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12.真鶴
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誰もが何が起きたかと困惑していると、外出した白鷹を見送った金糸雀が慌ただしく戻ってきた。
白鷹から、かいつまんだ説明と指示が与えられたらしい。
「・・・二妃がお隠れになったよ。・・・今、城にいる家令は全員放逐されたらしいわ」
それは姉弟子と兄弟子の事。
その中には、金糸雀や緋連雀の母親も含まれている。
誰もがその衝撃を受け止めかねていた。
遅くに皇帝に即位し、リベラル派で愛妻家の現在の瑪瑙帝には正室しか居ない、となると二妃というのは皇太子の継室の事だ。
処分が下されたということは、皇太子の二妃は自然死ではないのだろう。
宮廷など、伏魔殿。
なんだってあり得る。
だが、家令としては望まぬ展開に、城に乗り込んだ白鷹の怒りは凄まじかったらしい。
自らの下の世代である弟妹を睨みつけると怒りを爆発させた。
「お前達、よくも宮城で継室を殺させたね!二度と城に戻るんじゃないよ!さもなきゃ私が全員殺してやるからね」
そう怒鳴りつけ、梟に処分を任せて来たらしい。
前皇帝と大戦を駆け抜けた戦歴のある元女総家令の剣幕に、元老院も震え上がったらしい。
姉弟子の決定に従う他はなく、真鶴と孔雀以外は、そのまま翌週から城に上がり、たまにガーデンに帰ってくるという日々が始まった。
その分、真鶴は軍にもアカデミーにも出向する回数も期間も長くなり、孔雀は戻ってくる姉弟子と兄弟子を待つ日々が増えた。
もともとは教師役として出入りしていた、城から出された兄弟子や姉弟子も以前のようにはガーデンに近づく事は許されず、会う事はできなかった。
相変わらず白鷹は厳しいし、詳細も知らされず、そもそも孔雀に尋ねる権利など無い。
二妃様、というのは、確かギルドの出身のはず。
前のギルド長の娘で、父親がアカデミーの外国人教授。海外育ちだと聞いた事がある。
王族の結婚は早いのが慣習だから、現在の皇太子も十五歳ですでに正室と結婚をしていた,
その後すぐに継室を取り、そのギルド出の女性は皇帝より年上だった。
家令が十五で成人というのもよっぽどな話だと言うのに、王族には成人と言う概念が無いらしい。
王族とは、もとから完成されていて、満たぬものなどないからだそうだ。
孔雀にとっては全部が納得し難い事だった。
真鶴が言うには、
「神サマとまでは言わないけれど下々とは違うんだって言うちょっと偏った思想があってね。もともと完璧であるから王族に子供も大人もないのよ。子供は小さな人くらいの認識。生物的には何の根拠もないんだけど。今時まだそんな事信じてるとしたらカルトだけどね。で、王族の結婚は政治だよ。家令の結婚どころか生き死にも人事であるようにね」
「じゃ、白鷹お姉様って結婚してるの」
そんな気配が全くしないけれど。
「したした。四回結婚して四回離婚したもの」
「・・・なんで?怖い」
「当てつけ」
驚く妹弟子の頭を真鶴が撫でた。
「皇帝が継室を取る度に、結婚したんですって。でも皇帝って総家令の結婚の許可は出せるけど、反対はできないの。でも離婚はさせられるのよ。だから四回離婚させたのね」
なんで。
孔雀はさらにわからないまま姉弟子を見上げた。
「あのひとたちが、皇帝で総家令だから、かな」
その時も姉弟子は、また自分の口に甘いお菓子を放り込んでくれた。
真鶴は、アカデミーで研究者としても在籍している。
前期四ヶ月、二ヶ月の休暇、後期四ヶ月、また二ヶ月休暇。
休暇のその二ヶ月にきっと軍に出向で一緒に連れて行ってくれるかもしれない。
一番歳の近い大嘴は、すでに宮城に上がり、なかなか帰ってこない。
いつもおかずやお菓子を取られていたが、いないならいないでなんとなくつまらない。
出入りのメイドが食事を用意してくれるし、管理する職員もいるが、そもそも人里離れた元離宮。孔雀の最近の趣味は、荒れた庭園を手直しする事だった。
元離宮なだけあり、よくよく見ると古い木が実は木苺や胡桃の木だと気付いたのだ。
どちらも目立つ花が咲かないから気づかなかった。
休暇に姉弟子や兄弟子が戻ってくるようになると、手土産に宮城で出される菓子の類を買い込んで持って帰って来た。
それぞれに配属された部署で、若年ながら奉職しているのだ。
精一杯だろう。
事情があるにせよ、上の世代がごっそり抜けたのは正直、厳しい。
放逐された上の世代の子供もいて、宮廷で育っているがまだまだ幼い。
評判のよろしくない家令になろうなんて人間が少ないのが問題なのだ。
女官や官吏はあれだけ競争率が激しく大人気であるのに。
白鷹お姉様が怖すぎるんだ、梟お兄様が無神経なんだ、と孔雀が文句を言いながら草むしりをした。
孔雀の通っていた私立の学校は幼小中高大学まであるのんびりとした学校で、そもそもあんな体罰教師は居なかった。
真鶴お姉様が戻ってきたら、白鷹お姉様にちょっと穏やかにしてくれるようにしてって言って貰おう。
あの飛び抜けて優秀な姉弟子には、白鷹はあまり強く出ないから。
「マロ、真鶴お姉様、早く帰ってくるといいねえ。私もお前も栄養偏っちゃう」
元野良犬で現在飼い犬である雑種犬を孔雀は撫でた。
真鶴や鸚鵡、白鴎はそれぞれに料理がうまい。
でも一番はやっぱりあの姉弟子。
いつも真鶴は特別おいしい食事を作ってくれるし、マロにもスープを煮てくれる。
「そしたら私にもちょっとスープ頂戴ね。あれおいしいよね。早く帰ってこないかな」
しかし、真鶴《まづる》はその後、ガーデンに戻る事はなかった。
白鷹から、かいつまんだ説明と指示が与えられたらしい。
「・・・二妃がお隠れになったよ。・・・今、城にいる家令は全員放逐されたらしいわ」
それは姉弟子と兄弟子の事。
その中には、金糸雀や緋連雀の母親も含まれている。
誰もがその衝撃を受け止めかねていた。
遅くに皇帝に即位し、リベラル派で愛妻家の現在の瑪瑙帝には正室しか居ない、となると二妃というのは皇太子の継室の事だ。
処分が下されたということは、皇太子の二妃は自然死ではないのだろう。
宮廷など、伏魔殿。
なんだってあり得る。
だが、家令としては望まぬ展開に、城に乗り込んだ白鷹の怒りは凄まじかったらしい。
自らの下の世代である弟妹を睨みつけると怒りを爆発させた。
「お前達、よくも宮城で継室を殺させたね!二度と城に戻るんじゃないよ!さもなきゃ私が全員殺してやるからね」
そう怒鳴りつけ、梟に処分を任せて来たらしい。
前皇帝と大戦を駆け抜けた戦歴のある元女総家令の剣幕に、元老院も震え上がったらしい。
姉弟子の決定に従う他はなく、真鶴と孔雀以外は、そのまま翌週から城に上がり、たまにガーデンに帰ってくるという日々が始まった。
その分、真鶴は軍にもアカデミーにも出向する回数も期間も長くなり、孔雀は戻ってくる姉弟子と兄弟子を待つ日々が増えた。
もともとは教師役として出入りしていた、城から出された兄弟子や姉弟子も以前のようにはガーデンに近づく事は許されず、会う事はできなかった。
相変わらず白鷹は厳しいし、詳細も知らされず、そもそも孔雀に尋ねる権利など無い。
二妃様、というのは、確かギルドの出身のはず。
前のギルド長の娘で、父親がアカデミーの外国人教授。海外育ちだと聞いた事がある。
王族の結婚は早いのが慣習だから、現在の皇太子も十五歳ですでに正室と結婚をしていた,
その後すぐに継室を取り、そのギルド出の女性は皇帝より年上だった。
家令が十五で成人というのもよっぽどな話だと言うのに、王族には成人と言う概念が無いらしい。
王族とは、もとから完成されていて、満たぬものなどないからだそうだ。
孔雀にとっては全部が納得し難い事だった。
真鶴が言うには、
「神サマとまでは言わないけれど下々とは違うんだって言うちょっと偏った思想があってね。もともと完璧であるから王族に子供も大人もないのよ。子供は小さな人くらいの認識。生物的には何の根拠もないんだけど。今時まだそんな事信じてるとしたらカルトだけどね。で、王族の結婚は政治だよ。家令の結婚どころか生き死にも人事であるようにね」
「じゃ、白鷹お姉様って結婚してるの」
そんな気配が全くしないけれど。
「したした。四回結婚して四回離婚したもの」
「・・・なんで?怖い」
「当てつけ」
驚く妹弟子の頭を真鶴が撫でた。
「皇帝が継室を取る度に、結婚したんですって。でも皇帝って総家令の結婚の許可は出せるけど、反対はできないの。でも離婚はさせられるのよ。だから四回離婚させたのね」
なんで。
孔雀はさらにわからないまま姉弟子を見上げた。
「あのひとたちが、皇帝で総家令だから、かな」
その時も姉弟子は、また自分の口に甘いお菓子を放り込んでくれた。
真鶴は、アカデミーで研究者としても在籍している。
前期四ヶ月、二ヶ月の休暇、後期四ヶ月、また二ヶ月休暇。
休暇のその二ヶ月にきっと軍に出向で一緒に連れて行ってくれるかもしれない。
一番歳の近い大嘴は、すでに宮城に上がり、なかなか帰ってこない。
いつもおかずやお菓子を取られていたが、いないならいないでなんとなくつまらない。
出入りのメイドが食事を用意してくれるし、管理する職員もいるが、そもそも人里離れた元離宮。孔雀の最近の趣味は、荒れた庭園を手直しする事だった。
元離宮なだけあり、よくよく見ると古い木が実は木苺や胡桃の木だと気付いたのだ。
どちらも目立つ花が咲かないから気づかなかった。
休暇に姉弟子や兄弟子が戻ってくるようになると、手土産に宮城で出される菓子の類を買い込んで持って帰って来た。
それぞれに配属された部署で、若年ながら奉職しているのだ。
精一杯だろう。
事情があるにせよ、上の世代がごっそり抜けたのは正直、厳しい。
放逐された上の世代の子供もいて、宮廷で育っているがまだまだ幼い。
評判のよろしくない家令になろうなんて人間が少ないのが問題なのだ。
女官や官吏はあれだけ競争率が激しく大人気であるのに。
白鷹お姉様が怖すぎるんだ、梟お兄様が無神経なんだ、と孔雀が文句を言いながら草むしりをした。
孔雀の通っていた私立の学校は幼小中高大学まであるのんびりとした学校で、そもそもあんな体罰教師は居なかった。
真鶴お姉様が戻ってきたら、白鷹お姉様にちょっと穏やかにしてくれるようにしてって言って貰おう。
あの飛び抜けて優秀な姉弟子には、白鷹はあまり強く出ないから。
「マロ、真鶴お姉様、早く帰ってくるといいねえ。私もお前も栄養偏っちゃう」
元野良犬で現在飼い犬である雑種犬を孔雀は撫でた。
真鶴や鸚鵡、白鴎はそれぞれに料理がうまい。
でも一番はやっぱりあの姉弟子。
いつも真鶴は特別おいしい食事を作ってくれるし、マロにもスープを煮てくれる。
「そしたら私にもちょっとスープ頂戴ね。あれおいしいよね。早く帰ってこないかな」
しかし、真鶴《まづる》はその後、ガーデンに戻る事はなかった。
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