5 / 49
05 廊下にて
しおりを挟む
「あ、リーブさん」
パタ,と足を止める。
スシャータも同じ方を見る。
「ああ、セレンスちゃん」
「いい加減,ちゃん付けは止めてください」
そう言いつつも笑みを絶やさない。
リルが侍女のように静かに横にたたずんでいる。
「先に行ってるね」
「うん」
軽く手を振って別れる。
少しの間,その後ろ姿を見送るセレンス。
そしてパッとリーブへ向き直り、向き合う。
「おはようございます」
「お、おう おはよ」
明るい笑みで挨拶をする。
心なしかリルも微笑みながら、お辞儀をする。
調子を狂わせられながらも、挨拶を返すリーブ。
「昨日,兄さんは何時ぐらいに帰ってきました?」
「……、クァイリは、」
どう誤魔化そう,と目を泳がせる。
いつもの社交辞令のようで、目だけは真剣そのもののセレンスは答えを待つ。
「ーー昨日も帰ってこなかったよ」
観念して白状する。
そうですか、とため息を一つ吐く。
腰に手をやり考え込むその姿は、どう叱ろうか考えているように見える。
(いや、実際考えているんだろうけど…)
顔を会わせれば小言を言われる,といつかボヤいていたことを思い出す。
自業自得だろ,とその時も今も心の中で呟くリーブ。
スシャータも少し呆れたように鳴く。
「まったく、程々にしてほしいのですけれど」
「セレンスちゃんが言っても、もう聞かないか」
「兄さんは昔から、ああですよ」
頑固です、と言う。
その後ろでリルも頷いている。
そうか、と笑いながらも、相当頑固だったとリーブも思い出す。
「やっぱり、あれか あいつが研究に固執するのは」
「何です?」
思い当たる節でも?、と一歩近づいて顔を覗き込むセレンス。
幼い頃からのその仕草に、リーブは半歩距離をとる。
リルやスシャータからの生温かい視線が,リーブには辛かった。
「小さい頃にテイムを亡くした哀しみが理由なんだろうな、って」
「そーですかねー?」
腕を組んで考え込む。
ころころと変わる表情を、眺める。
そしてリルと視線があい、すっと逸らす。
「…もしくは、その事でイジられる経験が、そっちに行かせているのかも」
少し修正を加えるリーブ。
しかし、セレンスは腕を組み目を綴じ,考え込む。
「多分、違うと思いますよー」
軽い調子で手を振る。
そうか?、と聞き返す。
「兄さんは結構、単純な人ですから、そういう複雑な理由ではないと思います」
「そういうものなのか?」
そういうものなんです、と妙に自身に満ちた様子で頷く。
そのノリに付いていけず、反応できないリーブ。
クスリとリルに笑われ、咳払いして切り替えるセレンス。
「ま、まぁ、周りの対応も兄さんの行動原理の一つではあるとは思いますが…」
「やっぱりその程度か…」
違和感を覚えながらも納得する。
その腑に落ちていない様子に、セレンスは言葉を重ねた。
「片落ちだのテイム無しだと言われても、兄さん自身は傷ついていないと思います
ただ、あの集団とは関わりたくないなぁ,と敬遠していった結果が、あれかと」
すっと指をさす。
その先へ視線をやると、ふらふらと廊下を歩くクァイリの姿が。
「おはよう、クァイリ」
「……ょぅ」
ほとんど目が閉じている状態で挨拶を返す。
どうやって前を見ているのか、人にぶつかることなく廊下を進んでいく。
「おはようございます、兄さん」
「………、おはよう、元気そうだな」
数秒のタイムラグの後、半分目を開けるクァイリ。
にこやかな笑みを浮かべるセレンスは、リーブの目から見れば完全に説教モードであった。
「昨日はどこで寝てらしたので?」
「…‥リーブに聞いてるだろ」
それだけ言うと、背中を向けて歩き出す。
一方的に話を切られたセレンスは、何かを言いかけるが言葉を飲み込む。
「いいのか?」
「もう少し起きている時に改めてやります」
諦めたように,そう言う。
しかし二人共、そんな時などない事を知っている。
セレンスは、大きなため息を一つ吐いた。
そして二人は示し合わせたように、教室へ歩き出す。
「兄さん、他の人の十倍は頑張っているのになぁ…」
「いつか報われれば,良いよな」
半分寝ながら歩く兄の背中を見つめるセレンス。
奇異な物を見る目以外も、その兄に向けられている事は、とうの昔に気がついていた。
「そういえば、」
少し落ち込んだ空気を変えるため、リーブは口を開く。
セレンスも暗い雰囲気を打ち消すように、明るく相槌を打つ。
「昨日の夜,旅人が訪ねてきてたみたいだな」
「ええ 非常勤講師の部屋に泊まったみたいよ」
セレンスなら何か知っているだろう,と践んだ質問。
少し当てが外れたリーブは,それでも話を続けた。
「こんな山奥に何の用なんだろうな」
「何か、研究目的の調査か何かじゃないでしょうか?」
世間話をしながら、教室へ向かう。
パタ,と足を止める。
スシャータも同じ方を見る。
「ああ、セレンスちゃん」
「いい加減,ちゃん付けは止めてください」
そう言いつつも笑みを絶やさない。
リルが侍女のように静かに横にたたずんでいる。
「先に行ってるね」
「うん」
軽く手を振って別れる。
少しの間,その後ろ姿を見送るセレンス。
そしてパッとリーブへ向き直り、向き合う。
「おはようございます」
「お、おう おはよ」
明るい笑みで挨拶をする。
心なしかリルも微笑みながら、お辞儀をする。
調子を狂わせられながらも、挨拶を返すリーブ。
「昨日,兄さんは何時ぐらいに帰ってきました?」
「……、クァイリは、」
どう誤魔化そう,と目を泳がせる。
いつもの社交辞令のようで、目だけは真剣そのもののセレンスは答えを待つ。
「ーー昨日も帰ってこなかったよ」
観念して白状する。
そうですか、とため息を一つ吐く。
腰に手をやり考え込むその姿は、どう叱ろうか考えているように見える。
(いや、実際考えているんだろうけど…)
顔を会わせれば小言を言われる,といつかボヤいていたことを思い出す。
自業自得だろ,とその時も今も心の中で呟くリーブ。
スシャータも少し呆れたように鳴く。
「まったく、程々にしてほしいのですけれど」
「セレンスちゃんが言っても、もう聞かないか」
「兄さんは昔から、ああですよ」
頑固です、と言う。
その後ろでリルも頷いている。
そうか、と笑いながらも、相当頑固だったとリーブも思い出す。
「やっぱり、あれか あいつが研究に固執するのは」
「何です?」
思い当たる節でも?、と一歩近づいて顔を覗き込むセレンス。
幼い頃からのその仕草に、リーブは半歩距離をとる。
リルやスシャータからの生温かい視線が,リーブには辛かった。
「小さい頃にテイムを亡くした哀しみが理由なんだろうな、って」
「そーですかねー?」
腕を組んで考え込む。
ころころと変わる表情を、眺める。
そしてリルと視線があい、すっと逸らす。
「…もしくは、その事でイジられる経験が、そっちに行かせているのかも」
少し修正を加えるリーブ。
しかし、セレンスは腕を組み目を綴じ,考え込む。
「多分、違うと思いますよー」
軽い調子で手を振る。
そうか?、と聞き返す。
「兄さんは結構、単純な人ですから、そういう複雑な理由ではないと思います」
「そういうものなのか?」
そういうものなんです、と妙に自身に満ちた様子で頷く。
そのノリに付いていけず、反応できないリーブ。
クスリとリルに笑われ、咳払いして切り替えるセレンス。
「ま、まぁ、周りの対応も兄さんの行動原理の一つではあるとは思いますが…」
「やっぱりその程度か…」
違和感を覚えながらも納得する。
その腑に落ちていない様子に、セレンスは言葉を重ねた。
「片落ちだのテイム無しだと言われても、兄さん自身は傷ついていないと思います
ただ、あの集団とは関わりたくないなぁ,と敬遠していった結果が、あれかと」
すっと指をさす。
その先へ視線をやると、ふらふらと廊下を歩くクァイリの姿が。
「おはよう、クァイリ」
「……ょぅ」
ほとんど目が閉じている状態で挨拶を返す。
どうやって前を見ているのか、人にぶつかることなく廊下を進んでいく。
「おはようございます、兄さん」
「………、おはよう、元気そうだな」
数秒のタイムラグの後、半分目を開けるクァイリ。
にこやかな笑みを浮かべるセレンスは、リーブの目から見れば完全に説教モードであった。
「昨日はどこで寝てらしたので?」
「…‥リーブに聞いてるだろ」
それだけ言うと、背中を向けて歩き出す。
一方的に話を切られたセレンスは、何かを言いかけるが言葉を飲み込む。
「いいのか?」
「もう少し起きている時に改めてやります」
諦めたように,そう言う。
しかし二人共、そんな時などない事を知っている。
セレンスは、大きなため息を一つ吐いた。
そして二人は示し合わせたように、教室へ歩き出す。
「兄さん、他の人の十倍は頑張っているのになぁ…」
「いつか報われれば,良いよな」
半分寝ながら歩く兄の背中を見つめるセレンス。
奇異な物を見る目以外も、その兄に向けられている事は、とうの昔に気がついていた。
「そういえば、」
少し落ち込んだ空気を変えるため、リーブは口を開く。
セレンスも暗い雰囲気を打ち消すように、明るく相槌を打つ。
「昨日の夜,旅人が訪ねてきてたみたいだな」
「ええ 非常勤講師の部屋に泊まったみたいよ」
セレンスなら何か知っているだろう,と践んだ質問。
少し当てが外れたリーブは,それでも話を続けた。
「こんな山奥に何の用なんだろうな」
「何か、研究目的の調査か何かじゃないでしょうか?」
世間話をしながら、教室へ向かう。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる