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3 至って至生
至って至生6
しおりを挟む俺は慣れない頭で考える。
俺から甘い匂いがする可能性。考えられる点は二つ。
一つはまーちゃんの高級シャンプー。隣の席の柴田をノックアウトしてしまったやつだ。奴らは衣類用洗剤の匂いにも弱い。よい匂いのする女に優しくされてみろ。勝手に意識して勘違いをしてしまう。その女はもしかして俺の事が好きじゃないのかって。
隣の席の柴田はシャンプーの一件から俺のことをちらちら見るようになってしまったから、鼻ほじしたり下ネタ連呼して幻想を砕いてやった。俺は男だっつーの。聖人以外の余計なモテはいらねーの。
もう一つは、考えたくないけれど相手がαであること。
イケメン風で何となく俺を狙い定めて来た感があった。そうじゃなきゃ違う場所にいる俺を見つけてこないだろう。俺はまだヒート前だし抑制剤を飲んでいる。おおっぴらに匂うはずは無かった。
とりあえずは、まーちゃんへの嫌がらせのシャンプー消費をやめ、秋田さんのヘアトニックシャンプーを使う。男臭さに磨きがかかるクールな爽快感だ。髪質がゴワゴワになって毛量も増し増しになった感じだ。
自然にまとまる髪がやけに膨らんでしまった。これをワックスでまとめる。
男らしさの証、クールなボディーローションを胸やワキや顔に叩きつける。もちろん今日のパンツは秋田さんおすすめの白ブリーフだ。
「今日はどうしたんですか?」
普段と違う様子に聖人はともかく秋田さんにまで不審がられてしまった。
「男の道を極めている最中なんだ」
きりりとした表情でそう言いきると二人とも何も言わなくなった。きっとそういう遊びをしていると思ってるんだろう。俺は本気なのに。
*
昼休憩、俺は早々に教室から抜け出し屋上テラスに身を潜めた。
流石にここまで探してこないだろうし、もし、ここまで追ってきたら異常だ。
他に弁当を囲んでいるグループもいるし、あの上級生も見かけなかったので適当な場所で秋田さんの手作り弁当を広げた。
秋田さんは外見やパンツの方針に関わらず、繊細な料理を作ってくれる。彼が作る毎日の弁当は密かな楽しみだ。
今日は竜田揚げと筍と人参の炊き上げに、いなり寿司が入っていた。甘すぎない揚げに具材入りの酢飯がみっしりと詰まり甘味と酸味のバランスが絶妙。これは旨いと、一人でテンションを上げていると後ろから声を掛けられた。
「美味しそうなの食べてるね」
そう言って楽しみにとって置いた竜田揚げを食べられてしまった。
くそう。昨日の上級生だった。
「昨日と匂いが違うから探しちゃったよ」
そう言いながらこっちに身体を寄せてくる。俺は弁当をしまいながら反対側に身を引いていく。
「何か御用ですか? こっちにはありませんが」
「君さ、Ωだよね? もうじきヒートの」
一瞬硬直して、思わず周りを見渡してしまった。周りに聞かれないか心配になってしまったからだ。
でも、これで俺がヒート間際のΩだと肯定してしまったことになる。
先ほどまで、ちらほらいた人がすっかり居なくなっている。二人っきりの屋上。何だか急に怖くなってきた。
この場から逃げ出したい。だけど出来なかった。強く振り払えない、なんとも言えない怖い雰囲気があったからだ。それに腕自体を掴まれていた。
「それで隠しているつもりだったんだ。だだ漏れだよ。フェロモン」
抑制剤を飲んでいるからだだ漏れなんてことはまずあり得ない。だだ漏れだったら聖人だって何か言うだろう。
これは、絶対はったりだ。
それに匂ったって微量のはずだ。何せ他の匂いで誤魔化していたのだから。
顎をつかまれ顔を向けさせられた。
「この髪形は似合わないよ」
ワックスでまとめた髪をぐしゃぐしゃにされた。
「もうじきヒートなんだろ。俺とどう?」
間近で見るとわりと整った顔立ちをしていた。垢ぬけていて自分に自信がありそうだ。俺が強い目で見返しても一向にたじろがない。こうして何人もΩを落としてきたのか。
「わりと好みなんだよね。内緒にするからさ」
内緒にするということは、ばらすというオプションもあるということを暗に提示している。
俺は聖人のことを考えた。
届かなかったシールのゴールを考えた。
聖人の怒った顔、困った顔、笑った顔、いろんな時のいろんな聖人が思い浮かんでいた。
気が付くとそいつに引き寄せられ唇を塞がれていた。
抵抗する手をつかまれ徐々に力を失っていく。
時間とともに聖人の顔は目蓋の裏に消えていく。
聖人、聖人、
聖人を呼ぶ俺の心の声は、届かない。
校舎には授業開始のメロディが鳴り響いていた。
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