悪役令嬢はデブ専だった

嶋紀之/サークル「黒薔薇。」

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悪役令嬢・ヴァネッサ

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 少女漫画の悪役令嬢に転生したらしい。
 らしい、と言いましたのは、前世の自分の記憶がわりと曖昧なのでこれがわたくしの妄想である可能性も否めないからですわ。

 とにかく、落馬して頭をぶつけた衝撃で思い出した記憶――あるいは妄想――を信じるのならば、わたくしは将来、婚約者の王子殿下を他の女性に奪われてしまうようなのです。


 この世界を描いた物語――『シンデレラ★ロマンチカ』は、前世の世界でそこそこ有名だった、往年の少女漫画でした。

 元気が取り柄なごく普通の女のコである主人公が、ある日、不思議な力で異世界に飛ばされてしまう。彼女は異世界の人々と友達になったり、時にはイケメン男子に言い寄られたりしながらも懸命に元の世界へ戻る方法を探していく。そして、彼女の協力者であったこの国の王子様と、いつしか恋に落ちてしまい……という物語。
 王子様には親同士が勝手に決めた許嫁がいて、彼女は、王子様と友人となった主人公を妬み、嫌がらせをしまくっていた。自分勝手な性格のせいで王子様からは愛想を尽かされている。……これが、わたくしこと、貴族令嬢のヴァネッサですわ。

 最終的に、王子様はわたくしの性格のアレさだとか、権力のためにわたくしに取り入るばかりの周囲の人々だとかに婚約を破棄し、主人公と共にこの世界を捨てて駆け落ちしてしまうのです。

 残されたわたくしは、これまた親が勝手に決めた新しい婚約者に嫁がされるのだけど、その相手の容姿が気に入らないとかで文句をつけまくっていたし、読者からも笑いものにされていた――のだけど。わたくし、というか読者である前世のわたくしは、それが納得いかなかった。


 まず、前世のわたくしはそこまでこの漫画が好きではありませんでした。というか少女漫画自体があまり好きではなかったのだと思います。キラキラした乙女向けの絵柄は苦手でしたし、周りの皆の言うイケメンとやらにはあまり魅力を感じられませんでした。
 それでもストーリーを知っていたのは、前世のわたくしの姉がこの漫画の大ファンで、部屋に全巻置いてあったのを暇つぶしに読んだことがあるからでした。

 ラストで漫画の中のわたくしが気に入らないと文句をつけていた婚約者だって、そりゃちょっと年上でちょっとソバカスだらけでちょっと体重3桁っぽいおデブさんでしたけれど、少女漫画だからか顔は整っていましたし。
 なんならムチムチした体つきは他のイケメンたちよりよほど魅力的なのでは?
 豊満なおっぱいとムッチムチのお尻とふわふわモチモチのお腹の贅肉を持て余した殿方なんて最高じゃございませんの!? 嗚呼、あのたぷたぷして揉みしだきがいのありそうなお姿……セクシーすぎて乙女には刺激が強すぎますわ!!

 こんな魅力的なキャラクターを罰ゲームのように扱う作者と読者が信じられないのだけれど、それを前世の姉に言ったら「小学5年生にしてデブ専なん? 性癖の目覚め早すぎひん??」と突っ込まれましたわ。
 何を隠そう前世のわたくし、そして、その記憶を取り戻した今のわたくしは――筋金入りのデブ専、ふくよかな殿方に性的興奮を抱くという性癖を抱えておりますの。

 デブ男子の何がいいかと言われると一言では説明しきれないのですけれど、まずはやはり、ムチムチと丸っこいフォルム。そして柔らかなぷよぷよお肉。細い殿方にはない包容力を感じますわ。
 端的に言えばバブみを感じてオギャる、というヤツですわね。乳は出ないとわかっているのに授乳して欲しいと思ってしまいます。

 そう、世の殿方がおっぱいに目がないのと同じように、わたくしはデブ男性のムチふわ雄っぱいに目がないんですの。恋人になったら絶対揉みまくりたいですわ。雄っぱいには夢と希望が詰まっていますから当然ですわよね。殿方ですのに女のコのように大きな乳房、その倒錯的な感覚にグッと来るというか無い陰茎が元気になりますわグヘヘへへ。

 それにお洋服の布がぱつんぱつんにはちきれそうになっているのもたまらなくセクシーですわ。
 ズボンのお尻部分が今にも破けそうになっているのとか最高ですわ。殿方だってデカケツのチャンネーがお好きなのでしょう? わたくしも同じです。デブ男子のデカケツで窒息死してえですわ。
 前世の死因はあいにく病死で、しかもリアル男性とのコミュニケーションがろくにできない喪女でしたので、今世こそはデブ男性のデカケツで窒息死したいですわ。
 顔面騎乗はメジャー性癖ですので、わたくし、いたって普通のお嬢様でしてよ。

 っていうか布がはちきれそう部門でしたらお腹もたまりませんわよね。
 パンパンに張ってボールのようになったビール腹も、だるんだるんの贅肉が垂れ下がる三段腹(もっと段を重ねていらしても構いませんわ!! むしろ大歓迎ですわ!!)もどちらも趣の違うエロスがありますわ。弾力溢れるパツパツお腹はエネルギッシュで素敵ですし、ぷよぷよお肉の三段腹は包み込むような優しさを感じます……♡

 おなかと言えば、ズボンのボタンが閉められなくてベルトで固定なさってたりするともうたまりませんわね~~!!
 柔らかそうなお肉がムチッ♡ ムチッ♡ とお洋服から溢れそうになっているお姿はセクシーさと可愛らしさで脳汁ドパドパでしてよ。それにちょっと動いたらチャックがずり落ちて下着があらわに……キャーッ♡ 乙女には刺激強すぎますわ~~!! でも本音を言うと運動とかさせてラッキースケベしたいですわ~~!!

 ちょっと下品な話になってしまうのですけれど、あの、ナニがお肉に埋もれちゃうとかもドスケベですわよねゲッヘッヘ……。
 短○デブと巨○デブ、どちらが良いかというのは界隈でも論争が繰り広げられていたりいなかったりしますけれど、個人的には短○デブに軍配が上がりますわ。コンプレックスまみれのおデブさんが性癖にクるので。

 あとはマインドの話になってしまうのですけれど、デブ=怠惰みたいなイメージございませんこと? めっっっっちゃ興奮しますわ。

 デブにも色々あって、自信満々にオーバーサイズの自分が好きでデブをやっている方、容姿に頓着がないからデブをやっている方、自分に自信がなくダイエットしたいのに欲望に負けてデブになる方、様々だと思うのですけれど、わたくし最後のパターンが一番興奮いたしますの。
 とってもグラマラスでセクシーで魅力的な体つきなのに、痩せている方がいいなんていう世間の風潮を気にして、それなのについ運動も食事制限も長続きせず諦めてしまう心の弱さ……! そういう経験からくる卑屈さ……! 世の中にはわたくしみたいなデブ専だって隠れているだけでわりといるのにそれに気づかない自信のなさ……!
 隙だらけでとっても可愛らしくて、言葉責めでグチャグチャに泣かせてさしあげたくなりますわ。

 でも自信満々にグラマラスな体を見せつけるセクシー&キュートなデブも、容姿に頓着しない豪快でダイナミックでガサツなデブも、皆違って皆スケベ……もとい、皆良いと思いますわ。わたくしストライクゾーン広めのデブ専なので。


 漫画の中でわたくしが婚姻した殿方は、どちらかというと二番目タイプのおデブさんかしら?
 わたくしより10歳ほど年上の公爵様なのですけれど、お仕事の実力は素晴らしいのにどうにも見た目にこだわらなくて……ウブで芋っぽい感じがとても可愛らしいですわ。故意的にラッキースケベ起こしても気付かなそうな雰囲気ですわね。もしも漫画の通り殿下に婚約破棄されてしまっても、わたくし、幸せな新婚ライフを送れそうですわ。


「……いえ、今のはやっぱり嘘、ですわね……?」
 ――自分で考えておいて何を、というお話なのですけれど、思わず、声に出して否定してしまいました。
 強がってみましたけれど、やっぱり、殿下に婚約破棄されるのは嫌ですわね……? 前世のわたくしからしたら全然好みでもない、量産型イケメンだった王子殿下……シャルル様。でも、今世のわたくしからしたら初恋の殿方ですもの。

 透き通るような白い肌、きらきらと輝く金の髪、青空を切り取ったような澄んだ色のぱっちりとして愛らしい瞳。そんな、お人形のような美少年らしい顔立ちをしていながら、その内面はとても苛烈で男らしくて。ちょっと細すぎてきちんと食事していらっしゃるのか心配――いえ多分少女漫画界隈では平均的な細マッチョ体型なのでしょうけど――という点を踏まえてなお、わたくしの胸をときめかせるお方。
 今のわたくしは、どうやら2つの記憶が混ざってしまったようで……とくに鮮烈だったデブ専性癖が魂に刻み込まれてしまいましたけど。
 でも、それでも、あんな細くて折れそうな殿方であっても、シャルル様ならば許せてしまう気もしますわ……。

 できれば、シャルル様がもっとふくよかに……具体的には体重を最低3桁に増やしていただければ……もっともっと魅力的になると思わなくもないのですけれど。
 きっと天使のような愛らしさと男らしい貫禄が増し増しですわ。でも、親が決めた婚約者、しかもシャルル様はわたくしのことなんて全然好きでもないのに、自分の性癖に巻き込むわけにはいきませんわよね……。

 いずれ、シャルル様は異世界から訪れる主人公、カリンさんに心を奪われてしまうのでしょう。でしたらわたくしにできるのは、諦めて身を引くことだけなのでは?
 シャルル様がムチムチダイナマイトバディになったお姿を見たい、なんて欲望は捨てて、なんなら早々に婚約破棄されてしまった方が諦めもつくのではないかしら……?

 というか、他の女性とシャルル様が仲睦まじくなる様子を側で見るのはさすがに心が折れそうですわ。
 早々に諦めて、原作通りの旦那様と幸せになる道を選ぶしかないのでは? あの公爵様でしたら、わたくしの好みドストライクなムチムチおデブさんですもの。きっとすぐシャルル様への気持ちだって忘れられますわ……。

「……いっそ、この思いをお伝えしたら、シャルル様はわたくしを見限ってくださるかしら」
 表現の自由に守られた前世の世界ですら、性癖のカミングアウトには勇気が必要だったもの。
 前世でも、BLやゲイ向け、いっそ男性向けならともかく、乙女向け界隈におけるデブ萌え性癖はマイナー気味で、同志を探すのに苦労したものですわ。

 ヒョロ長いイケメンが闊歩する、わたくしの感性とは相容れない少女漫画の世界で、きっとこの性癖は浮きまくること間違いなし。どうせ失恋するのならば、ありのままのわたくしを知ってもらってから振られたい、などと思ってしまいました。


 ですので――爆速で行動しましたわ。
 お父様とお母様に、婚約者なのだからシャルル殿下にお目通り願いたいと駄々をこねまくり、二人きりでの面会の場を用意させました。そこだけ見るとめちゃめちゃ悪役令嬢ポイント高いですわねわたくし……。まあ婚約破棄されるためなのですけれど……。
 あとはシャルル様にこの性癖を暴露して! こんな令嬢はシャルル様に釣り合わないからどうか婚約破棄してくださいましと言えば完璧ですわ!!

 年号から考えると、主人公のカリンさんが異世界転移してくるのは、ここから2年後のはず。
 カリンさんとシャルル様が仲良くなるためにわたくしの妨害が必要なのかもしれませんけれど、恋敵に塩を送って差し上げる必要はなくってよ! まあわたくしどうせフラれるのですけれど!! 先手を打って婚約破棄されてやりますわよ!! やけくそですわ~~!!

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