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第七章 |老舗酒蔵の次男、麹で覚醒する
老舗酒蔵の次男、麹で覚醒する 其ノ参
しおりを挟むその日、夏はいつもと変わらず、開店準備中のつるのところへ遊びに行っていた。二人で麦芽をのぞき込みながら、喜兵寿と直はほっぷを手に入れられただろうか、などと話に花を咲かす。
そこへ突如、大勢の男たちがやってきたのだ。何がなんだかわからないうちに、つるは表通りへと引っ張り出された。
「お前がつるで間違いないな。令状だ、逮捕する」
もちろんなんのことが全くわからなかった。寝耳に水とはまさにこのこと。つると夏は思わず顔を見合わせる。
「あの……すみませんが、きっと何かの間違いだと思います」
つるが口を開くと、令状を手にした男がすらりと刀を抜いた。
「罪人が口を揃えて、みな同じことを言う」
そういってつるの髪を掴むと、思いっきり地面へと押し付けた。
「……つるちゃん!」
駆け寄ろうとした夏を、別の男が羽交い絞めにする。
「もう一度聞く。お前がつるで間違いないな?」
「……はい、そうでございます」
一体何が起こっているというのだ。つるは湧き上がってくる恐怖を、必死で飲み込みながら答えた。手が、おでこが痛い。刺すような男の声に足が震える。
「お前に令状がでている。自らの罪はわかっているな?」
「わたしは何もしていません!何かの間違いです!」
―――
そこからは新之亟(しんのじょう)が見たままだった。つまり、つるは何がなんだかわからないままに逮捕されたのだ。
「令状に何が書かれているかは見たか?」
夏は小さく首を振る。
「そんなもの見ている余裕はありませんでした……」
「まあ、そうだよな」
状況はよくわからないが、つるが逮捕されてしまったことは事実。まずは冷静になって、情報を集める必要がある。
新之亟は涙をこぼし続ける夏に、自分の羽織をかけた。
「俺はいまから小伝馬町の座敷牢に行ってくる。中には入れないだろうが、何かしらの手がかりは掴めるかもしれない」
「……」
夏は黙ったまま頷く。
「十中八九何かの間違いだろ。つるが逮捕されるなんてありえない。ま、迎えに行くつもりで行ってくるよ」
新之亟は、夏に向かってにっこりと笑う。
「俺、足だけは自信あんだよね。夏は家に帰って休んどきな」
そう言うと、新之亟は勢いよく走り出したのであった。
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