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三章 宿命と自由
死せる者、生ける者
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「ん……」
暗い淵から帰る場所に、辿り着いた紗英は、自分が畳の上に倒れていることに気がついた。
(そうか……私あのまま倒れて)
「う……んぅ」
唸りながら二、三度瞬きを繰り返し、ようやく体を起こした。
わずかに指先に痺れを感じる。頭も割れるように痛かった。知らず知らずに眉間にやった手のひら。指先の合間に静香が見えた。静香もまた放り投げられたように、畳の上に転がっている。
「おばば……?」
回らない舌先で語りかけるも、反応はない。
「おばば、ってば」
まだ立てる気はしない。相当強いガスでも吸ったようだった。
紗英は腕の力だけで、とっ、とっ、とゆっくり移動していく。それは歩き始めの赤子のようにおぼつかない。なんとか静香の側に寄り添って、紗英はおもむろに彼女の手の甲に触れた。
静香の手はぞっとするほど、冷たい。紗英は思わず、重ねた手を引っ込めた。
「……お、ばば?」
ゆさぶるも、縮こまった体は、まるで石のようで、ごとごとと音すらしてくるようだ。ドクン……ドクン。苦しいほどに鼓動が跳ね上がる。
一体、いつから意識がなかったのだろう。いつから静香はこの状態なのか。ぐるぐると同じことばかり考えた。されど、答えは出ない。
ただ、水の中にいるようにくぐもった深い呼吸音が、ザーザーと聞こえる。息を飲んで、覗き込んだ静香の顔は、まるで眠っているようだ。
「おば、ば、ねえおばば!起きて」
しかし、声は帰らない。ここではじめて、心と思考が合致した。紗英は大声で叫ぶ。
「だ、誰か、誰かきて。おばばが……おばばが!」
ひとつ叫ぶたび、涙で視界が歪む。もう、声が出ない。「誰か……おばばを、助けて」そう、絞り出した。
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