プラトニック ラブ

伊咲 汐恩

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第三章

18.絶体絶命の危機

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  2人は菜乃花と別れてから西門付近の書店へ向かった。
  東門から南に進んで学校の校庭をぐるっと囲むように信号手前を右折。
  校庭に面した道路は街のメイン通りとなっており、片側二車線で歩道はガードレールで仕切られている。

  校庭の側面に沿って歩き、学校の敷地の端まで歩くと、信号のある十字路に差し掛かる。
  そこを右折すると、狭い一車線道路になっていて普段芸能科の生徒が日常的に利用している西門へと繋がる。


  この一車線道路は別の大通りに繋がる抜け道として使われる事が多いが、車の頻度は比較的少ない。
  そのお陰か、芸能科の生徒の送迎には道路を挟んだ向かい側のパーキングがよく利用されるとか。

  東門から西門までの距離は、およそ6~7分。
  目的地の書店は西門から20メートルほど先の大通りに面したところにある。


  書店に向かう最中、2人は話に花を咲かせていると、芸能科の生徒が普段利用している西門の前を通り過ぎた。

  ーーと、次の瞬間。
  硬いものがガタガタと揺さぶられるような音と共に、騒がしい男の子の声が背後から耳に飛び込んできた。



「じゃー、次はユウセイが鬼ね。俺は逃げる役をやるから」

「鬼無理ーっ。お前がまた鬼をやれよ。俺が先に走るから」



  小学校から帰り道、遊びの延長線上でふざけ合っている男の子の声は、ランドセルを背負ったまま走る音と共に紗南達の方へと距離を縮めた。
  一方、話に夢中な紗南はその様子など気にも止めていない。

  ところが、よそ見をして走っていた男の子のうちの1人が紗南の背中へと勢いよく衝突する。

  ドンっ……



「きゃっ……」



  衝撃で紗南の学生カバンが手から外れてしまい、一車線道路の中央へと放り出された。
  男の子は道路中央に放り出されたカバンを見た瞬間、申し訳なさそうに上目遣いで頭を下げた。



「お姉さん、ごめんなさい」

「ううん、大丈夫だよ。でも、道を歩く時は左右をよく見て充分に気をつけてね」


「はぁ~い」



  模範生徒のような返事をしたのは低学年くらいの男の子。
  仕方ないなと思いながら、放り出されてしまったカバンを取りに道路の中央へと向かった。
  ところが、道路の中央に侵入した途端、青信号を左折してきたばかりの赤いバイクが一直線に走り迫ってきた。

  ブロロロロ~~

  バイクはぐんぐんとスピードを上げる。
  まるで紗南の姿を視界に捉えていないかのように。
  紗南自身もカバンを拾う事に気を取られてバイクの存在に気付かない。


  バイクとの距離、8メートル……
  7メートル……
  6メートル……


  運転手からはとうに紗南の姿は見えているが、爆音を立てたままスピードを上げて距離を縮めてくる。


  5メートル……
  4メートル……

  ヴォン  ヴォン  ヴォン~~

  うねるようなアクセル音は、道路に飛び出した紗南にどけと言わんばかりに。

  ーーだが、時はすでに遅し。
  バイクの存在に気付いた紗南の身体は硬直状態になっていた。



「……っ!」



  足がガクガク震えていて反射的に逃げ出すのは不可能だった。
  そして、何も出来ないこの一瞬が常に緊迫状態に。
  ーーところが。



「危ないっ……」



  先にバイクの存在に気付いていた一橋は、紗南が気付く前に行動に移していた。

  大きく張り上げた声が絶体絶命の危機に晒されている紗南の耳に届いた瞬間⋯⋯。
  一橋は危険も顧みずに道路の中央へと飛び出して。

  バフっ⋯⋯

  しゃがんでいる紗南の左腕を引き寄せて胸の中で抱き止めた。
  鈍い衝撃音が全身に響き渡った瞬間、紗南の視界がグワンとブレる。
  バイクが横を通過する衝撃風は、2人の髪と服をパタパタとはためかせて紗南が手にしているカバンはドサッと地面に落ちた。

  西門からポツポツと流れ出る芸能科の生徒達は、騒々しい現場に視線が吸い込まれていく。


  バイクは車道中央に立つ2人の横をするりと避け後、運転手はチラッと後方に振り返るが、何のアクションもないまま更にスピードを上げて走り去った。
  一橋は額に冷や汗を滲ませながらバイク運転手へキッと睨む。

  一方、頭が混乱して状況把握が出来ない紗南は黒目を凝縮させた。



「えっ……」



  紗南はまるで幽霊でも見たかのような反応に。
  しかし、一橋の力強い腕と逼迫した眼差しが未遂事故の大きさを物語っていた。
  一橋は紗南が無事でホッとすると、感情を剥き出しにする。



「左右も確認しないで道路に飛び出しちゃダメじゃないか。さっき、自分の口で小学生に注意したばかりだったのに」



  紗南の身体を離して両手を肩の上に置き、心配した眼差しでそう伝えると、紗南は少しずつ現況が飲み込めるようになった。

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