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14.兄妹
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「・・・まさか・・・」
梟は信じられないと真鶴を見返した。
「私がそう言えば、すぐに戦力が宮城と軍基地に向かう事になってるの。どうする?翡翠、あんたも首だけになって晒されてみる?まあ、どっちにしても今ここにいる王族は皆殺しにしてやるけどね」
そんな事、白鷹が許すものか、と梟は言おうとして止めた。
大喜びしそうでは無いか。
血と騒乱を好む家令の典型のような姉弟子だ。
そもそも彼女は翠玉を琥珀に重ねていたから。
そこに彼女が選んだ女家令が云々、と来たら、今度は自分を重ねてご満悦だろう。
翡翠が梟に視線を向けた。
「軍に異常は?」
梟が首を振った。
「ございません」
軍を統率しているのは軍中央と呼ばれる組織だが、梟がその動向を把握していない訳がない。
「では禁軍か。あの犬もいよいよ頭がいかれてるな」
管轄外となれば禁軍しかない。
皇帝の親衛隊が造反する等、言語道断である。
が、家令が関わったとなれば有り得ない話でも無くなる。
「梟、そのお前達の末の妹弟子と言うのは、どのような身の上だ」
「・・・まだまだ雛鳥でございます。家令ですから軍属の経験も多少はありますし、神殿での神職にも付いてはおりますが。そもそもまだ十四。家令の成人年齢でもありません」
「それにしても城で手伝いくらいはしているはずの年齢のはずだろう。どんな意図があって城にあげないんだ」
何か他意ありやと疑われても仕方ないよ、と釘を刺され、梟が口を開いた。
「数年前より琥珀様の離宮に出入りはしておりますが、後宮で失礼があってはいけませんので。・・・末の妹弟子は、継室候補群の出なのです」
微妙な立場なので女官に知られたら虐められるかもしれない、という梟の気持ちがあるからだ。
緋連雀や金糸雀なら、女官の嫌味や嫌がらせ等、屁とも思わないしむしろ手加減してやれと思うが、あの末の妹弟子ではまだ不安だ。
見当がついたと翡翠が頷いた。
「思い出した。瑪瑙帝と皇后が気の毒がっていた継室候補群の出の子だね。・・・神官としては大分優秀らしいね。いつだったか、白鷹が早く神官長にしてしまわないと人手不足だと言っていたな」
神官長になるにはまだ大分若いだろう、と聞くと、あの子はさらにその上になれるかもしれない、と白鷹が珍しく笑ったのを覚えている。
けれども慎重に行かなくては。大切な妹弟子ですからね、と言った事も。
翡翠は梟に顔を向けた。
「・・・梟、その末の妹弟子を今すぐに神殿にやれ。今を以って大神官候補とする」
梟が狼狽したのが分かった。
「・・・まさか。まだ神官見習いです」
「いずれ大神官になるのなら早くてもいいだろう」
大神官は、神殿の奥の院で奉職をする務め。
下界、他人との関わりを絶ち、目で見る事を禁じられて、神官長数名との接触が許されるのみで神殿に一生閉じ込められて過ごす。
皇帝の地位にある者は厳しい潔斎を済ませて、わずかな時間ならば接触する事は可能だが、それでも会話どころか発語、コミニュケーションの発信も受信も禁じられるのだ。
第一、大神官になるまでが狭き門で、厳しい潔斎に命を落とす場合もある。
「世界の一部がお前の手に落ちようとも。家令は皇帝の備品、実用品だ。そうだろう?家令の一切はお前では無く、今現在はこの翡翠の手にあるんだよ」
実質、瑪瑙帝の時代から皇帝であったのは翡翠だ。
大神官はその皇帝が崩御したら死出の旅路に随伴する事もあるのだ。
翡翠が命じて孔雀が大神官になったとして、さらに家令ならばそれは翡翠の備品だ。
今すぐに瑪瑙帝の露払いを理由に死を与える事も出来るのだぞ、人質にしてやる、という事だ。
しばらくの間、真鶴はその邪眼めいた目で翡翠を睨みつけていたが、立ち上がった。
「・・・馬鹿馬鹿しい。私そんなの関係ない。けれど・・・」
まあいいわ、と真鶴はそう言って踵を返し、何事も無かったかのようにドアへと向かった。
「・・・それでは、兄王様。どのみち私達、父は違えどあの母王から産まれたのですもの。子同士で殺し合うか、母に殺されるかでしょう?どうぞ本日は私の挨拶とお思いになって。それではご機嫌よう」
彼女の美しく迷いない足取りと所作は自信に満ちて見えるだろう。
鴉と揶揄される、家令が纏う黒服を着ていても、なお恐らく王族ではないかと宮廷人は感じるのではないだろうか。
彼女に人を圧倒する何かがあるのは間違いない。
琥珀帝がそうであったように。
彼女は家令として聖堂にも属しているが、祭礼においてその姿は鮮やかにその場にいた人々の記憶に残った程だ。
聖堂では彼女が初の女教皇になるのではないかと噂されていた。
翡翠に命じられて梟はすぐに彼女の身柄を拘束しようとしたが、後を追って回廊に出る頃にはすでに彼女の姿はなかった。
監視カメラにはしっかりと彼女の姿は映されていたのだが、不思議なことに誰にも不審にも思われることもなく城を後にしたという、ただその事実のみが映されていた。
梟は信じられないと真鶴を見返した。
「私がそう言えば、すぐに戦力が宮城と軍基地に向かう事になってるの。どうする?翡翠、あんたも首だけになって晒されてみる?まあ、どっちにしても今ここにいる王族は皆殺しにしてやるけどね」
そんな事、白鷹が許すものか、と梟は言おうとして止めた。
大喜びしそうでは無いか。
血と騒乱を好む家令の典型のような姉弟子だ。
そもそも彼女は翠玉を琥珀に重ねていたから。
そこに彼女が選んだ女家令が云々、と来たら、今度は自分を重ねてご満悦だろう。
翡翠が梟に視線を向けた。
「軍に異常は?」
梟が首を振った。
「ございません」
軍を統率しているのは軍中央と呼ばれる組織だが、梟がその動向を把握していない訳がない。
「では禁軍か。あの犬もいよいよ頭がいかれてるな」
管轄外となれば禁軍しかない。
皇帝の親衛隊が造反する等、言語道断である。
が、家令が関わったとなれば有り得ない話でも無くなる。
「梟、そのお前達の末の妹弟子と言うのは、どのような身の上だ」
「・・・まだまだ雛鳥でございます。家令ですから軍属の経験も多少はありますし、神殿での神職にも付いてはおりますが。そもそもまだ十四。家令の成人年齢でもありません」
「それにしても城で手伝いくらいはしているはずの年齢のはずだろう。どんな意図があって城にあげないんだ」
何か他意ありやと疑われても仕方ないよ、と釘を刺され、梟が口を開いた。
「数年前より琥珀様の離宮に出入りはしておりますが、後宮で失礼があってはいけませんので。・・・末の妹弟子は、継室候補群の出なのです」
微妙な立場なので女官に知られたら虐められるかもしれない、という梟の気持ちがあるからだ。
緋連雀や金糸雀なら、女官の嫌味や嫌がらせ等、屁とも思わないしむしろ手加減してやれと思うが、あの末の妹弟子ではまだ不安だ。
見当がついたと翡翠が頷いた。
「思い出した。瑪瑙帝と皇后が気の毒がっていた継室候補群の出の子だね。・・・神官としては大分優秀らしいね。いつだったか、白鷹が早く神官長にしてしまわないと人手不足だと言っていたな」
神官長になるにはまだ大分若いだろう、と聞くと、あの子はさらにその上になれるかもしれない、と白鷹が珍しく笑ったのを覚えている。
けれども慎重に行かなくては。大切な妹弟子ですからね、と言った事も。
翡翠は梟に顔を向けた。
「・・・梟、その末の妹弟子を今すぐに神殿にやれ。今を以って大神官候補とする」
梟が狼狽したのが分かった。
「・・・まさか。まだ神官見習いです」
「いずれ大神官になるのなら早くてもいいだろう」
大神官は、神殿の奥の院で奉職をする務め。
下界、他人との関わりを絶ち、目で見る事を禁じられて、神官長数名との接触が許されるのみで神殿に一生閉じ込められて過ごす。
皇帝の地位にある者は厳しい潔斎を済ませて、わずかな時間ならば接触する事は可能だが、それでも会話どころか発語、コミニュケーションの発信も受信も禁じられるのだ。
第一、大神官になるまでが狭き門で、厳しい潔斎に命を落とす場合もある。
「世界の一部がお前の手に落ちようとも。家令は皇帝の備品、実用品だ。そうだろう?家令の一切はお前では無く、今現在はこの翡翠の手にあるんだよ」
実質、瑪瑙帝の時代から皇帝であったのは翡翠だ。
大神官はその皇帝が崩御したら死出の旅路に随伴する事もあるのだ。
翡翠が命じて孔雀が大神官になったとして、さらに家令ならばそれは翡翠の備品だ。
今すぐに瑪瑙帝の露払いを理由に死を与える事も出来るのだぞ、人質にしてやる、という事だ。
しばらくの間、真鶴はその邪眼めいた目で翡翠を睨みつけていたが、立ち上がった。
「・・・馬鹿馬鹿しい。私そんなの関係ない。けれど・・・」
まあいいわ、と真鶴はそう言って踵を返し、何事も無かったかのようにドアへと向かった。
「・・・それでは、兄王様。どのみち私達、父は違えどあの母王から産まれたのですもの。子同士で殺し合うか、母に殺されるかでしょう?どうぞ本日は私の挨拶とお思いになって。それではご機嫌よう」
彼女の美しく迷いない足取りと所作は自信に満ちて見えるだろう。
鴉と揶揄される、家令が纏う黒服を着ていても、なお恐らく王族ではないかと宮廷人は感じるのではないだろうか。
彼女に人を圧倒する何かがあるのは間違いない。
琥珀帝がそうであったように。
彼女は家令として聖堂にも属しているが、祭礼においてその姿は鮮やかにその場にいた人々の記憶に残った程だ。
聖堂では彼女が初の女教皇になるのではないかと噂されていた。
翡翠に命じられて梟はすぐに彼女の身柄を拘束しようとしたが、後を追って回廊に出る頃にはすでに彼女の姿はなかった。
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