戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ

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外伝:メイド喫茶でバイトテロしたら異世界召喚されました。しかも死に戻り特典付きで。

第11話 予定調和のアイオーン

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「ねえ碧ちゃん。それだと、勇者桜の知識が不足しちゃわない? 今の私が持っている知識よりも少ない知識で私に継承されちゃうと思うんだけど……。」


 エイミーの発言に対し、アオイは言葉を詰まらせる。


「え? あー……あはは。」


 頭をポリポリとかき、バツが悪そうに視線を彷徨わせる俺の嫁。

 もしも継承される知識が不足すれば、今のエイミーには確実に影響が出る。


「……ごめんなさい。そこが抜けてました。」

「良いよ。私の為に色々考えてくれたんでしょ? 正直、取っ掛かりさえもなかったんだから、私にとっては凄く有難い情報だったよ。」

「桜ちゃん……ごめん。」


 勇者サクラを救える流れかと思ったが、どうやらそれは難しいようだ。

 室内が静寂に包まれ、重苦しい雰囲気が辺りに漂う。

 そんな沈黙を破ったのは、娘のサクラだった。


「皆さんお忘れかしら? 勇者桜が一万年生きた知識ならここにあるでしょ。」

「どこにだよ。ここにいるのは二百年生きた勇者サクラしかいないんだぞ。」

「そうよサクラ。気休めなんてやめて。前世の自分とはいえ可哀想だわ。」

「お母さん。忘れてないかな?」

「何をよ?」


 妙にもったいぶるサクラは腕を組み、壁にもたれかかりながら得意気な表情で答えを言った。


「勇者桜の知識を引き継いだ人間がここにいるよね。」


 全員の視線がエイミーに集中する。

 確かにその通りだ。エイミーこそが勇者サクラの知識を持った張本人。その知識は一万年以上を生きた勇者サクラから引き継いだものなわけだから、不足などあろうはずもない。


「記憶なんてどうやって移すのさ?」

「碧ママも忘れたの? 私は記憶に関する魔法を使えるの。記憶の魔力化と魔力の物質化。それを組み合わせて記憶を物体としてこの場に創り出し、勇者桜に放り込む。」

「前に言ってたね。サクラは前回の自分の記憶を引き継いだんだっけ?」

「サクラには私も随分と助けられたわ。」


 流石は俺の娘……と言いたいところだが、俺はそんなの初耳なんだが?

 エイミーとアオイは知っているようだな。俺だけ仲間外れか……。


「本当を言えば、碧ママがこの流れを組み立てられたみたいだなんて言ったから気付けたんだよ。多分碧ママは勇者桜を説得する役、お母さんは暗号文書と知識の継承役、そして私が継承を手伝う役。」

「じゃあ俺は?」

「お父さんは……勇者桜のやられ役?」

「おい。」

「冗談だって。お父さんの剣技がなかったら勇者桜に襲い掛かられた時点で惨劇が起きてた。だから、ここに来た四人は全員が役割を持っていたのよ。」


 全員が来るべくしてここに来たというわけか。


「さて、お母さんの記憶を一旦物質化するよ。」

「分かったわ。」


 サクラがエイミーの頭に右手を置き、魔力操作を行っている。

 どんな魔法なのかは知らんが、サクラは余程優秀だという事なのだろう。

 アオイまでもが目を丸くして驚いている。


「なあ。アオイは出来そうか?」

「無理無理。キモイくらい複雑な魔力操作だよ。あんなのがいきなり出来るわけないじゃん。」

「碧ちゃん。キモイは言い過ぎよ。」

「エイミーがさっきやってた空間修復も大分キモかったけどね。」

「えぇー……。」


 エイミーは口を尖らせ拗ねたような声を出す。


「あのサクラって子、凄いよ。魔力操作のレベルが尋常じゃない。」

「桜ちゃんもそう思う?」

「魔法を極めるって、こういう事なんだね。」


 うちの娘は伝説の勇者さえ唸らせる程の魔力操作技術を獲得していたらしい。


「お母さんの次くらいには極めてる自信があるよ。はい、出来たっと。」


 サクラは左手からガラス玉を創り出し、笑顔で勇者サクラに手渡した。


「これ……が?」

「うん。これを取り込めば記憶の継承は完了するよ。少しだけ魔力を流してみて。」

「分かった。」


 受け取った勇者サクラがガラス玉に僅かな魔力を込めると、手にガラス玉が吸い込まれてしまった。


「溶けた……? うぐっ!」

「どうした!?」


 勇者サクラは急に膝を床に付いて頭を抑えだす。


「サクラ! これ、本当に大丈夫なのか!?」

「大丈夫大丈夫。勇者桜とお母さんは魂が同一だからね。拒否反応も少ないって。」

「かなり痛がってるよ?」

「平気平気。まぁ、人間一人分の記憶に加えて膨大な知識だからね。これで魂が同一じゃなかったら反作用で破裂してたかも。」

「おい。」


 こいつ、自分の母親の前世を相手に容赦なさ過ぎだろ。

 勇者サクラがここで破裂したら俺達はどうなるんだよ。

 さっきアオイが言っていた事は半分も理解出来なかったが、非常に面倒な事になりそうだというのは俺でも分かる。


「……っ! はぁ……はぁ…………分かったよ。」


 勇者サクラは膝を付きながらも、痛みが治まったのか何かを確信した表情で呟いた。


「これで色々と合点がいった。引き継いだ記憶通りなら、四人は本当に未来から来たんだね。」

「さっきからそう言ってんじゃん。桜ちゃん、まだ疑ってたの?」

「普段の碧ちゃんがそこそこオチャラけてるんだから、信じろって方が難しいよ。」

「死に際までふざける桜ちゃんには言われたくないんですけど?」

「まぁまぁ、碧ママも勇者桜もそこら辺にしといてよ。で? その様子だと勇者桜はしっかり記憶を引き継げたという事で良いの?」


 そこが重要だ。

 記憶を引き継げなかったら何の意味もないからな。


「バッチリよ。知識は勿論、レイベルトの事もサクラの事も……当然来世の私の事もね。」


 勇者サクラは俺を見てニヤニヤしている。


「何だ?」

「エイミー。戦争から帰ってきたら、結婚しよう。んちゅーーー。」


 なっ!?


「ちょっとやめてよ! レイベルトの真似全然似てない!」

「お父さんはもう少し女心を勉強した方が良さそう。」

「えぇー……そんなプロポーズだったの? レイベルトってロマンの欠片もないね。」

「そんなワケないだろ! んちゅーなんてやってないぞ!」


 酷い誤解だ。


「冗談冗談。あはは。」

「おい。」

「ところでさ、エイミーと私は魂が同一なわけだけど、記憶の引き継ぎを行う際に一度会ってるよね? 精神世界とでも言うべき場所でさ。」

「うん。」


 散々揶揄っておいて俺の事は無視かよ。


「あの時のやり取りを思い出して欲しい。いくら何でも私が知り得ない情報を話していた事は分かる?」

「あれは私の記憶を覗いたからじゃ……。」

「だとしてもだよ。エイミーの記憶を覗いたからって碧ちゃんやレイベルトの魂がどうとかは人格でしかない私が認識出来るはずないじゃん。あの時さ……。」












『碧ちゃんを吸収してしまった影響で、碧ちゃんが私と同じ能力を持っていたら現れていたであろう選択肢の時点まで遡る事になったんです! 何故かって? それは碧ちゃんが私の従姉妹だから魂が似ていたんです。』

『え? 貴女、アオイちゃんと従姉妹だったの?』

『そうでーす。というか、魂が似ていた事にはツッコまないんかい!』

『そもそも貴女は400年前に呼ばれてるじゃない。』

『あー……世界移動に時間というのはあまり関係がないみたいですね。たまたま勇者として条件を満たす存在が私や碧ちゃんだった。で、私と碧ちゃんは魂が似ているから呼ばれちゃった。そういう事だと思います。』

『魂が似ているから、貴女の次に呼ばれたのがアオイちゃんだった?』

『はい。詳しく説明しますと、魂と肉体は密接な関りがあります。だから、血縁がある人間の魂も似た形が選ばれるんです。魂にラベリングすると、たとえば……姉にA-1という魂が入っているのであれば、妹に入る魂はBやCが選ばれるのではなく、A-2やA-3が選ばれると思って下さい。碧ちゃんと私はAとA´くらいの関係でしょうか? 魂が似ているせいか、吸収した時の親和性が高くて、碧ちゃんの分岐点にも飛べるようになったって事です。後はレイベルトに関してですが……。』

『レイベルトにも何か関りがあるの?』

『彼の魂は元々私が輪廻の環に乗って削り取られた魂の一部から形作られてますね。だからレイベルトの魂を吸収した結果、私の人格や記憶が蘇ったんですよ。彼と妙に惹かれ合うような感じがしませんでした?あ、別に彼との愛を否定してる訳じゃありませんよ? 単純に、魂が近いと惹かれ合う性質にあるというだけの話で、全然魂が近くないのに結婚して愛し合う人もいますからね。』

『えっと、レイベルトも元々私という意味?』

『うーん。今となっては魂が超似てるだけで別な魂として独立してしまってるので、その表現は適切じゃありませんね。魂の双子とでも言えば良いんでしょうか? 貴女の魂には能力だけが残り、レイベルトの魂には強さが多少残ったという事です。』












「……っていうやり取りがあったよね? あの時は人格でしかない私という存在がレイベルトや碧ちゃんの魂を認識出来るはずがない。つまり……。」

「エイミーと精神世界でやり取りした桜ちゃんは私達に救われた後の桜ちゃんだった、という事?」

「そう考えるのが自然だね。今の私は実際にレイベルトや碧ちゃんをこの目で見て、魂まで観測する事が出来ている。だから、さっき私が説明したやり取りが成立する。」

「あらかじめ定められた流れだった……。」

「そうだね。誰が描いたシナリオなのか……神のみぞ知るって奴だね。」

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