を垂れながら王はそれでも走ろうとした、ヨロヨロと立ち上がると玉座の間の出口へと向かった。
「王よ、お待ちくだ…ぎゃあああぁぁ!」
「な、なんだ!?」
耳を劈くような叫びを聞き振り向いてしまった、王は後悔することになる。
「あわ、あわわわ……なんだ、なにがどうしたというのだ!」
それは黑い木の枝に突き刺さった侍従らの姿であった、無造作に刺さるそれは、まるで木の実のようだ。王は情けないことにただそれを見つめるしかできない。声すら上げることが出来ないのだ。
そして、肝心の爆ぜる寸前だった黒い木の実だったが、跡形もなく消滅していた。どういうことかと周囲を見回せば黒いものを見つけた。
「人……なのか?」
それは真っ黒で闇色をしていた光も通さないほどそれは黒くて、ユラリユラリと揺れていた。人型をした闇がそこにいたのだ。目と口らしきがあったようにも見えるが良く分からない。それを無理矢理に例えるならば穴である。
大きさは少年くらいで1mほどしかなかった。
「ひ、なんだ?何がしたいのだ?」
王は怯えつつもソレに話しかける胆力があったらしい、それはニタリと嗤った気がした。ジリジリと距離をおこうとする王は出口の方を気にしている。
「オマエ ダレ?ワタシハ ハラガスイタ」
闇人間は片言で話しかけて来た、王はただ得体のしれないものに畏怖する。誰か盾になる者はいないかと周囲を気にした。木の下に宰相を見つけた、彼を盾にして逃げることを思いつく。
「さ、宰相!こちらへこい!私を守れ!守らんか!」
「ひぃ!話しかけるな!こうなったら王も家臣もあるものか!」
「なんだと!貴様ァ!」
闇は頭を傾げる素振りを見せると「ドチラガ ウマイ?」と聞いて来た。なにやらその人物から噴き出している、良く良くみると小さなバッタのようだ。それすらも真っ黒だ。
「ひい!王だ王の方がでっぷりと肥えている!食うならあっちだ!」
「なんだと!?余は脂だらけで不味いぞ、食べるなら宰相を食え!」
どっちもどっちという言い争いをしている、闇人間は「ドッチ コッチ オイシイ」と指でふたりを指していた。ニイッと嗤うその口は大きく弧を描いている。
「やめろ!私は美味くない!」
「巫山戯るな!お前の方が美味しいはずだ!」
ぎゃあぎゃあと騒がしい二人を見て「ドッチデモ イイ リョウホウ クウ」と言った。
「イタダキマス」
闇人間がそういうと黒いバッタがワァと飛びだしてきた、人型をとっていたのはバッタの集合体だったのだ。ワラワラと飛び跳ねるバッタは人の形を崩して二人に遅いかかる。
「ぎゃあああああ!」
「うわあああ!助けて!」
「マァマァ ウマカッタゾ」
バッタの集合体である闇人間はゾゾゾッと形を変えた、そこにはハッキリとした人の顔が見えたではないか。
「ヒトのカタチヲ 貰っタ アァご主人サマ 私はヒトニナレますか?」
恍惚とした表情の闇人間は美しい顔で嗤った。
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