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バイト始めました
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「辰瀬は雇うといったが、お前を雇うとは一言も言ってないぞ」
うん、おれも聞いてない。
早速今日は朝からバイトだと、おれがうきうきしてやって来た喫茶店。虎豪さんとの距離がもっと近づけば、前みたいにハグされ放題なんじゃなかろうか。今日は授業もないし、チャンスは星の数ほどあるに違いない。そんな素敵未来をめざそうじゃないか。
しかし、いざ店までやってくるとものすごく見知った顔が待っていた。しかも、ここで働くとか言う始末。おれは再度確認の意を込めて聞いてみることにする。
「えと、なんで君ここにいるの?」
「バイトするために決まってんだろうが」
そこにいたのはわが友猫柳。ものすごーく不機嫌な顔で働きたいと言ってきた。あれ、結局昨日もおれの家に泊まったよね君。もしかして、頼み込むためにこんな朝早く、おれを置いてやって来たのか。
これにはさすがの虎豪さんも困った顔になり、どうしたものかとおれに目で聞いてくる。聞かれたところでわからないのだけれど。
確かにサークル活動にのめり込んでいる猫柳が万年金欠なのは知っている。そろそろバイトしないとなーってぼやいていたのも聞いたことある。だけど、なぜ、よりによってここなのか。
「知ってるやつがいたほうが働きやすいだろ?」
「絶対それだけじゃない」
おれがジト目でにらむと、猫柳はしらを切るように目を泳がせた。相変わらず嘘が下手な友人は、尻尾をそわそわと動かしている。
「サークルはいいの?」
「いいんだよ。バイトぐらいしとかないと合宿にもいけねえし」
ちょっと心配症こじらせすぎてないかな。おれと虎豪さんのいちゃいちゃを友人に見られるのはさすがに恥ずかしいんだけど。いや、いちゃいちゃする予定は未定か……。
きちんと繕った燕尾を着ている虎豪さんは、じろりと猫柳を睥睨した。こうして並べると、虎豪さんの方が大きいし、なにより威圧感がすごい。だてに年を取ってないと思い知らされる。
「あんまり時給はやれねえぞ」
「別にいい」
「……はあ」
しばらくにらみ合いが続いたが、虎豪さんは大きくため息をついた。あ、これは折れたな。
「別にいいが、辰瀬のサイズでしか燕尾を発注してないからな。後、接客業なんだから敬語を忘れるなよ」
「わかりました!」
体育系特有の大声が店に響き渡る。こいつは喫茶店よりラーメン店の方が絶対にむいてる。
猫柳は満足そうな顔でおれを振り返ると指でVサインを作り、着替えるために奥へと引っ込んでいった。比べるとやはり表情の変化は猫柳が圧倒的かな。見ていて楽しい友人だ。
体のでかい猫科が二人並んだだけで、一気に店が狭く感じられる。虎豪さんはこの店を普通の喫茶店に戻したいと言っていたけれど、猫柳みたいなその筋に人気出まくりな奴を起用すると、遠のくんじゃないだろうか。大丈夫なのかな。
「……これすっげえ小さいな。辰瀬、お前小さすぎじゃね?」
「君がでかすぎるんだよ!」
案の定、おれサイズの燕尾を着て帰ってきた猫柳はなんだかすさまじいことになっていた。足も胸も腕もぱっつんぱっつん。しかも現役の柔道部だからか、虎豪さんより硬そうな筋肉が全力で主張している。虎豪さんの燕尾といい勝負をする張り具合だ。
「新品だからすぐに破れるってことはないと思うが、心して使えよ」
虎豪さんが説明してくれているけれど、つっこむべきはほかにあると思うんですよ。
猫柳は全身の筋肉をこれでもかというくらいアピールしている。だけど待ってほしい、これはおれ用の燕尾、つまりは人間用だ。
だから、当然猫柳の尻尾を通す穴など存在していない。猫柳はそれをズボンの上から出すことで無理やり着ているが、どうしても隙間が空いて歩くたびにずり落ちて半けつになって黄色い尻が見えてる。待って、この店をどうしたいんだ君は。
ん、黄色い尻……?
「って、下着はいてないの?!」
「おう、どうせ道着を着るときに脱ぐしな。だったら最初から穿かない方が楽じゃねえか」
ぐおー! 虎豪さんといい猫柳といい、これだからノンケはもう! もう!
「下着ははいておいた方がいい。いつ燕尾が破れるかわからんからな」
虎豪さんのアドバイスもちょっと的を外しているといいますか、何で破れること前提なんですかね。自分の服が破れるから、常識がマヒしてるのか。
「確かに、これじゃあいつ破れるかわかんねえな。辰瀬さあ、下着持ってねえか?」
「持ってるわけないだろ!」
いや、そもそもその燕尾を見るに、おれの下着なんかはいたら相当まずいことになるのが明らかすぎるだろ。布で視界防げば何でもいいわけじゃないんだぞ。お前は着衣のエロさを知らないのか。
「じゃあ、俺のでもはくか? サイズ的にも着れないことないだろう」
「お、ならお願いしていいですか?」
敬語で対応した猫柳はどうやら虎豪さんの下着をはくようだ。くっそ、うらやましい。おれだってまだはいたことないのに。
うん、おれも聞いてない。
早速今日は朝からバイトだと、おれがうきうきしてやって来た喫茶店。虎豪さんとの距離がもっと近づけば、前みたいにハグされ放題なんじゃなかろうか。今日は授業もないし、チャンスは星の数ほどあるに違いない。そんな素敵未来をめざそうじゃないか。
しかし、いざ店までやってくるとものすごく見知った顔が待っていた。しかも、ここで働くとか言う始末。おれは再度確認の意を込めて聞いてみることにする。
「えと、なんで君ここにいるの?」
「バイトするために決まってんだろうが」
そこにいたのはわが友猫柳。ものすごーく不機嫌な顔で働きたいと言ってきた。あれ、結局昨日もおれの家に泊まったよね君。もしかして、頼み込むためにこんな朝早く、おれを置いてやって来たのか。
これにはさすがの虎豪さんも困った顔になり、どうしたものかとおれに目で聞いてくる。聞かれたところでわからないのだけれど。
確かにサークル活動にのめり込んでいる猫柳が万年金欠なのは知っている。そろそろバイトしないとなーってぼやいていたのも聞いたことある。だけど、なぜ、よりによってここなのか。
「知ってるやつがいたほうが働きやすいだろ?」
「絶対それだけじゃない」
おれがジト目でにらむと、猫柳はしらを切るように目を泳がせた。相変わらず嘘が下手な友人は、尻尾をそわそわと動かしている。
「サークルはいいの?」
「いいんだよ。バイトぐらいしとかないと合宿にもいけねえし」
ちょっと心配症こじらせすぎてないかな。おれと虎豪さんのいちゃいちゃを友人に見られるのはさすがに恥ずかしいんだけど。いや、いちゃいちゃする予定は未定か……。
きちんと繕った燕尾を着ている虎豪さんは、じろりと猫柳を睥睨した。こうして並べると、虎豪さんの方が大きいし、なにより威圧感がすごい。だてに年を取ってないと思い知らされる。
「あんまり時給はやれねえぞ」
「別にいい」
「……はあ」
しばらくにらみ合いが続いたが、虎豪さんは大きくため息をついた。あ、これは折れたな。
「別にいいが、辰瀬のサイズでしか燕尾を発注してないからな。後、接客業なんだから敬語を忘れるなよ」
「わかりました!」
体育系特有の大声が店に響き渡る。こいつは喫茶店よりラーメン店の方が絶対にむいてる。
猫柳は満足そうな顔でおれを振り返ると指でVサインを作り、着替えるために奥へと引っ込んでいった。比べるとやはり表情の変化は猫柳が圧倒的かな。見ていて楽しい友人だ。
体のでかい猫科が二人並んだだけで、一気に店が狭く感じられる。虎豪さんはこの店を普通の喫茶店に戻したいと言っていたけれど、猫柳みたいなその筋に人気出まくりな奴を起用すると、遠のくんじゃないだろうか。大丈夫なのかな。
「……これすっげえ小さいな。辰瀬、お前小さすぎじゃね?」
「君がでかすぎるんだよ!」
案の定、おれサイズの燕尾を着て帰ってきた猫柳はなんだかすさまじいことになっていた。足も胸も腕もぱっつんぱっつん。しかも現役の柔道部だからか、虎豪さんより硬そうな筋肉が全力で主張している。虎豪さんの燕尾といい勝負をする張り具合だ。
「新品だからすぐに破れるってことはないと思うが、心して使えよ」
虎豪さんが説明してくれているけれど、つっこむべきはほかにあると思うんですよ。
猫柳は全身の筋肉をこれでもかというくらいアピールしている。だけど待ってほしい、これはおれ用の燕尾、つまりは人間用だ。
だから、当然猫柳の尻尾を通す穴など存在していない。猫柳はそれをズボンの上から出すことで無理やり着ているが、どうしても隙間が空いて歩くたびにずり落ちて半けつになって黄色い尻が見えてる。待って、この店をどうしたいんだ君は。
ん、黄色い尻……?
「って、下着はいてないの?!」
「おう、どうせ道着を着るときに脱ぐしな。だったら最初から穿かない方が楽じゃねえか」
ぐおー! 虎豪さんといい猫柳といい、これだからノンケはもう! もう!
「下着ははいておいた方がいい。いつ燕尾が破れるかわからんからな」
虎豪さんのアドバイスもちょっと的を外しているといいますか、何で破れること前提なんですかね。自分の服が破れるから、常識がマヒしてるのか。
「確かに、これじゃあいつ破れるかわかんねえな。辰瀬さあ、下着持ってねえか?」
「持ってるわけないだろ!」
いや、そもそもその燕尾を見るに、おれの下着なんかはいたら相当まずいことになるのが明らかすぎるだろ。布で視界防げば何でもいいわけじゃないんだぞ。お前は着衣のエロさを知らないのか。
「じゃあ、俺のでもはくか? サイズ的にも着れないことないだろう」
「お、ならお願いしていいですか?」
敬語で対応した猫柳はどうやら虎豪さんの下着をはくようだ。くっそ、うらやましい。おれだってまだはいたことないのに。
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