僕は隣国王子に恋をする

泡沫の泡

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第3章 僕は誕生会の後に誘拐されるなんて聞いていない

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ゆれる、ゆれる。
馬車に揺られているような感覚に、僕は目を覚ました。
自分の体で下敷きになっていた左肩が痛い。
さっきまで寝ていたはずなのに、どうして。
ここは馬車の中のようだ。
一体どのくらいの時間、乗っていたのであろうな。

「……んっ」

からだが、動かない。
じんわりと体の中心が温かい感覚を覚える。

「な、んでっ……」

上気した頬に涙が伝う。
勝手に涙が溢れてくるのだ。

「起きたかね」

「イーサン、宰相……」

嫌な笑みを浮かべる男が、僕の目の前に立っていた。
そうだ、姉さま、姉さまは。

「……あぁ、君のお姉様なら深く眠らせただけだよ。連れてきてはいない」

あぁ、姉さまは無事か。
よかった。

「んっ……」

体の奥が熱く痺れる。
強い刺激に意識が飛びそうになった。
僕の顔を舐めるように見つめ、ニヤニヤと笑いだすイーサン宰相。

「体の奥がしぶくだろう。後でたくさん、慰めてやろうな、ユヅキ」

「あっ…いや、だ……」

生理的な涙がまた一筋頬を伝った。
たすけて、たすけて。

涙で視界が霞み、意識を手放した。
はやく、だれか。




ユヅが攫われる。
イーサン宰相が、ユヅのいる部屋へ向かったと女中から報告が入った。
急な知らせで驚いた。
しかし、イーサン宰相がユヅを狙っていたのは一目瞭然だった。
はやく、ユヅを助けに行かなければ。
あの綺麗なユヅが、汚されてしまう。

医療器具のようなものを持ち合わせていたと聞く。
最近は人さらいも多く、その際は麻痺や睡眠を促す薬物がよく使用されているのだ。
ユヅの身に危険は及んでないだろうか。いや、安全なわけはない。

ユヅの部屋に行ったが、その姿はなかった。

私は父上の制止も聞かず、愛馬に跨りイーサン宰相の屋敷へ急いだ。

頼む、間に合ってくれ。
抵抗する風圧をものともせず、暗がりを駆け抜けた。
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