ステュムパーリデスの鳥 〜あるいは宮廷の悪い鳥の物語〜

ましら佳

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3.

91.嘆きの岩窟

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 風雪が大地を覆っていた。

風が強すぎて雪は積もらないが、足元さえおぼつかぬような凍てついた荒野。
古い民族たちが作った遺跡の前に家令たちが集まっていた。
洞窟のような場所。
「・・・大昔はここいらまで海だったらしい。潮が引いて、洞穴が残った。そこをさらに掘り出して作った遺跡だな。昔は信仰の場所だったらしい。風が吹き込むと声のように聞こえるから、嘆きの岩窟いわやと呼ばれていたそうだ」
ふくろうがそう説明した。
もとはいくつもの民族が通り過ぎた場所だ。
固く閉ざされた石の扉が、風雪以上に人々を拒否するようだった。
もう訪れる者も居まいが。
その氷雪の大地へ降りたったのは青鷺あおさぎはいたか雉鳩きじばと鸚鵡おうむ孔雀くじゃく、そして天河てんが
ここに大鷲おおわしが眠っていると、ふくろうが見つけ出してきた。
はいたかが痛ましそうに目を潤ませた。
「こんなところに・・・大鷲おおわしお兄様・・・」

どうやって。
どんな気持ちで。
前線よりも更に先。
空白地帯に限りなく近い。

何でか、第二太子まで現れたのに先に来ていたふくろうが出迎えた。
「これは天河てんが様。お久しぶりでございます。海兵隊マリーンでのご活躍、誠におめでとうございます。ご身分を伏せての入隊等、どうせすぐにバレると思いましたが、まあそうでもないようで、さすがの知名度の低さが良く出ましたなあ」

全く見事な上っ面のおべんちゃら、かつ無神経な言い草に天河てんがは頭痛がした。
「また死神が何か悪巧みか」
嫌味のつもりだが、ふくろうがそうなのですと頷いた。
「いや、ここまでに大分時間と労力をかけました。ひとえに私の努力と、見識の高さだと存じます」
褒めて頂き、ありがとうございますとでも言い出しそうだ。

「いや、全然、褒めてないんだけど」
え?と驚かれて、天河てんがの方がびっくりだ。
孔雀くじゃくが兄弟子の前に進み出た。
「・・・ふくろうお兄様。今回、私の不手際で、このようなことになりました・・・」
孔雀くじゃくが前線まで行くという情報は事前に睨み合う二国には牽制の為に通達していたが、無政府組織やテロリストの方がここまで動くとは。

やはり、そちらの方が厄介だ、と孔雀くじゃくが申し訳なさそうに言った。
顔色も悪く、負傷を負った妹弟子をふくろうは案じた。

本来まだ動き回れるわけは無いが、あれこれ薬を限界めいっぱいまで入れて連れて来させた。
薬があちこち効いているようで、顔色は真っ白なのに目だけが爛々としているという様子。
「いや、よくやった。軍中央セントラルからも連絡が来ていた。千鳥ちどりが心配していた。・・・実はな、こんな事になりやがってと金糸雀カナリアがお前の段取りが悪いんだろと千鳥ちどりに怒鳴り込んだそうだ」
「・・・まあ、そうでしたか。軍中央セントラルへはあとでお詫びに参ります」

姉弟子が茉莉まつりに掴みかかって、デスクの上のものを投げ散らかしているのが目に見えるようだ。

「それと。翡翠ひすい様も大分ご心配してらっしゃる」
毎日連絡する事、という約束があったのだが。すっかり昏倒していた。
青鷺あおさぎから報告が上がって、驚かせた事だろう。
「・・・お騒がせしまして申し訳ない事です・・・」
「・・・まあ、それは後でだ」
実は宮廷を巻き込んでの騒動になったのだが、何とか納めて来たのだ。
ふくろう孔雀くじゃくに、四角い箱の包みを手渡した。
手の込んだレースで包まれている。
孔雀くじゃくはレースの結び目解いて中身を確認した。
青磁製の四角い箱の上に紙細工のような小さな青い花束ブーケを乗せてまた包み直す。
誰も花の名前等わからないが、孔雀《くじゃく》が微笑んだ。

矢車菊コーンフラワーよ」
宮城の庭園から小さな植木鉢にして持ってきたのを切って来たのだ。
妖精のため息のような、愛らしく少し悲しいような花。
はいたかお姉様、リュックに入れて」
鷂《はいたか》につつみを渡して背中のリュックに入れてくれるように頼む。
はいたかがリュックを開けると、大事そうに包《つつみ》を一番底に納めた。
青鷺あおさぎが孔雀の首に小鳥の刺繍がされた温かいショールをぐるぐるに巻きつけた。
「寒いからね」
孔雀くじゃくが頷く。

「・・・鎮痛剤4倍入れてやっとだ。一時間で戻ってこいよ」
孔雀くじゃくに輸血する為に血を抜かれすぎでまだ灰色の顔をしている雉鳩きじばとが言った。
孔雀が兄弟子に抱きついた。
雉鳩きじばとお兄様こそひどい顔色よ。・・・毒蛇どころか、これじゃミミズだわ」
孔雀くじゃくが悲しそうに言った。

「おい!一時間なんてすぐだ。早くしろよ」
この度の家令の集いに何の感傷もない天河《てんが》が、雰囲気をぶった切るような大声で、重い石の扉を開けて急かしていた。
唖然としてふくろう天河てんがを見た。
「いやあ、デリカシー無いですな、殿下」
お前に言われたか無いわ!と天河てんがが叫んだ。
「・・・・入れますか?殿下・・・」
「戸があるんだから入れるだろ。ライト付きヘメルット、安全靴、殺虫剤。ばっちりだ」
装備も完璧、と胸を張る。
孔雀くじゃくは、姉弟子と兄弟子に礼をすると、天河てんがの元に向かう。
「・・・天河てんが様、殺虫剤って何ですか?虫いますか?それは嫌。燻煙剤持ってこれば良かった」「それじゃこっちがいぶされちゃうだろ」とか聞こえる。

大嘴おおはしも、木ノ葉梟このはづくも、つばめも入れなかった。
おそらく孔雀くじゃくならいけると思ってはいたが。
そもそもこの為にも、自分はまだ子供のあの妹弟子を召し上げる事に同意したのだから。
しかし、あの第二太子が入れるのはなぜだろうとふくろうは不思議に思った。
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