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10 朝靄の門出
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早朝。
日も出ていないこの時間は、あたり一面,白色に染まる。
高い塀に囲まれた学校の裏、小さな木の扉を開けて、数人、外へ出る。
「…では、行ってきます」
「待ってください」
間髪入れず、引き止められる。
本気で歩き出そうとしていたクァイリは、立ち止まる。
あまり関わりのないはずのディエントすら、呆れ顔である。
「先生 なぜ,セレンスを呼んだのですか?」
「……兄妹だろう?」
さすがのアンダスも、表情に出ていた。
至って大真面目にうんざりしているクァイリは、妹に背を向けようとする。
「兄さん」
「………、手短に」
観念して、そう妥協するクァイリ。
何をそう嫌っているのか、顔を合わせないように背ける。
「何をそんなに嫌がっているのですか?」
普段,あまり見ない反応に、アンダスは口を挟む。
年相応を嫌うクァイリの、子供っぽい対応に、興味が湧く。
「別に今生の別れでもないでしょう?」
「旅は危険なものです」
いや、近場ですし、というクァイリの言葉は当然無視。
危険なものは危険です,とアンダスは心配以外の感情から、そう言う。
「……旅人の方だって、早く発ちたいでしょうし、」
「私は構いませんよ どうぞごゆっくり」
恨めし気な視線を向けられるが、澄ました表情で受け流す。
自分でも今の状態を自覚したのか、ため息を一つ吐き、諦めた
「どーぞ、 気が済むまで」
セレンスの正面に立つ。
セレンスと、リルの二人に正面から睨まれ、視線は斜め下へと滑り落ちる。
「兄さんは、どうしていつも、相談してくれないのですか?」
「自分の事だろ 何で相談する必要がある?」
またこれかよ,と。
クァイリはうんざりした態度を隠さない。
その対応にアンダスは、その意図に気がつく。
(……、何をそう,生き急いでいるのでしょうね、)
もう自分は会えない相手に、問いを投げかける。
まだ薄暗い空を見上げるアンダスに、朝露に湿っている草原を眺めるディエント。
「それに、旅人さんが女性だなんて、初耳ですよっ」
「それがお前に何の関係がある?」
「私ではなく,兄さんに関係あるのですっ」
「関係ないだろ」
きっぱりと、言い切る。
取り繕う時間はなく、本心からそう思っているクァイリ。
少しの間、別々の理由で面々は黙る。
「……、ま、まぁ、兄さんがこの学園から出て世界を見ることは,いい事だとは思うのですが」
そう言ったきり、俯いて黙る。
どこか悔しそうな表情で唇を噛んで下を向いているセレンスに、クァイリは何も言わない。
さっきまでとは違い、感情を感じさせない顔で妹を見る兄に、アンダスは声をかける。
「クァイリ」
「はい」
すっと、視線を上げる。
同じ兄妹のはずなのに、と心の中でため息を吐く。
その微妙な間に何かを感じたのか、クァイリは気まずそうに視線を落とす。
「ーー、君は若くて,聡い」
と,始める。
老眼鏡ごしに、クァイリを見つめる。
目ではなく、顔でもなく、クァイリ全体を。
(……分かるのも、嫌なものですね)
クァイリが顔を上げるのを見て、話を続ける。
「だから、何がどうなろうと,君は受け入れることができるはずです」
その言葉は、説得力とは違う力強さがあった。
どこか縋るような、願うような、そんな響きを持っていた。
「どうか、逃げないで下さい 彼らからも、彼女の事からも」
最後の言葉は、クァイリには理解できなかった。
それでも、ハッキリと頷く。
それを見て、満足そうに笑う。
「では、行ってらっしゃい」
手紙,なくさないでくださいよ,と。
そう笑いながら、手を振る。
クァイリは荷物を背負い直し、一礼する。
少し離れた所に立っていたディエントが、歩き始める。
その後ろについていくように、クァイリも続く。
朝靄が朝日を受けて、白く光り輝いている、そんな旅出だった。
日も出ていないこの時間は、あたり一面,白色に染まる。
高い塀に囲まれた学校の裏、小さな木の扉を開けて、数人、外へ出る。
「…では、行ってきます」
「待ってください」
間髪入れず、引き止められる。
本気で歩き出そうとしていたクァイリは、立ち止まる。
あまり関わりのないはずのディエントすら、呆れ顔である。
「先生 なぜ,セレンスを呼んだのですか?」
「……兄妹だろう?」
さすがのアンダスも、表情に出ていた。
至って大真面目にうんざりしているクァイリは、妹に背を向けようとする。
「兄さん」
「………、手短に」
観念して、そう妥協するクァイリ。
何をそう嫌っているのか、顔を合わせないように背ける。
「何をそんなに嫌がっているのですか?」
普段,あまり見ない反応に、アンダスは口を挟む。
年相応を嫌うクァイリの、子供っぽい対応に、興味が湧く。
「別に今生の別れでもないでしょう?」
「旅は危険なものです」
いや、近場ですし、というクァイリの言葉は当然無視。
危険なものは危険です,とアンダスは心配以外の感情から、そう言う。
「……旅人の方だって、早く発ちたいでしょうし、」
「私は構いませんよ どうぞごゆっくり」
恨めし気な視線を向けられるが、澄ました表情で受け流す。
自分でも今の状態を自覚したのか、ため息を一つ吐き、諦めた
「どーぞ、 気が済むまで」
セレンスの正面に立つ。
セレンスと、リルの二人に正面から睨まれ、視線は斜め下へと滑り落ちる。
「兄さんは、どうしていつも、相談してくれないのですか?」
「自分の事だろ 何で相談する必要がある?」
またこれかよ,と。
クァイリはうんざりした態度を隠さない。
その対応にアンダスは、その意図に気がつく。
(……、何をそう,生き急いでいるのでしょうね、)
もう自分は会えない相手に、問いを投げかける。
まだ薄暗い空を見上げるアンダスに、朝露に湿っている草原を眺めるディエント。
「それに、旅人さんが女性だなんて、初耳ですよっ」
「それがお前に何の関係がある?」
「私ではなく,兄さんに関係あるのですっ」
「関係ないだろ」
きっぱりと、言い切る。
取り繕う時間はなく、本心からそう思っているクァイリ。
少しの間、別々の理由で面々は黙る。
「……、ま、まぁ、兄さんがこの学園から出て世界を見ることは,いい事だとは思うのですが」
そう言ったきり、俯いて黙る。
どこか悔しそうな表情で唇を噛んで下を向いているセレンスに、クァイリは何も言わない。
さっきまでとは違い、感情を感じさせない顔で妹を見る兄に、アンダスは声をかける。
「クァイリ」
「はい」
すっと、視線を上げる。
同じ兄妹のはずなのに、と心の中でため息を吐く。
その微妙な間に何かを感じたのか、クァイリは気まずそうに視線を落とす。
「ーー、君は若くて,聡い」
と,始める。
老眼鏡ごしに、クァイリを見つめる。
目ではなく、顔でもなく、クァイリ全体を。
(……分かるのも、嫌なものですね)
クァイリが顔を上げるのを見て、話を続ける。
「だから、何がどうなろうと,君は受け入れることができるはずです」
その言葉は、説得力とは違う力強さがあった。
どこか縋るような、願うような、そんな響きを持っていた。
「どうか、逃げないで下さい 彼らからも、彼女の事からも」
最後の言葉は、クァイリには理解できなかった。
それでも、ハッキリと頷く。
それを見て、満足そうに笑う。
「では、行ってらっしゃい」
手紙,なくさないでくださいよ,と。
そう笑いながら、手を振る。
クァイリは荷物を背負い直し、一礼する。
少し離れた所に立っていたディエントが、歩き始める。
その後ろについていくように、クァイリも続く。
朝靄が朝日を受けて、白く光り輝いている、そんな旅出だった。
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