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ある姉弟の話
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姉さんが突然事故で亡くなった。
その知らせを受けて勤め先の伯爵家を出たオレは、一旦必要な物を取りに自宅に寄った。
何一つ変わらない日常のままの空間に浮き足立ちながら、姉さんが書類をまとめていた棚のファイルを取り出した。
焦りで目が滑って字も読めない。
とにかく全部ボストンバッグに入れて、姉さんが収容された病院へと急いだ。
姉さんは転落死で、自然死ではないので検死に回された。
『検死が終わりましたら連絡しますのでご自宅に帰られていてもいいです』と言われたが、あの“姉さんがいないことを理解していない空間”に身を置くことがどうしても耐えられそうになくて、オレは病院のロビーで持ち出した書類にゆっくりと目を通した。
請求書、領収書、受領書、申告書、いろいろな通知書、資産関係、遺産関係、
預金通帳…。
思ったよりも多い。
これだけあれば葬式は出せるな。
オレは幼い頃病弱で親ももう既に亡く、年の離れた姉さんに迷惑を掛けっぱなしだった。
今までも自分1人が食べていけるぐらいしか稼げなかった。
やっと多少マシな給料を貰えるところに就職出来て、これから姉さんに楽をさせてあげたかったのに。
ん?背板?にしてはゴツいな。
ああ、この折り返しの中に隠れた切れ目があるのか。
古い領収書のファイルに違和感を感じたオレは、その切れ目から古びて色褪せた封筒を取り出した。
中には数枚の写真が入っていた。
綺麗に化粧してドレスを着た姉さんが楽しそうに笑っている。
その幸せそうな姉さんに寄り添っている紳士は……旦那様?
若く見えるけれど、だけどこれは旦那様だ!
オレは慌てて封筒の表裏を見た。
My Dear
それだけが消えそうに細い字で書かれていた。
どういうことだ?
旦那様は新婚で、奥様のメイベル様とは熱烈な恋愛結婚だと聞いた。
平民だった前子爵夫人の連れ子だという身分差を乗り越えて成就したと。
これまで結婚されなかったのは、初恋のご令嬢をずっと引きずっていたからだと。
……ではこれは?
「マックス!リリーは?!」
病院に入ってきてオレに声をかけた男は姉さんの幼馴染みだった。
「あ!トーマスさん!あの…検死中です…」
「あ…じゃあ、もう……ん?その写真は?」
「姉さんの書類入れの中に…」
「懐かしいな」
「知っているんですか?!」
「この写真撮ったのは俺だからな。こっそり撮ってほしいって。仲良さそうに撮ってね、って」
「仲が良かったんじゃないんですか?」
「確か伯爵家のボンだって言ってたし、向こうは遊びだったんじゃないか?リリーは思い出が欲しかったんだと思う」
なんだそれは…!
初恋のご令嬢をずっと一途に想い続けた旦那様が、40を越えてやっと巡り会った真実の愛…?
じゃあこれは!姉さんは!
メイベル様だって平民じゃないか!
何が違った?!
何が違う?!
~~~~~~~~
姉さんには特別な痣も不審なところも見付からず、葬式の許可が出た。
伯爵家からは『落ち着いたら戻って来なさい』とお声がけがあったが、オレはすぐに戻った。
そしてメイベル様に宛てて、姉さんと旦那様の写真を郵便物に紛れさせて送り付けた。
旦那様と奥様の仲が壊れようが、離婚になろうがどうでも良かった。
あの写真を、姉さんの想いを背負うのは奥様だと思った。
そう…思ったんだ。
~~~~~~~~
休日になり、久しぶりに自宅に戻ったオレは扉を開けて中に入った。
ふと、台所を横目に見て、姉さんはいないんだな…そう思った時にはもう後ろから殴られて、部屋の中に放り込まれて縛り上げられていた。
「お前、リリーの弟か?」
「そ、そうだ。お前たちは誰だ?!」
「お前の姉に乗っ取られそうになった男爵家の被害者だよ。うちの老いぼれから掠め取った宝石とか金とかどこに隠した?」
「そんな物知らないし、こ、こんなことしたって捕まるだけだぞ!」
「捕まらないさ。事故死がもう1つ増えるだけだ。今度は死体が上がらないところにしないとな。縛り跡が付いたからな」
「は…!ね、姉さんは!まさか…!」
「女とは籍は入れてなかったから放っといたが、老いぼれが遺言書を書き直すと言い出したから、その前に始末した」
「な…!老いぼれって…男爵って…何…誰…?」
「ああ?お前何も知らないのか?お前の姉は後妻詐欺師だ。貢がせるだけ貢がせて、ややこしくなる前に消える。今回は逃がさなかったがな。いつまでも甘い汁が吸えると思っていたら大間違いだ。質素な家だから貯め込んでるんだろう?隠し場所か…通帳か?どこにある」
「そんな物は無いって言ってるだろう!借金があったんだ!ずっと、ずっと、オレの病気のせいで!だから無い!通帳の金も葬式で無くなった!お前たちの欲しい物なんかここには無い!」
「はあ?…はぁ…なんだそれ?」
「こいつ、もう用無しだろ」
「じゃあ、運び出すか」
姉さんは一体何を……ダメだ、もう何も考えられない…。
その知らせを受けて勤め先の伯爵家を出たオレは、一旦必要な物を取りに自宅に寄った。
何一つ変わらない日常のままの空間に浮き足立ちながら、姉さんが書類をまとめていた棚のファイルを取り出した。
焦りで目が滑って字も読めない。
とにかく全部ボストンバッグに入れて、姉さんが収容された病院へと急いだ。
姉さんは転落死で、自然死ではないので検死に回された。
『検死が終わりましたら連絡しますのでご自宅に帰られていてもいいです』と言われたが、あの“姉さんがいないことを理解していない空間”に身を置くことがどうしても耐えられそうになくて、オレは病院のロビーで持ち出した書類にゆっくりと目を通した。
請求書、領収書、受領書、申告書、いろいろな通知書、資産関係、遺産関係、
預金通帳…。
思ったよりも多い。
これだけあれば葬式は出せるな。
オレは幼い頃病弱で親ももう既に亡く、年の離れた姉さんに迷惑を掛けっぱなしだった。
今までも自分1人が食べていけるぐらいしか稼げなかった。
やっと多少マシな給料を貰えるところに就職出来て、これから姉さんに楽をさせてあげたかったのに。
ん?背板?にしてはゴツいな。
ああ、この折り返しの中に隠れた切れ目があるのか。
古い領収書のファイルに違和感を感じたオレは、その切れ目から古びて色褪せた封筒を取り出した。
中には数枚の写真が入っていた。
綺麗に化粧してドレスを着た姉さんが楽しそうに笑っている。
その幸せそうな姉さんに寄り添っている紳士は……旦那様?
若く見えるけれど、だけどこれは旦那様だ!
オレは慌てて封筒の表裏を見た。
My Dear
それだけが消えそうに細い字で書かれていた。
どういうことだ?
旦那様は新婚で、奥様のメイベル様とは熱烈な恋愛結婚だと聞いた。
平民だった前子爵夫人の連れ子だという身分差を乗り越えて成就したと。
これまで結婚されなかったのは、初恋のご令嬢をずっと引きずっていたからだと。
……ではこれは?
「マックス!リリーは?!」
病院に入ってきてオレに声をかけた男は姉さんの幼馴染みだった。
「あ!トーマスさん!あの…検死中です…」
「あ…じゃあ、もう……ん?その写真は?」
「姉さんの書類入れの中に…」
「懐かしいな」
「知っているんですか?!」
「この写真撮ったのは俺だからな。こっそり撮ってほしいって。仲良さそうに撮ってね、って」
「仲が良かったんじゃないんですか?」
「確か伯爵家のボンだって言ってたし、向こうは遊びだったんじゃないか?リリーは思い出が欲しかったんだと思う」
なんだそれは…!
初恋のご令嬢をずっと一途に想い続けた旦那様が、40を越えてやっと巡り会った真実の愛…?
じゃあこれは!姉さんは!
メイベル様だって平民じゃないか!
何が違った?!
何が違う?!
~~~~~~~~
姉さんには特別な痣も不審なところも見付からず、葬式の許可が出た。
伯爵家からは『落ち着いたら戻って来なさい』とお声がけがあったが、オレはすぐに戻った。
そしてメイベル様に宛てて、姉さんと旦那様の写真を郵便物に紛れさせて送り付けた。
旦那様と奥様の仲が壊れようが、離婚になろうがどうでも良かった。
あの写真を、姉さんの想いを背負うのは奥様だと思った。
そう…思ったんだ。
~~~~~~~~
休日になり、久しぶりに自宅に戻ったオレは扉を開けて中に入った。
ふと、台所を横目に見て、姉さんはいないんだな…そう思った時にはもう後ろから殴られて、部屋の中に放り込まれて縛り上げられていた。
「お前、リリーの弟か?」
「そ、そうだ。お前たちは誰だ?!」
「お前の姉に乗っ取られそうになった男爵家の被害者だよ。うちの老いぼれから掠め取った宝石とか金とかどこに隠した?」
「そんな物知らないし、こ、こんなことしたって捕まるだけだぞ!」
「捕まらないさ。事故死がもう1つ増えるだけだ。今度は死体が上がらないところにしないとな。縛り跡が付いたからな」
「は…!ね、姉さんは!まさか…!」
「女とは籍は入れてなかったから放っといたが、老いぼれが遺言書を書き直すと言い出したから、その前に始末した」
「な…!老いぼれって…男爵って…何…誰…?」
「ああ?お前何も知らないのか?お前の姉は後妻詐欺師だ。貢がせるだけ貢がせて、ややこしくなる前に消える。今回は逃がさなかったがな。いつまでも甘い汁が吸えると思っていたら大間違いだ。質素な家だから貯め込んでるんだろう?隠し場所か…通帳か?どこにある」
「そんな物は無いって言ってるだろう!借金があったんだ!ずっと、ずっと、オレの病気のせいで!だから無い!通帳の金も葬式で無くなった!お前たちの欲しい物なんかここには無い!」
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