戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ

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第三章 戦争から帰ってきたら、私の婚約者が別の奴とも結婚するみたい。

第6話 決戦

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 この場にいる全員がテントの外に出て、報告を行った兵が指した方角を確認する。


「なんだあれは……。」

「見たこともない不気味な姿じゃ。」

「あれは……恐らく伝説の勇者が倒したと言われる怪物だ。」


 やはりベグレート王は知っているのね。


「はい。まさにその通りでしょう。」

「英雄エイ殿も知っているのか?」

「ええ。400年前にストレッチ王国に現れたとされる怪物ですね。」

「ならば話は早い。敗戦国の王である俺が言うのもおかしな話だが、あの怪物を倒して欲しい。」

「何も問題はないぞベグレート王。詳しい事は分からんが、倒さねばマズいのじゃろ? ならば儂からも頼む、英勇トリオよ。」

「「「はっ。」」」


 さっさと倒しに行こう。

 『アレ』を塵も残らず消滅させてあげないとね。


「待つのじゃ。先にこれを渡しておく。」


 そう言ってジャルダン王が宝剣を差し出してきた。


「我がイットリウム王家に伝わる宝剣じゃ。是非役立ててくれ。」

「「「ありがとうございます!」」」


 これは助かるわ。

 なら……


 1.宝剣はレイベルトが使って。
 2.宝剣は碧が使って。


「え?」

「急にどうしたエイ?」

「何に驚いてるの?」


 まさか、ここで選択肢……?

 前回は私が宝剣を使っていた。でも今の私には必要ない。

 だったら……どちらに持たせるべき?

 普通に考えればレイベルトだ。剣技においては彼の右に出る者はいない。

 でも、碧ちゃんは不意打ちとは言え『アレ』に一度負けている。攻撃手段として碧ちゃんに持たせておきたいとも思う。


「現在レイベルト隊が交戦しております! 急いで下さい!」


 今は考える時間が惜しい。このままだと部隊の皆に被害が出てしまう。


「宝剣はレイベルトが使って。」


 ここは素直にレイベルトに使わせよう。今の私なら碧ちゃんもフォロー出来る。

 なんなら二人の力を借りなくても倒せるでしょうし。


「分かった。前衛は任せろ。」


 私達三人は風魔法を発動し、部隊の皆を……そして両軍を助ける為に疾走した。







 両軍兵士は戦いに参加してはいないけど、遠巻きに『アレ』とレイベルト隊の様子を伺うような形で待機している。

 万が一突破されでもしたら対応しようという心積もりなのでしょうね。

 レイベルト隊の皆は『アレ』をぐるりと取り囲んで上手く連携を取り、隊の半数が剣をもって触手一本に二人がかりで対応し、もう半分は魔法で触手攻撃を逸らすという神がかり的なチーム戦をやってのけていた。

 個々の戦力は勇者級に届いていなくとも、百人が一丸となった連携で上手くカバー出来ている。

 決め手には欠けており、防戦する事しか出来ていないけどこれは凄い。

 前回の戦いではレイベルトが一人で前衛を務め、碧ちゃんが魔法で相手の気を逸らしていた。

 単純に同列では語れないけど、レイベルト隊は全員が連携を取りさえすれば、レイベルトの剣技と碧ちゃんの魔法に匹敵する強さがあるという事だ。


「こうも人数が固まっていては攻撃する隙がない。半分下げるぞ。」


 レイベルトの言う通り、ここまで人が固まっていると私達では攻撃するのにも神経を使う。

 『アレ』の大きさが前回以上に大きいところを見るに、既に五体が合体したものだと考えられるわね。

 つまり、遅れて出現する個体はないという事。


「今から俺達も加勢する! 剣を持っている組の半分は俺と入れ替わりで一度下がれ! 魔法攻撃を行っている奴もエイとアオイが入るから半分は下がれ!」


 レイベルトの号令に対し、隊の半分が流れるように私達と入れ替わりで後ろに下がる。

 そしてレイベルトが触手攻撃の半分を受け持つと再び命令を下した。


「良し! 下がった半分は周囲を警戒しながら待機! 戦闘が長期化した場合に備えての交代要員のつもりでいろ!」


 指揮に関しては私だとこうも上手くはいかない。

 碧ちゃんと部隊の皆に魔法で相手の攻撃を逸らしてもらいながら、私は大魔法数十発分にも及ぶ魔力を圧縮した火魔法を連続で放って『アレ』に穴を開けていき、レイベルトは触手を次々と斬り飛ばしていく。

 やはり碧ちゃんの魔法ではダメージが届かない。でも、あの数の触手を上手い具合に逸らす魔法の精密さは頼りになる。

 レイベルトだって、宝剣を持っている上に隊の半分が触手攻撃を受け持ってくれているから触手を斬り飛ばす余裕がある。


「良し! このまま攻撃を継続する!」


 順調に戦いが進んでいると思っていたのも束の間、怪物は大きな雄たけびをあげて魔法攻撃まで使い出した。


『げぎゃひひひひげぎゃひひひひひひぃぃぃぃ!!!!』


 私は攻撃に割いていたリソースを咄嗟に魔法攻撃を相殺する方へと舵を切る……と同時に、奴の言葉を理解した。

 お腹空いたって言ってる?

 そして更に言葉は続く。


『ナんでぼクをこうゲきスるnですkA。ボくHaジンるィとナカヨクなりtいでス。』


 人類と仲良く?


「無理無理。あなたは人類と合わないと思います。」

「この顔で一人称が『僕』はあり得なくない? てか喋ってるね。」

「いや、そういう問題じゃないだろ! 早く倒すぞ!」


 そうね。今は『アレ』と会話している場合じゃないわ。

 早く倒さないと。


「レイベルト! 両軍の兵をもっと下げないと危険だよ! 私の防御魔法だって限界がある!」

「おう! 待機組は巻き込まれないよう両軍兵士をもっと後ろに下げさせろ!」


 本当は防御を張る余裕くらいはあるんだけど、これからやる魔法をレイベルト隊の人間以外には見せたくない。

 このまま勝てるかと思って抑えて戦ってみたけど、出し惜しみしていたら被害が出るかもしれないわ。

 私の魔法……『さぐぬtヴぃらヴんみr』の神とやらにお見舞いしてあげなきゃね。

 レイベルトの指示により、待機していたレイベルト隊の皆は両軍兵士にもっと下がるよう伝達し始めた。

 無事に指示は通ったみたいで、波が引くように両軍の兵達は撤退していく。


「準備完了みたい。全員一度下がれ!!」


 私はレイベルトを含めた全員に撤退を指示した。

 十分な距離が確保出来たタイミングで『アレ』に結界魔法を多重発動させて閉じ込めてやると、なんとしても出ようともがき暴れて結界に触手を叩きつけている。

 これから自分が滅ぼされようとしている事に勘付いたのかしら?

 悲しみとも怒りともつかない感情が『アレ』から伝わってくるけど、私の知った事じゃない。


「相手を食する事を仲良くするとか言っているあなたは……人類とは致命的に分かり合えない。だから、滅んで?」


 私は手の平を『アレ』に向け、炎の巨大竜巻を圧縮して結果内に出現させる。

 魔力で生み出した炎である為、酸素が無くなっても燃え続けるという地球の法則をガン無視した現象を起こせるのは流石に魔法と言ったところ。

 結界内では『アレ』が苦しみながらどんどん燃えて体積を減らしていっている。

 普通ならどんな存在でも一瞬で消し飛ぶような攻撃なのに、未だに原形を留めて燃え続けているのは腐っても神と言わざるを得ない。

 どうせもう詰みだけどね。


「おお……。これ、俺達いらなかったんじゃないか?」

「そ、そうだね。」

「謙遜し過ぎだって。レイベルトや碧、部隊の皆がいなかったら、もっととんでもない被害が出ていたはずだよ。」

「そうなんだが……最初から周りに誰もいなければ、魔法で一撃だっただろ?」

「かもね。でも、一人だったら勝てなかった可能性だってある。」


 初めは圧倒的な魔法で『アレ』を滅ぼしてやろうとしてたけど、三人でのリベンジマッチが思わぬ形で叶ったのは嬉しい部分もある。

 部隊の皆も参加していたので純粋なリベンジではないけど、それはそれ。

 きっと、レイベルトと碧ちゃんがいたから私はここまで来れた。

 一人では決して辿り着けなかった今を……大切に生きよう。


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