10 / 32
平和な花畑と後宮の狐たち
しおりを挟む
波紋のように歪んだ空間の先に後宮の居室が繋がっていて、先ほどから何か喧騒が聞こえる。
「空間を挟んでも聞こえるなんて、どれほど騒いでるのかしら?嫌ね、皇帝のスケベ」
「ラナサマヲ、シンパイシテイルノデハ?」
「は?心配をなんで?たかが人質に関心をもつとは思えないわぁ、そのうち諦めて別の側室と寝るんじゃない?」
「ソウデショウカ、トテモカナシイ コエノヒビキヲ カンジマス」
人形のミーニャの方が、人間の機微に鋭いようだ。
ハウラナは皇帝の冷たい表情を思い浮かべた、やや長めの黒髪に切れ長の暗紫の瞳、顔は整っていると思う。
ヒョロリとした長身で、意外に背中が広くて大きかったなと思い出す。
ほぼ無表情の彼の顔に愛情の片鱗はなさそうだと苦笑いする。
貧相な小国の娘を、面白半分に抱きにきたと思っているハウラナには乙女心は皆無だった。
「ほっときなさい、私眠くなっちゃった。」
ハウラナは愛用の枕を取り出し頭を乗せると目を瞑って大の字になる。
真昼のように明るく、ポカポカとした花畑は惰眠を貪るにはちょうど良い空間である。
「ヨナカナノニ ヒルネトハ……リカイデキマセン」
ミーニャはせめて上掛けだけでもと、亜空間ボックスを開いてシルクの上掛けを取り出し主にかけた。
本当は天蓋ベッドを出したかったが、人形のミーニャには魔力がそれほどなく無理だった。
「タンレン、シタラ。ワタシモ ツヨクナレルカ?」
スヤスヤ昼寝するハウラナから少し離れたところで、主の見様見真似をして運動を始めた。
「ワタシモ ツヨクナル ラナサマヲ マモルノデス!」
***
ハウラナが呑気に寝ているその最中、城内の近衛隊が総出で捜索をしていた。
朝日が昇る頃になっても、一向に足取りがわからない。
深夜に突然叩き起こされた側室たちも不機嫌そうに目を擦っていた。
翌朝、後宮の食堂に集まった席で、第一側室のアリルは不満を漏らす。
「は、どこかの田舎娘のせいでとんだ迷惑だわね。とっくに餓死してると思ってたのに」
焼きたてのパンをブチブチと引き千切って、口に放り込む。
それに賛同する各側室たち、彼女らも安眠妨害をうけて立腹していた。
「皇帝も大袈裟なことですわ、城から逃げおおせるわけもありません。腹を空かせて今頃は厨房にでも居座っているのではなくて?」
「残飯漁りでも?」
「そうね、まるでネズミのようだわ」
「小柄なアレのことだわ、壁に開いた穴に潜って移動でもしてるのでしょ」
ほんとうに卑しいネズミだわ、と側室たちは声を揃えて嘲笑した。
そして寝不足で不機嫌なアリルではあったが、正妃が横領とハウラナ誘拐の嫌疑で捕縛されたと聞きほくそ笑む。
『次の正妃はこの私で間違いないわ。側室の私に閨の誘いはなかったけど、今後は違う!世継ぎを腹に授かれば母国の立場は盤石となる。息が詰まるようだった後宮も思いのままだわ!』
なにもかも手に入れたと確信したアリルは増長して行く。
「空間を挟んでも聞こえるなんて、どれほど騒いでるのかしら?嫌ね、皇帝のスケベ」
「ラナサマヲ、シンパイシテイルノデハ?」
「は?心配をなんで?たかが人質に関心をもつとは思えないわぁ、そのうち諦めて別の側室と寝るんじゃない?」
「ソウデショウカ、トテモカナシイ コエノヒビキヲ カンジマス」
人形のミーニャの方が、人間の機微に鋭いようだ。
ハウラナは皇帝の冷たい表情を思い浮かべた、やや長めの黒髪に切れ長の暗紫の瞳、顔は整っていると思う。
ヒョロリとした長身で、意外に背中が広くて大きかったなと思い出す。
ほぼ無表情の彼の顔に愛情の片鱗はなさそうだと苦笑いする。
貧相な小国の娘を、面白半分に抱きにきたと思っているハウラナには乙女心は皆無だった。
「ほっときなさい、私眠くなっちゃった。」
ハウラナは愛用の枕を取り出し頭を乗せると目を瞑って大の字になる。
真昼のように明るく、ポカポカとした花畑は惰眠を貪るにはちょうど良い空間である。
「ヨナカナノニ ヒルネトハ……リカイデキマセン」
ミーニャはせめて上掛けだけでもと、亜空間ボックスを開いてシルクの上掛けを取り出し主にかけた。
本当は天蓋ベッドを出したかったが、人形のミーニャには魔力がそれほどなく無理だった。
「タンレン、シタラ。ワタシモ ツヨクナレルカ?」
スヤスヤ昼寝するハウラナから少し離れたところで、主の見様見真似をして運動を始めた。
「ワタシモ ツヨクナル ラナサマヲ マモルノデス!」
***
ハウラナが呑気に寝ているその最中、城内の近衛隊が総出で捜索をしていた。
朝日が昇る頃になっても、一向に足取りがわからない。
深夜に突然叩き起こされた側室たちも不機嫌そうに目を擦っていた。
翌朝、後宮の食堂に集まった席で、第一側室のアリルは不満を漏らす。
「は、どこかの田舎娘のせいでとんだ迷惑だわね。とっくに餓死してると思ってたのに」
焼きたてのパンをブチブチと引き千切って、口に放り込む。
それに賛同する各側室たち、彼女らも安眠妨害をうけて立腹していた。
「皇帝も大袈裟なことですわ、城から逃げおおせるわけもありません。腹を空かせて今頃は厨房にでも居座っているのではなくて?」
「残飯漁りでも?」
「そうね、まるでネズミのようだわ」
「小柄なアレのことだわ、壁に開いた穴に潜って移動でもしてるのでしょ」
ほんとうに卑しいネズミだわ、と側室たちは声を揃えて嘲笑した。
そして寝不足で不機嫌なアリルではあったが、正妃が横領とハウラナ誘拐の嫌疑で捕縛されたと聞きほくそ笑む。
『次の正妃はこの私で間違いないわ。側室の私に閨の誘いはなかったけど、今後は違う!世継ぎを腹に授かれば母国の立場は盤石となる。息が詰まるようだった後宮も思いのままだわ!』
なにもかも手に入れたと確信したアリルは増長して行く。
34
あなたにおすすめの小説
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
婚約を解消されたし恋もしないけど、楽しく魔道具作ってます。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「君との婚約を解消したい」
「え? ああ、そうなんですね。わかりました」
サラは孤児で、大人の男であるジャストの世話になるため、体面を考えて婚約していただけだ。これからも変わらず、彼と魔道具を作っていける……そう思っていたのに、サラは職場を追われてしまった。
「甘やかされた婚約者って立場は終わったの。サラ先輩、あなたはただの雇われ人なんだから、上司の指示通り、利益になるものを作らなきゃいけなかったのよ」
魔道具バカなのがいけなかったのだろうか。けれどサラは、これからも魔道具が作りたい。
【完結】悪役令嬢は婚約破棄されたら自由になりました
きゅちゃん
ファンタジー
王子に婚約破棄されたセラフィーナは、前世の記憶を取り戻し、自分がゲーム世界の悪役令嬢になっていると気づく。破滅を避けるため辺境領地へ帰還すると、そこで待ち受けるのは財政難と魔物の脅威...。高純度の魔石を発見したセラフィーナは、商売で領地を立て直し始める。しかし王都から冤罪で訴えられる危機に陥るが...悪役令嬢が自由を手に入れ、新しい人生を切り開く物語。
お前を愛することはないと言われたので、姑をハニトラに引っ掛けて婚家を内側から崩壊させます
碧井 汐桜香
ファンタジー
「お前を愛することはない」
そんな夫と
「そうよ! あなたなんか息子にふさわしくない!」
そんな義母のいる伯爵家に嫁いだケリナ。
嫁を大切にしない?ならば、内部から崩壊させて見せましょう
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!
月芝
ファンタジー
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。
不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。
いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、
実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。
父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。
ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。
森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!!
って、剣の母って何?
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。
役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。
うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、
孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。
なんてこったい!
チヨコの明日はどっちだ!
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
姑に嫁いびりされている姿を見た夫に、離縁を突きつけられました
碧井 汐桜香
ファンタジー
姑に嫁いびりされている姿を見た夫が、嬉しそうに便乗してきます。
学園進学と同時に婚約を公表し、卒業と同時に結婚したわたくしたち。
昔から憧れていた姑を「お義母様」と呼べる新生活に胸躍らせていると、いろいろと想定外ですわ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる