プラトニック ラブ

伊咲 汐恩

文字の大きさ
18 / 60
第三章

17.菜乃花への相談

しおりを挟む



  ーー留学までの残り日数があと残り11日となった、曇り空のある日。
  紗南は下校時間になって帰り支度を終えると、駅まで一緒の菜乃花と教室を出た。
  紗南はまだ報道に出てないアメリカ留学の話を打ち明ける事に。



「彼、アメリカで2年間ダンス留学するらしい。あと1ヶ月後には日本を発つって」



  ちなみに、校内ではセイの名前を挙げないというルールを決めていた。
  勿論、秘密情報漏洩防止の為。



「それって大スクープだよね。まだ正式発表されてないでしょ。もしそれが表沙汰になったらニュースになるのは確実だよね」

「……そだね」



  紗南は自分から言い出したもののしゅんと暗い顔をする。



「じゃあ、紗南も両親に頼んでアメリカについて行っちゃえば?  紗南の家は裕福だから留学したいって言えばすんなり行かせてくれるんじゃない?」

「もー、そんな簡単に頼める話じゃないでしょ」



  と言いながらも、昨日全く同じ事を考えてた。
  勉強目的としない留学は、自分でもさすがに間違ってると思う。



「……どして?」

「私はひとりっ子だし、好きな人を追いかける目的で留学するのはさすがに気が引けるよ」


「えーっ、一緒に行けばいいのに。もし私が紗南みたいなお金持ちの家で育ったら、一瞬の迷いもなくハルくんを追って留学するのに」

「あはは、菜乃花らしいね」



  いつもハルくんだけを一途に想う菜乃花が時に羨ましく感じる。
  実際は深く考え過ぎているだけなのかもしれないけど。



「でも、彼が2年間もアメリカに行っちゃうなんて寂しいね。付き合って間もないのに……」

「うん、でも影でもいいから応援してあげないと。私もファンの一員だしね」


「偉いなぁ。彼の事だけじゃなくて両親の事も考えているなんて。私だったら意の向くままに行動しちゃうけどね」



  昨日は1人きりで思い悩んでいたけど、やっぱり共感しながら話を聞いてくれる人がいるのは心強い。
  菜乃花が話を聞いてくれたお陰で少し気が晴れてきた。


  紗南達が留学話をしながら東門に向かって歩いていると、紗南の家庭教師の一橋が門の前で腕を組んで立っていた。



「紗南ちゃん、学校から出てくるのが遅かったね。結構待ったよ」



  一橋は校門から出たばかりの紗南を呼び止める。
  紗南は予想外な登場に目をパチクリした。



「あれ、一橋さん。こんな所で何やってるんですか?」

「こらこら。僕との約束をもう忘れちゃったの?」


「えっ、約束って?」

「先日、学校の傍にある書店に受験対策の問題集を一緒に買いに行こうって約束したじゃない」



  目線を上向きにして記憶を辿らせた紗南。
  先週の金曜日、確かにそんな話をしていた事を思い出す。



「あっ、そうだった!  すっかり忘れてた」



  痛恨のミスに思わず苦笑。
  隣で様子を見ていた菜乃花は、初対面の一橋と目が合い軽く会釈。
  一橋も菜乃花にニコリと会釈した。



「ひょっとして、そちらの方が例の家庭教師?」

「あ、うん。家庭教師の一橋さん」


「初めまして。紗南ちゃんのお友達さん」

「初めまして。糸井菜乃花と申します」



  ニコリと愛想良く挨拶をした菜乃花は、隣の紗南を肘で突っつく。



「ねぇ、一橋さんと約束が入ってたのに忘れてたの?」

「あはっ、そうだったみたい」

「あはは……。紗南ちゃんは案外忘れっぽいんだね」


「ですよね。この前なんて下校時に自分のカバンを持たないまま家に帰ろうとしたんですよ。高校生なのに信じられないですよね」

「あはは、そりゃ参った」



  腕組みしている一橋は、笑ったと同時に白い歯がキラリと光る。
  2人は初対面だが、紗南の失敗ネタを親しげに談笑する。



「もー!  その話は誰にも言わないでって約束したじゃない」



  紗南はホッペを膨らませて2人の間に割って入ると、菜乃花はフッと笑って右肩にかけている紺色の学生カバンを持ち直した。



「ごめんごめん。2人とも忙しそうだから私は先に帰るね。じゃあね、紗南。また明日」

「ばいばーい!  また明日ね」



  菜乃花は紗南達に手を振り駅方面へと歩き出した。
  徐々に菜乃花の背中が小さくなっていくと、一橋は突然プッと軽くフいた。



「紗南ちゃんのお友達は人懐っこくて明るい子なんだね」

「彼女はいつもあんな調子なんです。たまに迷惑してますけど」



  紗南はスネ気味に口をツンと尖らせた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...