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田中神代

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42 誰がその問題を

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「なぁ、 クァイリ」
 突然、リーブが口を開く。
睨み合っていた二人の視線は,そこで途切れる。
クァイリの視線は、サディシャを通り越してリーブへ。
サディシャの視線は、クァイリを通り越してサラァテュへ。
「まるでサディシャさんが悪者みたいな言い方は止めないか?」
 その言葉に、クァイリは何も言わない。
先ほどまでと同じ視線を、リーブへと向けていた。
「サディシャさんだって苦しんで,犠牲だって払っているんだ」
「リーブは少しは自分の頭で考えたらどうですか?」
 パチン,と切り捨てるように言い放つ。
それは心の中で親友を切り捨てた瞬間だった。
蒼白になったリーブの顔色が、一瞬で怒りに染まる。
しかし、向けられている冷めた視線に、何も言えずに口を閉じる。
 話の腰を折られたクァイリは、サディシャに視線を戻す。
 それに合わせて、サディシャの視線も元に戻る。
「サディシャさん  あなたは人もテイムも、軽く見ていませんか?」
 その質問に、サディシャはふむ、と考える。
改めて考えている姿を、クァイリはジッと観察する。
(…対等に認識された、と見てよいのでしょうか)
 丁寧な嘘を吐かれなければ良いのですが、と一抹の不安がよぎる。
その不安を見透かされないように、相手の目を覗き込む。
「話の通じない者も対等に接しろとでも?」
 それは研究者の仕事ではない,と。
改めて考えた末の言葉を、真顔で発する。
そこには何の迷いもなく、さも当然のことのように。
クァイリはそれを聞いて、ホッと息を吐いた。
(これで…決まった)
 言うべき事も、この後の事も。
腹を決めたクァイリは、ひどく落ち着いた様子になる。
「大衆の中にもより良い方向へ変えようとする人も多くいるはずです
彼らはその方向と事実を知らないだけと思いますが」
 落ち着いた、のんびりとした声。
ただ妙なプレッシャーを感じさせる、重みがあった。
二十年も生きていないクァイリが発する、ただならぬ重み。
 その裏にある覚悟に、サディシャも応える。
「気がつかないのではない  気づこうとせず、認めようとしないだけだ
民衆はいつの日も、変わらない日常を、”いつも通り”を望んでいるだろう」
 サディシャの本音。
過去にどんな経験をしてきたのかは、分からない。
ただ思い当たる節があり、クァイリは否定しない。
そのもどかしさと苛立ちを理解した上で、言葉を重ねる。

「そうも言っていられない状況にしてやれば、大衆は一気に動くはずです」 
 
 ピク,とサディシャの動きが止まる。
そして、クァイリの座った目に気がつき、本気で言っていると実感する。
(…単なる夢見な若者じゃ、ないのか)
 ぞく、と背筋に嫌な感覚が走るのを感じる。
若者独特の、思いっきりの良すぎる勢いに、気圧される。
躊躇なく崖から飛び出すような、狂気にも似た勢い。
「例えば、薬水用の薬草がなければ、今まで通りなんて望めません」
 いつの間にか平静を保てていなかったサディシャは,理解が遅れる。
そして、理解すると同時に、再び心がざわめき始めた。
「…そんな事をすれば、テイムは禁断症状で倒れ、人は薬水を奪い合って争うだろう」
 咄嗟に,そう返す。
口にしなくても分かるようなことを、ワザワザ口にする。
サディシャ自身,嫌いな行動をとったのは、落ち着きを取り戻すための時間稼ぎだった。 
 見透かしたのか、単に答える必要花井と判断したのか、クァイリは何も言わない。
「……大勢の人を巻き込んで、それこそ、人としてどうかと思いますよ」
 本当の意味で,対等に話し始めたのは、ここからだった。
物分かりの悪い若者に対するものから,得体の知れないものへ、サディシャの視線が変化する。
(予想以上に同類と言いますか……、これは、)
 狂信的に自分の信念や仮定に従う姿。
サディシャにも、そんな時期は確かにあった。
ただ実際に他人のその状態を目の当たりにし、冷静になり、恐怖を覚える。
 何をしでかすか,分からない恐怖。
 倫理観を上回る、"理屈"を振り回す相手。
そんな相手が自分が来るまでのいくらかの時間、サラァテュと話していたと言う事実が、
ここに来てサディシャを追い詰めて行くほどの危機感を生んでいた。
「こんな大事で大きな問題  こんな少人数で片付けるのはおかしいと思います
当事者は、たったこれだけの人間だけじゃ、ないはずです」
 どこか、サディシャは勘違いをしていた。
クァイリはまともで、ズレている自分を言い包めようとしていると。
しかし、クァイリの考えが分かった今、サディシャは冷静になってしまった。
(ダメでしょう……、それは危険でしょう…)
 いつの間にか,立場が逆転している事に,戸惑いを隠せなかった。
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