戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ

文字の大きさ
30 / 128
第二章 ルートⅡ

第17話 先祖返り

しおりを挟む
「英雄は君の話を碌に聞かず去って行ってしまった……うっ。だ、だから……こんな事情があったって説明すれば……。」


 碌に聞かずですって?

 自分でさえも知らなかった事情を相手に察しろなんて無理があるわ。

 レイベルトを馬鹿にして……こいつだけは絶対に殺す。


「会えもしないのにどうやって説明するの?」

「どうって……それは……そうだ! 本棚の青い本、その中にある手紙を見せればきっと君の話も聞く気になるはず……。」

「それが私の話を聞く気になる事とどう繋がるの? ネイル。もしかして適当な事を言っているのね。」


 私が拳を振り上げると、更に焦った彼はペラペラと聞いてもいない事を話し始める。


「ぼ、ぼく達はストレッチ王国のスパイだ! だから、その手紙は本国とのやり取りの証拠になる。君はその手紙を見せる事で手柄を挙げ、英雄にも話を聞いてもらえるかもしれない!」


 確かに、それなら話を聞いてもらえる可能性はある。


「だ、だから僕達はずっと昔からこの街に商会を創って根を張り、君の家を簒奪して着実にイットリウム王国内で勢力を伸ばそうと………………。」


 良く喋る男ね。

 でも、せっかくだから事情を聞いておこう。

 どうせこの後殴っちゃうんだし。


「…………と言うわけで、英雄が、元上官に部隊を取り上げられたのも他のスパイがやって……うっ……そろそろ治療しないと死に、そうだ。続きは今度で良い、かな?」


 もう十分ね。

 他にもスパイがいるって分かったし、証拠になりそうな物の場所も粗方聞いた。


「ありがとうネイル。」

「あぁ、それじゃあね。元気で……。」


 まだ大事な事を聞いていない。


「待って?」


 私がネイルの肩を掴んだら、グシャリと嫌な音を立てて潰れてしまった。


「あぎゃぁぁぁっ!」


 いけないいけない。この人達、弱いんだったわ。


「どうして逃げようとしているの?」

「うぐっ……。逃がしてくれる、約束が……。」


 特に約束した覚えもない。


「や、約束が違うじゃない、か。殺さないはずじゃぁ……。」

「約束はしてないわ。それにね?」

「な、なんだい? 僕に出来る事なら、何でも、言ってくれ……。」

「私のお腹の中には貴方の子がいるのよ? もうレイベルトと結ばれるなんて無理よ。」


 あの時、レイベルトが帰ってきた時は「貴方と結婚する。」だなんて咄嗟に言ってしまったけど、改めて考えてみればどう頑張っても無理な話なのだと自身で気が付いていた。


「……。」

「その事に関してはどうやって解決してくれるの?」

「あ、いや……僕が、治療を終えたら、一緒に解決方法を……」
「このまま逃げるの?」

「ち、ちがう! でも、今のままだと、僕が死んで……。」
「死ぬ前に解決方法を考えて? 死ぬ気で考えれば思いつくかもしれない。思いつかないならそのまま死んでも良いわよ?」


 多分無理だ。

 そんな事、私にだって分かっている。


「方法、方法、方法……そうだ。一度子供を、産んで、孤児院に預ければ……。」

「ダメよ。子供には罪なんてない。もっと他の方法を考えて。」

「そんな……他の方法、なんて……。」

「残念。ネイル、そろそろお別れみたいね。」


 私は再び拳を振り上げる。


「待つ、んだ。その子の、父親を殺す、のか?」

「ネイル、素直になるお薬を私に使ったんでしょう? だから私は今、自分に嘘がつけないの。」

「そ、その薬は、先週までは使ってたけど、今はもう使ってな……くぴょっ!」


 嘘吐き。

 だったら、私が人殺しなんてするはずないじゃない。









「こんな事をしている場合じゃない。」


 私は怒りに身を任せ、ネイルとその両親、そして私を笑った護衛達が死んだ後も何度か殴りつけてしまっていた。

 とは言っても、所詮私なんてちょっと護身をかじった程度の半端者。

 伝説がどうとか意味の分からない事を言っていたけど、あの護衛達はよっぽど弱い役立たずだったに違いない。


⇒1.証拠と、今後の為に金品も持って行こう。
 2.【この選択肢は未開放です】


 彼は英雄となったが、元々強いだけの一介の騎士だ。

 政治が得意だなんて話は幼馴染の私ですら聞いた事がない。

 スパイが国に紛れ込んでいるのなら、英雄となったレイベルトは政治で謀殺されてしまうかもしれない。


「王に知らせないと。」


 私は聞いた情報を基に屋敷を探索し始める。

 ネイルが死に際に言った話は嘘ではなかったようで、聞いた通りの場所にストレッチ王国からの指令書、別のスパイとのやり取りの手紙、それらの暗号を解読する為の書類やらが出てきて、証拠としては十分だと思える収穫だった。

 屋敷内の一室には纏まった荷物が置かれていて、その中に金や宝石類があった。これがあれば、今後の生活を心配する必要はない。

 最後にその場を荒らし、誰かに襲撃されたように見せかけた後、近くの川で血を洗い流してから帰宅。

 幸い目撃者は一人も居なかったようで、私の仕業とバレた様子もない。



「こんな時間まで何をしていたんだ? もしかしてずっと働いていたのか?」

「あらあら。それは大変。でもエイミーはまだ若いんだから、たくさん働いても大丈夫かしらね。」

「そうだな。たくさん働けばきっと、エイミーも嫌な事を忘れられるだろう。」


 誰のせいで私がこんな目にあっていると……


「ねぇ。レイベルトとの婚約を解消した時にお金を貰ったの?」

「な、なぜそれを……。」

「違うの! 違うのよエイミー! エイミーがずっと待っているだけなのは可哀想だから、ついでにお金まで貰えるならってお父様が考えてくれたのよ?」

「そうだとも! ずっと待つのは辛い。だから、見合い話も紹介しただろう? エイミーは結局断ってしまったが。」


 何も考えてないって事なのね。


「私ね。ネイルに騙されてたんだ。」

「それは辛かったわね。ネイルを呼びなさい。お母さんが叱ってあげるわ。」

「あの男め。怪我をして引退したとはいえ、俺とてまだまだ錆び付いてはいない。父がエイミーの代わりに叩き斬ってやろう!」


 どうして自分達は関係ないって顔をしているの?

 勝手に婚約を解消したのは二人でしょう?

 いえ、両家が婚約を解消したお蔭でスパイの存在に気が付けたのだと思えば、レイベルトの為だけを思えば、これで良かったのかもしれない。

 でも、この人達の顔はもう見たくない。


「エイミー、瞳の色が変わって……。」

「勇者と同じ黒、だと?」


 勇者?


「す、すごいじゃないかエイミー! 勇者と同じ目なんて……。」
「そ、そうね! 家はきっと、伝説の勇者サクラの子孫だったんだわ!」


 勇者と同じ?

 という事は、あの護衛達が弱いんじゃなく、私が強かった……?

 試してみよう。


「どうした? 父の腕を引っ張るなんて、甘えたいのか……ぐわっ!!」


 片手で元騎士のお父さんを……大の男を軽々投げる事が出来てしまった。


「あ、あなた! エイミー! 急にこんな……」


 バチィン!!


「ギャッ!」


 かなり加減して頬を張ったのに、結構痛そう。


「エ、エイミー……突然何をするん、だ?」

「ひ、ひどいわ……。」


 酷いとは全然思わない。


「お父さん、お母さん。」

「な、なんだ?」
「そんなに怖い顔しないで……。」

「ちゃんと私の言う事を聞いてくれたら、これ以上酷い事はしないよ?」


 両親が無言で首を縦に振る様を見て、少しだけ留飲が下がった。

 この二人に色々協力させれば、私は心置きなく復讐出来る。

 伝説の勇者の力で……
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活

石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。 ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。 だから、ただ見せつけられても困るだけだった。 何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。 この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。 勿論ヒロインもチートはありません。 他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。 1~2話は何時もの使いまわし。 亀更新になるかも知れません。 他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

処理中です...