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イグナス・ドルトレッド伯爵
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アンドレ親方、か。
流石にマイクは気付いたようだったな。
ネルソン家の長男オスカーが平民落ちしながらも王宮勤めを続けられたのは、秘かに“辺境伯の子供たち”と繋がったからだった。
一介の下っ端文官の力では、上層部に探りを入れることなど出来ない。
父親を冤罪だと信じているからこそ取れた手段だった。
次男のギルバードと共に“辺境伯の子供たち”と協力し合って証拠を集めているうちに大まかな目処が立ち、まさかの御大が登場した。
“辺境伯の子供たち”が公にされた時の大規模な粛清の後で行われたレモネル王太子とオランディーヌ嬢の結婚式は華々しかった。
まだ12になったばかりで、伯爵領を出た事が無かった私は初めて招待されて王都に行き、圧倒されながらも数年後に始まる学園生活に思いを馳せた。
そして、ノーマンとクラリスに出会った。
どちらが先か同時かは分からないが私とノーマンはクラリスに恋をした。
素直になれず意地悪ばかりする私よりも、優しくて穏やかな、だけどちゃんと芯のあるノーマンが選ばれるのは当たり前だった。
卒業間際に結ばれた2人に気持ちを打ち明けることなく、招待された結婚式で簡単に祝福した後は2人とは距離を取った。
……クラリスの葬式には出席した。
三男のフレッドはまだ幼く、男ばかり4人が並ぶ姿は唯々悲しみを誘った。
それから私はノーマンとたまに会って酒を飲むようになった。
私のクラリスに対する気持ちに気付いていたノーマンは、酷く酔った夜に泣きながら私に謝った。
同じく酷く酔っていた俺は、謝るな!と叫んでノーマンを殴った。
酔っ払いのへなちょこパンチは意外に綺麗に決まって、派手に倒れたノーマンと私は店から放り出された。
石畳の歩道で足を投げ出して座った私たちは一晩中どっちがよりクラリスを愛していたかを自慢し合って、泣きながら身を寄せ合って眠った。
……今思い返すと結構気持ち悪いな。
夜が明ける前に目覚めたから醜態は晒さずに済んだが。
マイラー・ネルソン前子爵の領地の屋敷が全焼して一家の消息が不明という連絡を受けて駆け付けた時、ノーマンは憔悴していた。
「何か力になれることはないか」と問う私に背を向けたノーマンは、「今のネルソン家には近付かないでくれ」と強い口調で言った。
「これから何があっても私とは接触しないでくれ。そして、もしもの時は息子たちを頼む」
そう言ったノーマンはその後、人身売買組織の一員として摘発され、取り調べ中に獄中死したと知らされた。
だが、私とノーマンの息子たちが駆け付けるより前に略式の葬儀は終わっていて、遺体を見た者もいなかった。
ノーマンはきっと生きている。
だが、そう騒ぎ立てることは悪手だと思った私たちは、国王陛下に謁見して“辺境伯の子供たち”を頼った。
その時に、マイラー・ネルソン前子爵が“辺境伯の子供たち”の“表”の人間で、屋敷にいた人たちは“裏”で保護されていたことを知った。
マイラー・ネルソン前子爵と後妻のジャクリーン、娘のメイベルと使用人たちと、まだ幼い施設の孤児たちはみんな無事だった。
高齢の前子爵と奥方と子供たちはそのまま保護してもらい、オスカーとギルバードを王都に残して、私はメイベルと使用人たちとフレッドを伯爵家に迎えた。
メイベルとノーマンの息子たちは初対面だったようでぎこちなかったが、悪感情はないようだった。
そのすぐ後で、伯爵家で庭師と補佐をしていた息子の乗った馬車が事故を起こして、2人は大怪我をした。
急遽募集してやって来た親方とローランドは真面目そうで好印象だった。
だが、ある夜私の部屋に来たフレッドは、自分の能力を打ち明けた上で2人の思惑を暴露した。
「あの2人は、僕を嵌める計画を立ててます。今僕はお試しでいろんな仕事を転々としてますが、庭師見習いにしてください。あいつらの計画に乗ってみます。ただの窃盗犯でチョロそうな僕を狙っているのか、ネルソン家のことを知っていて僕を狙っているのかは、まだ分かりませんが。あと、執事長も具体的な非は掴めてませんが不穏です。それと…マイクは何を考えてるのかよく分からないので僕と一緒の庭師見習いにしてください。見極めます」
と、私の秘密を散々披露して自分の能力を私に認めさせたフレッドは提案した。
流石にマイクは気付いたようだったな。
ネルソン家の長男オスカーが平民落ちしながらも王宮勤めを続けられたのは、秘かに“辺境伯の子供たち”と繋がったからだった。
一介の下っ端文官の力では、上層部に探りを入れることなど出来ない。
父親を冤罪だと信じているからこそ取れた手段だった。
次男のギルバードと共に“辺境伯の子供たち”と協力し合って証拠を集めているうちに大まかな目処が立ち、まさかの御大が登場した。
“辺境伯の子供たち”が公にされた時の大規模な粛清の後で行われたレモネル王太子とオランディーヌ嬢の結婚式は華々しかった。
まだ12になったばかりで、伯爵領を出た事が無かった私は初めて招待されて王都に行き、圧倒されながらも数年後に始まる学園生活に思いを馳せた。
そして、ノーマンとクラリスに出会った。
どちらが先か同時かは分からないが私とノーマンはクラリスに恋をした。
素直になれず意地悪ばかりする私よりも、優しくて穏やかな、だけどちゃんと芯のあるノーマンが選ばれるのは当たり前だった。
卒業間際に結ばれた2人に気持ちを打ち明けることなく、招待された結婚式で簡単に祝福した後は2人とは距離を取った。
……クラリスの葬式には出席した。
三男のフレッドはまだ幼く、男ばかり4人が並ぶ姿は唯々悲しみを誘った。
それから私はノーマンとたまに会って酒を飲むようになった。
私のクラリスに対する気持ちに気付いていたノーマンは、酷く酔った夜に泣きながら私に謝った。
同じく酷く酔っていた俺は、謝るな!と叫んでノーマンを殴った。
酔っ払いのへなちょこパンチは意外に綺麗に決まって、派手に倒れたノーマンと私は店から放り出された。
石畳の歩道で足を投げ出して座った私たちは一晩中どっちがよりクラリスを愛していたかを自慢し合って、泣きながら身を寄せ合って眠った。
……今思い返すと結構気持ち悪いな。
夜が明ける前に目覚めたから醜態は晒さずに済んだが。
マイラー・ネルソン前子爵の領地の屋敷が全焼して一家の消息が不明という連絡を受けて駆け付けた時、ノーマンは憔悴していた。
「何か力になれることはないか」と問う私に背を向けたノーマンは、「今のネルソン家には近付かないでくれ」と強い口調で言った。
「これから何があっても私とは接触しないでくれ。そして、もしもの時は息子たちを頼む」
そう言ったノーマンはその後、人身売買組織の一員として摘発され、取り調べ中に獄中死したと知らされた。
だが、私とノーマンの息子たちが駆け付けるより前に略式の葬儀は終わっていて、遺体を見た者もいなかった。
ノーマンはきっと生きている。
だが、そう騒ぎ立てることは悪手だと思った私たちは、国王陛下に謁見して“辺境伯の子供たち”を頼った。
その時に、マイラー・ネルソン前子爵が“辺境伯の子供たち”の“表”の人間で、屋敷にいた人たちは“裏”で保護されていたことを知った。
マイラー・ネルソン前子爵と後妻のジャクリーン、娘のメイベルと使用人たちと、まだ幼い施設の孤児たちはみんな無事だった。
高齢の前子爵と奥方と子供たちはそのまま保護してもらい、オスカーとギルバードを王都に残して、私はメイベルと使用人たちとフレッドを伯爵家に迎えた。
メイベルとノーマンの息子たちは初対面だったようでぎこちなかったが、悪感情はないようだった。
そのすぐ後で、伯爵家で庭師と補佐をしていた息子の乗った馬車が事故を起こして、2人は大怪我をした。
急遽募集してやって来た親方とローランドは真面目そうで好印象だった。
だが、ある夜私の部屋に来たフレッドは、自分の能力を打ち明けた上で2人の思惑を暴露した。
「あの2人は、僕を嵌める計画を立ててます。今僕はお試しでいろんな仕事を転々としてますが、庭師見習いにしてください。あいつらの計画に乗ってみます。ただの窃盗犯でチョロそうな僕を狙っているのか、ネルソン家のことを知っていて僕を狙っているのかは、まだ分かりませんが。あと、執事長も具体的な非は掴めてませんが不穏です。それと…マイクは何を考えてるのかよく分からないので僕と一緒の庭師見習いにしてください。見極めます」
と、私の秘密を散々披露して自分の能力を私に認めさせたフレッドは提案した。
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