頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)

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平和な花畑と後宮の狐たち

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波紋のように歪んだ空間の先に後宮の居室が繋がっていて、先ほどから何か喧騒が聞こえる。

「空間を挟んでも聞こえるなんて、どれほど騒いでるのかしら?嫌ね、皇帝のスケベ」
「ラナサマヲ、シンパイシテイルノデハ?」

「は?心配をなんで?たかが人質に関心をもつとは思えないわぁ、そのうち諦めて別の側室と寝るんじゃない?」
「ソウデショウカ、トテモカナシイ コエノヒビキヲ カンジマス」
人形のミーニャの方が、人間の機微に鋭いようだ。


ハウラナは皇帝の冷たい表情を思い浮かべた、やや長めの黒髪に切れ長の暗紫の瞳、顔は整っていると思う。
ヒョロリとした長身で、意外に背中が広くて大きかったなと思い出す。
ほぼ無表情の彼の顔に愛情の片鱗はなさそうだと苦笑いする。


貧相な小国の娘を、面白半分に抱きにきたと思っているハウラナには乙女心は皆無だった。


「ほっときなさい、私眠くなっちゃった。」
ハウラナは愛用の枕を取り出し頭を乗せると目を瞑って大の字になる。
真昼のように明るく、ポカポカとした花畑は惰眠を貪るにはちょうど良い空間である。


「ヨナカナノニ ヒルネトハ……リカイデキマセン」
ミーニャはせめて上掛けだけでもと、亜空間ボックスを開いてシルクの上掛けを取り出し主にかけた。
本当は天蓋ベッドを出したかったが、人形のミーニャには魔力がそれほどなく無理だった。

「タンレン、シタラ。ワタシモ ツヨクナレルカ?」

スヤスヤ昼寝するハウラナから少し離れたところで、主の見様見真似をして運動を始めた。
「ワタシモ ツヨクナル ラナサマヲ マモルノデス!」



***


ハウラナが呑気に寝ているその最中、城内の近衛隊が総出で捜索をしていた。
朝日が昇る頃になっても、一向に足取りがわからない。

深夜に突然叩き起こされた側室たちも不機嫌そうに目を擦っていた。

翌朝、後宮の食堂に集まった席で、第一側室のアリルは不満を漏らす。

「は、どこかの田舎娘のせいでとんだ迷惑だわね。とっくに餓死してると思ってたのに」
焼きたてのパンをブチブチと引き千切って、口に放り込む。

それに賛同する各側室たち、彼女らも安眠妨害をうけて立腹していた。

「皇帝も大袈裟なことですわ、城から逃げおおせるわけもありません。腹を空かせて今頃は厨房にでも居座っているのではなくて?」
「残飯漁りでも?」
「そうね、まるでネズミのようだわ」
「小柄なアレのことだわ、壁に開いた穴に潜って移動でもしてるのでしょ」

ほんとうに卑しいネズミだわ、と側室たちは声を揃えて嘲笑した。
そして寝不足で不機嫌なアリルではあったが、正妃が横領とハウラナ誘拐の嫌疑で捕縛されたと聞きほくそ笑む。


『次の正妃はこの私で間違いないわ。側室の私に閨の誘いはなかったけど、今後は違う!世継ぎを腹に授かれば母国の立場は盤石となる。息が詰まるようだった後宮も思いのままだわ!』



なにもかも手に入れたと確信したアリルは増長して行く。


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