ステュムパーリデスの鳥 〜あるいは宮廷の悪い鳥の物語〜

ましら佳

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3.

81.総家令の心配事

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 最近、孔雀くじゃくは心配でたまらないと書類を出したりしまったり。
天河てんがが軍属に入って、半年近く立つというのに、本人からなんの音沙汰もないのだ。
「上司の青鷺あおさぎから報告書は上がってるんだから心配ないよ」
分かっているのは、天河てんがが順調に任務を全うしていること。怪我も病気もしていないこと。営倉送りにもなっていないこと。
「むしろ、優良児じゃないかい。アカデミーでのあの不良っぷりに比べたら」
「・・・学生で言ったら今は勉強と部活が厳しくて毎日へとへとで不良になる暇がない、に近いという事ではないでしょうか・・・。顧問があの青鷺あおさぎお姉様ですもの・・・」

孔雀くじゃくはぞっとした。あの姉弟子はまさしくお上品ミサイル。
女官より継室にも負けない教養と美貌だが、同時にとんでもない鬼教官でもある。
「海軍の赤鬼と、海兵隊の青鬼だね」
翡翠ひすいは愉快そうに笑った。
赤鬼とは緋連雀ひれんじゃくの事だ。
そんなに心配する事もないと言う翡翠ひすい孔雀くじゃくは首を振った。

「・・・私、昔、海兵隊マリーンに研修訓練に行く白鴎はくおうお兄様と雉鳩きじばとお兄様にくっついて行った事があるんです。青鷺あおさぎお姉様が、布団圧縮袋と掃除機持ってきてって言うもんですから、ガーデンで衣替えに使った余りを持参しまして」
翡翠ひすいは藪から棒な話に面食らった。
「・・・あの女家令がそんなマメな事するとは思えないけれど・・・」
さすが分かっている、と孔雀くじゃくは感心した。

「冬物しまうの?と聞いたら、私はそんな事しないって。じゃ、何しまうのって聞いたら・・・」
あの姉弟子は白鴎はくおう雉鳩きじばとを優雅に指差したのだ。
青鷺あおさぎお姉様、私に掃除機のスイッチ押せって。・・・真空パックのハンバーグみたいになった白鴎はくおうお兄様を、そのままユニック車で吊り下げて水深20メートルのプールに落っことしたんです・・・」

翡翠ひすいはあまりな所業にさすがに絶句した。
「あの調子で訓練されてるんですもの。マリーンが我が軍でも有数の精鋭なわけです・・」
白鴎はくおうは窒息で気を失う寸前で引き上げられた。
雉鳩きじばとは爪に仕込んだプラチナでビニールを引き裂き、なんとか脱出した。

殺す気か!と非難する弟弟子達に、姉弟子は殺す気で戦争するんじゃない、バカねえ。簡単に殺されない為に訓練してんでしょ、と言い放ったのだ。

その翌日から、危機感に煽られた孔雀くじゃくは水を張った洗面器や風呂場で息を止める練習をして、そもそも素潜りは得意だが、三分程は呼吸せずとも平気になった。

青鷺あおさぎがよもや王族にそこまではするまいと信じたいが。
孔雀くじゃくとしては、まさか翡翠ひすい天河てんが海兵隊マリーンにやるとは思っていなかった。
王族の子弟は、海軍ネイビーか陸軍《アーミー》に所属するのが通例。

天河てんがは第二太子。栄誉あるような役職に就き、二年、軍属に就けば、自動的に終身の特別名誉職が得られる。
翡翠ひすいもそうして、海軍ネイビーを経験していた。
末子に近い琥珀こはく陸軍アーミーで将校から経験したそうだが。

懸念は機密の多い実戦部隊である海兵隊マリーンである事。
軍の中央長官は、家令ではない。
海兵隊マリーンの長が家令の青鷺あおさぎと言えど、所属違いの孔雀くじゃくでは手が出せない。

「・・・ああもう・・・。こんなことになるのだったら、早いうちから軍中央セントラルにもっと早くから家令を置くべきでした・・・」
川蝉かわせみ軍中央セントラルに食い込んでいたが、城を下がるのと同時に、軍属も解かれていた。
軍中央セントラルは手強い。
家令に対して警戒心が強い。

「・・・・そうだ、鸚鵡おうむお兄様・・・」
孔雀くじゃくは思いついて立ち上がった。
禁軍の宮廷軍閥の出のあの兄弟子ならば、軍中央セントラルと行き来があったのだ。
「身内から家令になったら、余計、敵愾心てきがいしんの塊だよ」
翡翠ひすいがそう言った。

それもそうなのだ。
でも、心配で仕方ないと立ったり座ったりしている。
メモ魔でもあるので、常にデスクに黄色いメモパットが山積みにしてあるが、通話しながらも無意識に天河てんが様、と書いている始末だ。

翡翠はちょっと面白くなさそうに、それでも|孔雀があまりにも心配しているのを見かねて口を開いた。
蝙蝠こうもりが一匹、軍中央《セントラル》にいたね、確か」
孔雀ははっとして顔を上げた。
「・・・千鳥ちどりお兄様!」
白鷹はくたかふくろうと共に大戦の戦後処理に奔走した唐丸とうまるが遅くに若い女官と結婚し成した子。
もちろんその後、唐丸とうまるの素行が影響して離婚されたが。

「・・・翡翠ひすい様、千鳥ちどりお兄様は家令ではありませんから、私が正式にお城に呼ぶ事はできません・・・」
翡翠ひすいが仕方ないと頷いた。
「調度聞きたい事もあったし、久しぶりに呼んでみようか。はてさて、来てくれるかどうか」

彼にとっては事情があって、絶縁を言い渡されていた幼馴染でもある。
孔雀くじゃくはぱっと笑顔になると、雉鳩きじばとを呼んですぐに正式に書類を作らせると言った。
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