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時間が経ってのごめんなさい
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三週間ぶりに学園に戻ってきたアリッサを遠目に、エステルダは木陰に隠れながら、話しかけるタイミングを見計らっていた。三週間もの時が過ぎたと言えども、最後の会話でアリッサに嫌な思いをさせてしまったことが消える訳ではない。謝らなくては・・・と、思えば思う程、中々声を掛けることができず、こうして毎時間ごとに様子を伺っているうちに、ついにお昼休みになってしまった。
アリッサとヴィスタが居ない間に、いつの間にか秋も終わりを迎えており、今日のように一見暖かそうな秋晴れであっても、たまに吹きつける木枯らしに身を震わせてしまう。食事を楽しむには少し寒すぎるような気がするが、独りベンチに座って、サンドウィッチを頬張るアリッサを見つめるエステルダには、そのようなことを気にしている暇はなかった。アリッサが手に持っているサンドウィッチを食べ終わるのをじっと見ていたエステルダは、話かけるなら今しかないと思い、自分の昼食のパンの紙袋をぎゅっと握った。その時、
「エステルダ様。」
アリッサが自分の名前を呼ぶ声が聞こえて、エステルダの肩はビクリと跳ねあがった。
「あっ、ま、まあ、アリッサ様、ごきげんよう。あら、こんな所で昼食ですの?わたくしも丁度お昼にしようと思いまして。奇遇ですわね。」
さすがに自分でも苦しい言い訳と分かってはいるが、こうなっては仕方がない。エステルダは、開き直って美しい笑顔を向けたが、何もかもお見通しとでも言うように、アリッサは笑いを堪えて口元を震わせていたが、エステルダは気付かなかったことにした。
「では、一緒に食べましょう。」
と、ベンチの端に寄ってくれたアリッサが、いつもとなんら変わらぬ様子だった為、身構えていたエステルダは少し拍子抜けしてしまった。
(アリッサ様ってば、まるで、わたくしと揉めたことなど覚えてないかのように普通ですわね・・・。それに、三週間もお休みしていたことも・・・何もなかったみたいに普通・・・。)
「寒いですね。」
「え、ええ、そうですわね・・・。」
「私は、この場所での静かな昼食が気に入っていたんですが、さすがに雪が降ってきたら無理ですね。」
アリッサのどうでもいい話に、そうですわね。などと相づちを打ちながら、エステルダは、紙袋の中のレーズンパンを取り出した。そして、それを小さく千切ると上品に口に運んだ。
二人は、木々から次々に舞い落ちる葉を眺めながら、静かにもぐもぐと口を動かしていた。
「ずっと謝りたいと思っていましたの。」
沈黙を破ったエステルダの声は、きっと本心から許しを請うものだったのだろう、それはとても小さく、彼女らしくないあまりに頼りないものだったから。それが分かったアリッサは、口元を綻ばせると敢えて明るく振舞った。
「もしかして、この前のことですか?ふふふ、エステルダ様が謝ることではありませんよ。エステルダ様に言われたことは、何も間違っていませんから・・・。ですが、私もエステルダ様に謝りたいと思っていました。言ってはいけない言葉を使いました・・・。言い過ぎてしまったと、あの後、とても反省しました。すみませんでした・・・。」
まさか自分が謝られるなどとは思っていなかったエステルダは、目を見開いてアリッサを凝視していた。
「はっ!!い、いえ、謝るのはわたくしの方ですわ!!あのように知ったような口をきいてしまい、反省するのはわたくしの方なのです。本当に、申し訳ありませんでした。」
二人は、いつものように言いたいことを言い合うと、お互いが深く頭を下げた。
元々が、根に持つようなタイプでもない上に、これほど時間を置いての謝罪だった為、本当はエステルダが身構える必要などなかったのだ。現に、お互い頭を下げた後は、このように何のわだかまりもなく食事ができているのだから。
「ところで、朝からヴィスタ様のお姿が見えませんが、本日もお休みですの?」
「ああ、いえ、来ています。ただ、ヴィスタは今日一日で、休んでいた間の試験をまとめて受けているはずです。」
「まあ、では、本日は学園にいらっしゃるのですね?ああ、それは良かったですわ!三週間もお二人にお会いできませんでしたから、わたくしもレナートもとても寂しく思っていましたのよ?」
「え!?レナート様もですか!?・・・あの、ところでレナート様は・・・今日どちらに?今日一日、レナート様の教室にはどなたもいらっしゃらないみたいなのですけど・・・。」
(まあ、アリッサ様、学園に戻って早々、レナートに会いに行ったのですね。普段可愛げのない無表情のくせに、相変わらずレナートに対する愛だけは重いですのね!)
きっと口に出せば、貴女にだけはいわれたくないと、絶対言い返されることが分かっていたエステルダは、心の中でアリッサの愛は重い!!と、強く叫んでいた。
「コホン、ええ、レナートですわね。レナートは・・・そうそう、騎士科の野外訓練に参加していますわ。たぶん放課後には戻って来ると思いますわよ?・・・それより!!」
「アリッサ様とヴィスタ様は、三週間もの間、学園をお休みされて一体どうなさいましたの? わたくし心配致しましたわ。ご家族に何かございましたの?」
その言葉を聞いて咄嗟に目を逸らしたアリッサに、エステルダは直ぐに気付いた。しかし、こうしてまた学園に戻って来てくれたことを思えば、今はそれで充分だと安心感で満たされてもいた。なので彼女は何も追求せず、母が体調を崩したので家の手伝いをしていたと説明したアリッサの言葉をそのまま受け入れることにした。
久々の学園で、アリッサはレナートに会いたかったし、エステルダもヴィスタの顔が見たかった。二人は、放課後にお互いの弟を連れて、またこの場所で会いましょうと約束を交わし、教室に戻って午後の授業を受けた。
アリッサとヴィスタが居ない間に、いつの間にか秋も終わりを迎えており、今日のように一見暖かそうな秋晴れであっても、たまに吹きつける木枯らしに身を震わせてしまう。食事を楽しむには少し寒すぎるような気がするが、独りベンチに座って、サンドウィッチを頬張るアリッサを見つめるエステルダには、そのようなことを気にしている暇はなかった。アリッサが手に持っているサンドウィッチを食べ終わるのをじっと見ていたエステルダは、話かけるなら今しかないと思い、自分の昼食のパンの紙袋をぎゅっと握った。その時、
「エステルダ様。」
アリッサが自分の名前を呼ぶ声が聞こえて、エステルダの肩はビクリと跳ねあがった。
「あっ、ま、まあ、アリッサ様、ごきげんよう。あら、こんな所で昼食ですの?わたくしも丁度お昼にしようと思いまして。奇遇ですわね。」
さすがに自分でも苦しい言い訳と分かってはいるが、こうなっては仕方がない。エステルダは、開き直って美しい笑顔を向けたが、何もかもお見通しとでも言うように、アリッサは笑いを堪えて口元を震わせていたが、エステルダは気付かなかったことにした。
「では、一緒に食べましょう。」
と、ベンチの端に寄ってくれたアリッサが、いつもとなんら変わらぬ様子だった為、身構えていたエステルダは少し拍子抜けしてしまった。
(アリッサ様ってば、まるで、わたくしと揉めたことなど覚えてないかのように普通ですわね・・・。それに、三週間もお休みしていたことも・・・何もなかったみたいに普通・・・。)
「寒いですね。」
「え、ええ、そうですわね・・・。」
「私は、この場所での静かな昼食が気に入っていたんですが、さすがに雪が降ってきたら無理ですね。」
アリッサのどうでもいい話に、そうですわね。などと相づちを打ちながら、エステルダは、紙袋の中のレーズンパンを取り出した。そして、それを小さく千切ると上品に口に運んだ。
二人は、木々から次々に舞い落ちる葉を眺めながら、静かにもぐもぐと口を動かしていた。
「ずっと謝りたいと思っていましたの。」
沈黙を破ったエステルダの声は、きっと本心から許しを請うものだったのだろう、それはとても小さく、彼女らしくないあまりに頼りないものだったから。それが分かったアリッサは、口元を綻ばせると敢えて明るく振舞った。
「もしかして、この前のことですか?ふふふ、エステルダ様が謝ることではありませんよ。エステルダ様に言われたことは、何も間違っていませんから・・・。ですが、私もエステルダ様に謝りたいと思っていました。言ってはいけない言葉を使いました・・・。言い過ぎてしまったと、あの後、とても反省しました。すみませんでした・・・。」
まさか自分が謝られるなどとは思っていなかったエステルダは、目を見開いてアリッサを凝視していた。
「はっ!!い、いえ、謝るのはわたくしの方ですわ!!あのように知ったような口をきいてしまい、反省するのはわたくしの方なのです。本当に、申し訳ありませんでした。」
二人は、いつものように言いたいことを言い合うと、お互いが深く頭を下げた。
元々が、根に持つようなタイプでもない上に、これほど時間を置いての謝罪だった為、本当はエステルダが身構える必要などなかったのだ。現に、お互い頭を下げた後は、このように何のわだかまりもなく食事ができているのだから。
「ところで、朝からヴィスタ様のお姿が見えませんが、本日もお休みですの?」
「ああ、いえ、来ています。ただ、ヴィスタは今日一日で、休んでいた間の試験をまとめて受けているはずです。」
「まあ、では、本日は学園にいらっしゃるのですね?ああ、それは良かったですわ!三週間もお二人にお会いできませんでしたから、わたくしもレナートもとても寂しく思っていましたのよ?」
「え!?レナート様もですか!?・・・あの、ところでレナート様は・・・今日どちらに?今日一日、レナート様の教室にはどなたもいらっしゃらないみたいなのですけど・・・。」
(まあ、アリッサ様、学園に戻って早々、レナートに会いに行ったのですね。普段可愛げのない無表情のくせに、相変わらずレナートに対する愛だけは重いですのね!)
きっと口に出せば、貴女にだけはいわれたくないと、絶対言い返されることが分かっていたエステルダは、心の中でアリッサの愛は重い!!と、強く叫んでいた。
「コホン、ええ、レナートですわね。レナートは・・・そうそう、騎士科の野外訓練に参加していますわ。たぶん放課後には戻って来ると思いますわよ?・・・それより!!」
「アリッサ様とヴィスタ様は、三週間もの間、学園をお休みされて一体どうなさいましたの? わたくし心配致しましたわ。ご家族に何かございましたの?」
その言葉を聞いて咄嗟に目を逸らしたアリッサに、エステルダは直ぐに気付いた。しかし、こうしてまた学園に戻って来てくれたことを思えば、今はそれで充分だと安心感で満たされてもいた。なので彼女は何も追求せず、母が体調を崩したので家の手伝いをしていたと説明したアリッサの言葉をそのまま受け入れることにした。
久々の学園で、アリッサはレナートに会いたかったし、エステルダもヴィスタの顔が見たかった。二人は、放課後にお互いの弟を連れて、またこの場所で会いましょうと約束を交わし、教室に戻って午後の授業を受けた。
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