ステュムパーリデスの鳥 〜あるいは宮廷の悪い鳥の物語〜

ましら佳

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90.柘榴の果実

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  唐突に基地が騒がしくなった。
鸚鵡おうむに抱えられた孔雀が、医務室に運ばれた。

保温用の防水加工のシートに包まれて、微動びどうだにしない。
他にも負傷者がいて手術室の用意が間に合わないと雉鳩きじばとが叫ぶと、ここでやると鸚鵡おうむも怒鳴り返した。

「邪魔だ、どけ!」
隊員が集まって来たのを雉鳩きじばとは蹴散らした。
はいたかが、その場にいた全員に簡易式の処置服を手際良く着せていく。
鸚鵡おうむ孔雀くじゃくをベッドに寝かせて保温シートを剥ぐと、音を立てて床に大量の赤い血液が流れ出した。
あまりの惨状に一瞬全員が息を飲んだ。
いつから居たのか、天河てんがが孔雀の腕に触れたのを、鸚鵡おうむが強く払った。

「触ってはいけません!」
はっとして天河てんがが手をひっこめた。
「・・・殿下。いいですか。孔雀くじゃくの血液には触れないように。こちらで処置致しますから、どうぞお控えください」
そう言うと、処置室の扉を閉める。
服をハサミで切ると、思ったより傷の範囲が広い。
「ショットガンか・・・」
「至近距離のショットガンでこれだけて済んだなら、もうけもんよ。金糸雀カナリアの開発した素材は優秀と言う事。・・・手伝いがあと何人か必要ね」
青鷺あおさぎが急いで海兵隊マリーン医師ドクターを数人呼びつけた。
「・・・雉鳩きじばと、これ、わかるか?」
ピンセットで取り出した弾を鸚鵡おうむが見せた。
「・・・なんだ、この弾?」
軽い素材で、金平糖のような形状で不規則な突起がついている。
一個一個の棘の形状が返しになっていた。小さくて軽いが、体に入ったら四方八方の肉を食い破って進むだろう。
傷口の表面や奥にびっしりと食らいつく小さな赤い粒子の塊は、まるで割れた柘榴の果実のようで気味が悪い。
「殺傷能力を上げる為のものだろう。・・・中が空洞で、管のようになる。これでは出血が止まらないはずだ。・・・なんてことだ」
鸚鵡おうむ孔雀くじゃくの体内をスキャンした画像を見た。
少なくとも八十個は入っている。

「弾は後で解析させるとして。素材だって何でできてるもんだか。・・・鸚鵡おうむ兄上、それじゃダメだ」
ピンセットでひとつづつ取っていたら間に合わない。
出血は今でも止まらないのだ。
とにかく弾を取り出して傷を塞いで血を止めてしまうしかない。
雉鳩きじばとは手袋を三重にすると、自分の手と孔雀くじゃくの体に大量に消毒液をかけて傷口に手を突っ込んだ。
あまりの荒っぽさに召集された海兵隊マリーン医師ドクターが目を疑った。

「たいしたもんだ、金糸雀の寄越した新素材。内臓まではいってないよ。軍に入る前に五キロ太れって言ってたのが良かったな」
血が溢れて崩れた肉の感触の中に、硬い質感を感じた。
そのまま、傷に手を滑らせて拾い出す。
それを地道に繰り返した。
途中何度もラテックスの手袋がズタズタになり取り替えた。
鸚鵡おうむと交代し、孔雀の肉もこそぎながらかなり無茶な取り出し方をした。
定期的にストックしていた輸血パックも足りなくなり、雉鳩きじばとから抜いた血液を孔雀に輸血しながら、血管を留め、繋ぎ、五時間かかった。
「・・・なるだけ傷が残らないようにしてやって頂戴」
後で形成手術をするにしても、これではなんとも酷い、と青鷺あおさぎが首を振った。
「・・・お前も休みなさい」
鸚鵡きじばとは青い顔をしている雉鳩きじばとにそう言って労った。
 
 総家令負傷のニュースで艦内は持ちきりだった。
孔雀は丸二日、朦朧もうろうとし、突然ぱっちりと目を開けて二言三言話したが、またすぐ眠ってしまった。
駆けつけたはいたかが、難民だと思った子供に撃たれたのだ、と報告を聞き「何で不用意に近づいたの」と言うと、孔雀は「子供だったから。子供だったのよ、はいたかお姉様。私が初めて軍に入った時より、もっと小さかった・・・」とだけ言って、また目を閉じてしまう。
体のダメージが大きく、起きていられないらしい。
ちょくちょく意識は浮上していたのだが、うまく表出できなかった。
孔雀くじゃくは、口の中に甘い氷を入れられて、雉鳩きじばとがそばにいるのに気づいた。

「・・・雉鳩きじばとお兄様、私、だいぶ血を貰ったんでしょう?だいじょうぶ?・・・今日で何日?ふくろうお兄様からどこに来いって連絡来た?」
これだけを話すのに大変な労力を必要として、改めて大分出血したのだなと自覚した。
いわゆるまれな血液型が同じである雉鳩きじばとが生血をくれたのだろうと思った。
その為に同行してるんだ、と言いそうだが、雉鳩きじばとだって貧血でフラフラだろう。
氷をまた口に入れられて、孔雀くじゃくが噛んだ。
噛む体力は戻って来たようだ。
何度か眠ってしまったようだが、目がちょっとずつ見えるようになり、周囲の状況が理解できるようになるまで、一時間はかかったろうか。
それまでずっと、口の中に氷を含んでいたから脱水も多少良くなったようだ。
点滴だけでなく経口からの水分摂取というのは大事らしい。
「・・・・ふくろうが何だって?どこに来るって何の事だ?」
その声が雉鳩きじばとではなく天河てんがだと気付いて、はっとして孔雀くじゃくはゆっくり毛布を被った。
「・・・なんでもありません・・・・・ごきげんよう・・・」
「なんだって?」
天河てんがは毛布を引っ張ってまた孔雀くじゃくの口に氷の欠片を詰め込んだ。

総家令が覚醒したと言う報せは、基地に関わる人間達を大いに喜ばせた。
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