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第三章
17.菜乃花への相談
しおりを挟むーー留学までの残り日数があと残り11日となった、曇り空のある日。
紗南は下校時間になって帰り支度を終えると、駅まで一緒の菜乃花と教室を出た。
紗南はまだ報道に出てないアメリカ留学の話を打ち明ける事に。
「彼、アメリカで2年間ダンス留学するらしい。あと1ヶ月後には日本を発つって」
ちなみに、校内ではセイの名前を挙げないというルールを決めていた。
勿論、秘密情報漏洩防止の為。
「それって大スクープだよね。まだ正式発表されてないでしょ。もしそれが表沙汰になったらニュースになるのは確実だよね」
「……そだね」
紗南は自分から言い出したもののしゅんと暗い顔をする。
「じゃあ、紗南も両親に頼んでアメリカについて行っちゃえば? 紗南の家は裕福だから留学したいって言えばすんなり行かせてくれるんじゃない?」
「もー、そんな簡単に頼める話じゃないでしょ」
と言いながらも、昨日全く同じ事を考えてた。
勉強目的としない留学は、自分でもさすがに間違ってると思う。
「……どして?」
「私はひとりっ子だし、好きな人を追いかける目的で留学するのはさすがに気が引けるよ」
「えーっ、一緒に行けばいいのに。もし私が紗南みたいなお金持ちの家で育ったら、一瞬の迷いもなくハルくんを追って留学するのに」
「あはは、菜乃花らしいね」
いつもハルくんだけを一途に想う菜乃花が時に羨ましく感じる。
実際は深く考え過ぎているだけなのかもしれないけど。
「でも、彼が2年間もアメリカに行っちゃうなんて寂しいね。付き合って間もないのに……」
「うん、でも影でもいいから応援してあげないと。私もファンの一員だしね」
「偉いなぁ。彼の事だけじゃなくて両親の事も考えているなんて。私だったら意の向くままに行動しちゃうけどね」
昨日は1人きりで思い悩んでいたけど、やっぱり共感しながら話を聞いてくれる人がいるのは心強い。
菜乃花が話を聞いてくれたお陰で少し気が晴れてきた。
紗南達が留学話をしながら東門に向かって歩いていると、紗南の家庭教師の一橋が門の前で腕を組んで立っていた。
「紗南ちゃん、学校から出てくるのが遅かったね。結構待ったよ」
一橋は校門から出たばかりの紗南を呼び止める。
紗南は予想外な登場に目をパチクリした。
「あれ、一橋さん。こんな所で何やってるんですか?」
「こらこら。僕との約束をもう忘れちゃったの?」
「えっ、約束って?」
「先日、学校の傍にある書店に受験対策の問題集を一緒に買いに行こうって約束したじゃない」
目線を上向きにして記憶を辿らせた紗南。
先週の金曜日、確かにそんな話をしていた事を思い出す。
「あっ、そうだった! すっかり忘れてた」
痛恨のミスに思わず苦笑。
隣で様子を見ていた菜乃花は、初対面の一橋と目が合い軽く会釈。
一橋も菜乃花にニコリと会釈した。
「ひょっとして、そちらの方が例の家庭教師?」
「あ、うん。家庭教師の一橋さん」
「初めまして。紗南ちゃんのお友達さん」
「初めまして。糸井菜乃花と申します」
ニコリと愛想良く挨拶をした菜乃花は、隣の紗南を肘で突っつく。
「ねぇ、一橋さんと約束が入ってたのに忘れてたの?」
「あはっ、そうだったみたい」
「あはは……。紗南ちゃんは案外忘れっぽいんだね」
「ですよね。この前なんて下校時に自分のカバンを持たないまま家に帰ろうとしたんですよ。高校生なのに信じられないですよね」
「あはは、そりゃ参った」
腕組みしている一橋は、笑ったと同時に白い歯がキラリと光る。
2人は初対面だが、紗南の失敗ネタを親しげに談笑する。
「もー! その話は誰にも言わないでって約束したじゃない」
紗南はホッペを膨らませて2人の間に割って入ると、菜乃花はフッと笑って右肩にかけている紺色の学生カバンを持ち直した。
「ごめんごめん。2人とも忙しそうだから私は先に帰るね。じゃあね、紗南。また明日」
「ばいばーい! また明日ね」
菜乃花は紗南達に手を振り駅方面へと歩き出した。
徐々に菜乃花の背中が小さくなっていくと、一橋は突然プッと軽くフいた。
「紗南ちゃんのお友達は人懐っこくて明るい子なんだね」
「彼女はいつもあんな調子なんです。たまに迷惑してますけど」
紗南はスネ気味に口をツンと尖らせた。
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