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20 出会い
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雑草が生い茂っている山道。
ふと気がつくと、毎日のように踏み固められている道へと変わっていた。
顔を上げると、遠くの方に人が住んでいる気配を感じる。
(……案外、分かるものなんですね)
昔、本で読んだときは、大げさだと思っていた。
人が少ない山道を永遠と歩いていると、そういうものに敏感になるようで。
「よいしょっ…、と」
道の脇から飛び出ていた枝を踏み折る。
雑木林が唐突に途切れ、盆地に築かれた村が目の前に広がる。
「………ふぅ」
特に感動もなくなった。
慣れ,と言うよりかは、分かっていたから。
「いますかね サディシャさん」
「多分、あの村にいなければ,ここくらいしか…」
予め落ち合う場所を決めておけば良いのに。
そう思うものの、口には出さない。
「あっ、お久しぶりですっ」
かくして、例の人はすぐに見つかったようだった。
村に入って少しすると、ディエントさんが走り出す。
追い抜かして駆けていく背中を眺めながら,ゆっくりと歩く。
住人と話していた青年が振り返る。
旅をしているにしては小綺麗な恰好の、背の高い青年。
私より、頭一つ分、高いくらいか。
「ああ,ディエントか」
そう笑いかけながら、ディエントさんへ近づく。
話を切り上げられ背を向けられた住人達の表情が,一瞬ほっとしたように緩む。
注意してみていても見間違いかと思うくらい,すぐに何でもない表情になる。
(……この村でも,良く思われていないのか?)
第一印象は、好青年を絵に描いたような人物。
胡散臭さは感じられず、先入観がなければ私も"良い人”と認識していただろう。
胡散臭さのなさが,逆に気味の悪さにつながっている、とも感じられなくはない。
まぁ、これは若干妬みも入っているのだろう。
「ここに来たということは、もう,向かっているのかい?」
「ええ」
しげしげと表情を観察する。
柔和な笑みに,優しげな眼差し。
ただ、どこか目の前ではない遠くを見ているような雰囲気が,気になった。
あの独特な表情は、何だろうか。
どこかで見たような気もするのだけれども。
「後ろの人は、どうしたんだい?」
ごく自然な流れで、聞く。
ディエントさんがちらっとこちらに視線をやる。
そこでふと、違和感を感じた。
サディシャ氏は私の方を見ていなかった。
ディエントさんが声をかけてからずっと眺めてていたから気がついたが、目は合わなかった。
視界の端に少し写った程度にしか、私を認識していないはず。
いつも視界の端まで気にしているのでしょうか。
「途中で会いました フローリアの薬水を確保する為に同行してもらっています」
「それはそれは」
驚いたような表情になり、こちらに視線が向く。
その目線が、機能的ではなく形式的に向けられたようなものに思えて、少し悪寒を感じた。
「…初めまして クァイリと言います」
目を逸らすように,頭を下げる。
人形の目が怖いのと、同じ理屈だろう。
「サディシャです ディエントがお世話になっています」
「クァイリはサディシャさんと同じように、テイムを研究しているんですよ」
横からディエントが口をはさむ。
そうなんですか、と驚いた声を出す。
気をつかって共通の話題から接点を作ろうとするディエント。
あまり関わりたくないタイプであろう、得体の知れないサディシャ。
クァイリはここから走り去って、何もかもなかったことにしたい衝動にかられる。
「…まだ、学生の身です」
「いやいや 研究するのに年齢も身分も関係ないよ」
すぐに身を引こうとするが、逃げられず。
この時、根拠も理由もないけれど、間違った,と脳裏によぎった。
(一体,何を間違えたんだか…)
端的に言うと、この人に関わったこと。
ただ、回避する方法については分からない。
「君はテイムの何について、研究したいんだい?」
その言葉と、雰囲気の柔らかさ。
それに対して、クァイリが感じた印象は、試されている,というものだった。
「…、まだ具体的には」
下手に目を逸らさないように。
サディシャの後ろを見通すように、視線を固定しつつ,嘘を口にする。
「そうですか」
楽しみですね,と笑う。
ぞわ、と総毛立ち、小さく一歩後ろに下がる。
(……ああ、本当に、間違えた)
少なくとも,正しくはない。
自分でも良く分からない感覚に,妙な感想を抱く。
ディエントは二人の間の妙な空気に、首をひねる。
「おもしろい方と、旅をすることになりましたね」
視線を戻す。
話の矛先から外れて、ほっと息をつくクァイリ。
直後に、見られていなくても視られていると思いだし、気を引きしめる。
「今後、楽しみにしていますね」
にこりと、笑いかける。
その言葉に違和感を覚えながらも、頷く。
クァイリは一歩場から引いて、二人の話に入らないようにしていた。
ふと気がつくと、毎日のように踏み固められている道へと変わっていた。
顔を上げると、遠くの方に人が住んでいる気配を感じる。
(……案外、分かるものなんですね)
昔、本で読んだときは、大げさだと思っていた。
人が少ない山道を永遠と歩いていると、そういうものに敏感になるようで。
「よいしょっ…、と」
道の脇から飛び出ていた枝を踏み折る。
雑木林が唐突に途切れ、盆地に築かれた村が目の前に広がる。
「………ふぅ」
特に感動もなくなった。
慣れ,と言うよりかは、分かっていたから。
「いますかね サディシャさん」
「多分、あの村にいなければ,ここくらいしか…」
予め落ち合う場所を決めておけば良いのに。
そう思うものの、口には出さない。
「あっ、お久しぶりですっ」
かくして、例の人はすぐに見つかったようだった。
村に入って少しすると、ディエントさんが走り出す。
追い抜かして駆けていく背中を眺めながら,ゆっくりと歩く。
住人と話していた青年が振り返る。
旅をしているにしては小綺麗な恰好の、背の高い青年。
私より、頭一つ分、高いくらいか。
「ああ,ディエントか」
そう笑いかけながら、ディエントさんへ近づく。
話を切り上げられ背を向けられた住人達の表情が,一瞬ほっとしたように緩む。
注意してみていても見間違いかと思うくらい,すぐに何でもない表情になる。
(……この村でも,良く思われていないのか?)
第一印象は、好青年を絵に描いたような人物。
胡散臭さは感じられず、先入観がなければ私も"良い人”と認識していただろう。
胡散臭さのなさが,逆に気味の悪さにつながっている、とも感じられなくはない。
まぁ、これは若干妬みも入っているのだろう。
「ここに来たということは、もう,向かっているのかい?」
「ええ」
しげしげと表情を観察する。
柔和な笑みに,優しげな眼差し。
ただ、どこか目の前ではない遠くを見ているような雰囲気が,気になった。
あの独特な表情は、何だろうか。
どこかで見たような気もするのだけれども。
「後ろの人は、どうしたんだい?」
ごく自然な流れで、聞く。
ディエントさんがちらっとこちらに視線をやる。
そこでふと、違和感を感じた。
サディシャ氏は私の方を見ていなかった。
ディエントさんが声をかけてからずっと眺めてていたから気がついたが、目は合わなかった。
視界の端に少し写った程度にしか、私を認識していないはず。
いつも視界の端まで気にしているのでしょうか。
「途中で会いました フローリアの薬水を確保する為に同行してもらっています」
「それはそれは」
驚いたような表情になり、こちらに視線が向く。
その目線が、機能的ではなく形式的に向けられたようなものに思えて、少し悪寒を感じた。
「…初めまして クァイリと言います」
目を逸らすように,頭を下げる。
人形の目が怖いのと、同じ理屈だろう。
「サディシャです ディエントがお世話になっています」
「クァイリはサディシャさんと同じように、テイムを研究しているんですよ」
横からディエントが口をはさむ。
そうなんですか、と驚いた声を出す。
気をつかって共通の話題から接点を作ろうとするディエント。
あまり関わりたくないタイプであろう、得体の知れないサディシャ。
クァイリはここから走り去って、何もかもなかったことにしたい衝動にかられる。
「…まだ、学生の身です」
「いやいや 研究するのに年齢も身分も関係ないよ」
すぐに身を引こうとするが、逃げられず。
この時、根拠も理由もないけれど、間違った,と脳裏によぎった。
(一体,何を間違えたんだか…)
端的に言うと、この人に関わったこと。
ただ、回避する方法については分からない。
「君はテイムの何について、研究したいんだい?」
その言葉と、雰囲気の柔らかさ。
それに対して、クァイリが感じた印象は、試されている,というものだった。
「…、まだ具体的には」
下手に目を逸らさないように。
サディシャの後ろを見通すように、視線を固定しつつ,嘘を口にする。
「そうですか」
楽しみですね,と笑う。
ぞわ、と総毛立ち、小さく一歩後ろに下がる。
(……ああ、本当に、間違えた)
少なくとも,正しくはない。
自分でも良く分からない感覚に,妙な感想を抱く。
ディエントは二人の間の妙な空気に、首をひねる。
「おもしろい方と、旅をすることになりましたね」
視線を戻す。
話の矛先から外れて、ほっと息をつくクァイリ。
直後に、見られていなくても視られていると思いだし、気を引きしめる。
「今後、楽しみにしていますね」
にこりと、笑いかける。
その言葉に違和感を覚えながらも、頷く。
クァイリは一歩場から引いて、二人の話に入らないようにしていた。
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