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2章 強さへの道標
022 冒険者ギルドの戦闘技能指導
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「トーマにも友達ができたんだねぇ」
宿を出るときに、ユリンさんが声をかけてきた。2人のことは、この宿に招待した時に見かけたんだろう。
その後宿で夕飯食べない日もあったし、交流を続けていると察したのかもしれない。
「おかげさまでね。2人とも話してて楽しいよ」
「ああ、とってもかわいい子達だったねぇ。トーマも迷宮探索が順調そうで何よりさ。お金がないからって連泊を断ってたのが、嘘みたいに安定してるじゃないか」
「この宿のメシが食えなくなったら嫌だから。そのために頑張って稼いでるんだよ」
「ははは、言うじゃないか!早いとこ、泊めたことが自慢できるような冒険者になっておくれよ?」
「前向きに検討して善処するよ」
成り上がれ発言は適当に誤魔化して、送り出してもらった。
改めて考えると、リンカーズに来てそれなりに苦労はしてるものの、出会った人はみな良い人しか居ないな。この世界の人が、みんな心優しいという訳ではないだろう。
神様ガチャは最悪だったけど、人の縁には間違いなく恵まれていると断言できる。
異世界にきた割に大きなトラブルもなく過ごせているのは、みんなが俺のことを気にかけてくれているからだ。
日本で暮らしていた時には考えられないくらいに、毎日が充実している。やっぱり俺は、この世界に適性があったんだろうなぁ。
いつもの時間にギルドに着くと、シンとリーンはもう既にロビーで待っていた。
「おはよう。今日はいつもより早いな」
「おはよートーマ!」
「いやぁ、折半したとはいえ、銀貨1枚も払ったんだ。なるべく元を取りたいじゃないか。
それに教わる側が遅れて来るようでは失礼だろ」
シンはいつも色々考えてるなぁ。商売人向けの教育を受けてきたというし、物事を色んな角度で見る癖がついているのかもしれない。
懐事情が改善した俺たちは、心穏やかにオーサンが来るのを待つことが出来た。もし困窮してたら「この時間でどれだけ稼げるだろう」とかイライラしたことだろう。
三人で駄弁って待っていると、ようやくオーサンが現れた。
「おうお前ら早ぇな。やる気があるのは歓迎するぞ。
ちょっと中に顔出してくっから、お前らは先に訓練場に行って待ってろ。俺もすぐ行く、……っと、先に銀貨2枚貰って良いか」
俺とシンから1枚ずつ銀貨を受け取ったオーサンは、一旦受付の奥へ入って行った。
「じゃあ移動すっか。俺は訓練場って行ったことないんだけど、2人は場所分かる?」
「大丈夫、僕が知ってるよ。利用したことはなかったけどね。こっちだ」
流石、シンは何でも知ってんなぁ。世間知らずのおっさんは、頼りになる若者の後ろに黙って付いていく。
へぇ。こんなところに階段があったのか。どうやら訓練場は地下にあるらしい。
「なんか思ったより狭いんだな。何もないし」
1階、受付やロビーのあるフロアと比べると、かなり狭く感じる。なんとなく、400メートルトラックくらいの広さを想像していた。
そんなことを考えていると、なんでも知ってるシンから補足が入る。
「いや、訓練場全体の面積は、1階フロアと同等なんだよ。それを十字に壁で区切って、4分割してるんだ。見える範囲は1階フロアの4分の1ほどの広さしかないんだから、トーマが狭く感じるのは当然だね」
「ねぇねぇ兄さん。なんでわざわざ狭く区切ってるの?」
俺も同じこと思った。訓練場なんだから、広いほうが色々便利な気がするんだが。
「はっ、そりゃあ冒険者同士で、手の内を見せ過ぎない為だ。結局のところ、冒険者のライバルは冒険者だからな。無用なトラブルをなるべく減らすために、あえて区切ってんだよ」
シンの代わりに、やってきたオーサンが答える。
動きやすそうな服に着替えて、金属製のメイスのようなものを持っている。アレがオーサンのエモノなのか。それとも、俺の指導用に武器を合わせてきたのかもしれない。
「やっぱ冒険者同士でぶつかることも少なくないのか?」
テンプレ的な絡まれ案件とか発生してないし、俺のほかの冒険者にはシンとリーンしか話したことないし、なんとなくリンカーズの冒険者って、素行が良いイメージあるんだが。
「頻繁にあるわけじゃねえが、珍しくもないって感じか。冒険者だって、お互いに殴り合っても意味ねぇのは分かってんだよ。ただ命のやり取りで稼いでいると、どうしてもな。
上に行くほど我が強い奴らが多くなっちまうってもんだ。だからそもそもの接触の機会を減らそうってんで、訓練場を仕切ることにしたらしいぜ」
「なるほどねぇ。めんどくさい話だな」
「まったくだぜ。実際冒険者ってのはめんどくせーやつが多いんだよ。お前らは手のかかる冒険者にはなるんじゃねえぞ」
オーサンは心底面倒くさそうに吐き捨てた。
このおっさんがいつも面倒くさそうな態度をしているのは、面倒な冒険者の相手を相手にすることが多いからなのか?
いや、なんとなくだがオーサンの態度は元からのような気がする。なんの根拠もないけど。
「よし、じゃあ金も貰ってることだし、そろそろ始めるか。
今回指導を担当させてもらう、冒険者ギルド所属のオーサンだ。冒険者等級は5等級。
1日で出来ることなんてそんなに多くはねぇが、お前らが3階層に行くための手助けくらいはしてやりたいと思う。今日1日宜しく頼む」
オーサンが真面目な口調で自己紹介をしてきた。
そして顎をクイッと上げて、俺に続けと伝えてくる。
「10等級のトーマ。3階層へ上がるために基礎を学びに来た。ご指導のほど宜しくお願いする」
「同じく10等級のシン。先日2階層で、己の未熟を痛感したばかりだ。宜しくお願いします」
「私はリーン。みんなと同じで10等級です!今日は宜しくおねがいしますっ」
リンカーズで自由に生きるためには力が要る。
たった1日の訓練。だけどプロによる手解きなのだ。無駄にするわけにはいかない。
「3人とも、やる気はあるみてぇだな。
それではこれより、本日の指導を開始する!」
オーサンが高らかに、訓練の開始を宣言するのであった。
宿を出るときに、ユリンさんが声をかけてきた。2人のことは、この宿に招待した時に見かけたんだろう。
その後宿で夕飯食べない日もあったし、交流を続けていると察したのかもしれない。
「おかげさまでね。2人とも話してて楽しいよ」
「ああ、とってもかわいい子達だったねぇ。トーマも迷宮探索が順調そうで何よりさ。お金がないからって連泊を断ってたのが、嘘みたいに安定してるじゃないか」
「この宿のメシが食えなくなったら嫌だから。そのために頑張って稼いでるんだよ」
「ははは、言うじゃないか!早いとこ、泊めたことが自慢できるような冒険者になっておくれよ?」
「前向きに検討して善処するよ」
成り上がれ発言は適当に誤魔化して、送り出してもらった。
改めて考えると、リンカーズに来てそれなりに苦労はしてるものの、出会った人はみな良い人しか居ないな。この世界の人が、みんな心優しいという訳ではないだろう。
神様ガチャは最悪だったけど、人の縁には間違いなく恵まれていると断言できる。
異世界にきた割に大きなトラブルもなく過ごせているのは、みんなが俺のことを気にかけてくれているからだ。
日本で暮らしていた時には考えられないくらいに、毎日が充実している。やっぱり俺は、この世界に適性があったんだろうなぁ。
いつもの時間にギルドに着くと、シンとリーンはもう既にロビーで待っていた。
「おはよう。今日はいつもより早いな」
「おはよートーマ!」
「いやぁ、折半したとはいえ、銀貨1枚も払ったんだ。なるべく元を取りたいじゃないか。
それに教わる側が遅れて来るようでは失礼だろ」
シンはいつも色々考えてるなぁ。商売人向けの教育を受けてきたというし、物事を色んな角度で見る癖がついているのかもしれない。
懐事情が改善した俺たちは、心穏やかにオーサンが来るのを待つことが出来た。もし困窮してたら「この時間でどれだけ稼げるだろう」とかイライラしたことだろう。
三人で駄弁って待っていると、ようやくオーサンが現れた。
「おうお前ら早ぇな。やる気があるのは歓迎するぞ。
ちょっと中に顔出してくっから、お前らは先に訓練場に行って待ってろ。俺もすぐ行く、……っと、先に銀貨2枚貰って良いか」
俺とシンから1枚ずつ銀貨を受け取ったオーサンは、一旦受付の奥へ入って行った。
「じゃあ移動すっか。俺は訓練場って行ったことないんだけど、2人は場所分かる?」
「大丈夫、僕が知ってるよ。利用したことはなかったけどね。こっちだ」
流石、シンは何でも知ってんなぁ。世間知らずのおっさんは、頼りになる若者の後ろに黙って付いていく。
へぇ。こんなところに階段があったのか。どうやら訓練場は地下にあるらしい。
「なんか思ったより狭いんだな。何もないし」
1階、受付やロビーのあるフロアと比べると、かなり狭く感じる。なんとなく、400メートルトラックくらいの広さを想像していた。
そんなことを考えていると、なんでも知ってるシンから補足が入る。
「いや、訓練場全体の面積は、1階フロアと同等なんだよ。それを十字に壁で区切って、4分割してるんだ。見える範囲は1階フロアの4分の1ほどの広さしかないんだから、トーマが狭く感じるのは当然だね」
「ねぇねぇ兄さん。なんでわざわざ狭く区切ってるの?」
俺も同じこと思った。訓練場なんだから、広いほうが色々便利な気がするんだが。
「はっ、そりゃあ冒険者同士で、手の内を見せ過ぎない為だ。結局のところ、冒険者のライバルは冒険者だからな。無用なトラブルをなるべく減らすために、あえて区切ってんだよ」
シンの代わりに、やってきたオーサンが答える。
動きやすそうな服に着替えて、金属製のメイスのようなものを持っている。アレがオーサンのエモノなのか。それとも、俺の指導用に武器を合わせてきたのかもしれない。
「やっぱ冒険者同士でぶつかることも少なくないのか?」
テンプレ的な絡まれ案件とか発生してないし、俺のほかの冒険者にはシンとリーンしか話したことないし、なんとなくリンカーズの冒険者って、素行が良いイメージあるんだが。
「頻繁にあるわけじゃねえが、珍しくもないって感じか。冒険者だって、お互いに殴り合っても意味ねぇのは分かってんだよ。ただ命のやり取りで稼いでいると、どうしてもな。
上に行くほど我が強い奴らが多くなっちまうってもんだ。だからそもそもの接触の機会を減らそうってんで、訓練場を仕切ることにしたらしいぜ」
「なるほどねぇ。めんどくさい話だな」
「まったくだぜ。実際冒険者ってのはめんどくせーやつが多いんだよ。お前らは手のかかる冒険者にはなるんじゃねえぞ」
オーサンは心底面倒くさそうに吐き捨てた。
このおっさんがいつも面倒くさそうな態度をしているのは、面倒な冒険者の相手を相手にすることが多いからなのか?
いや、なんとなくだがオーサンの態度は元からのような気がする。なんの根拠もないけど。
「よし、じゃあ金も貰ってることだし、そろそろ始めるか。
今回指導を担当させてもらう、冒険者ギルド所属のオーサンだ。冒険者等級は5等級。
1日で出来ることなんてそんなに多くはねぇが、お前らが3階層に行くための手助けくらいはしてやりたいと思う。今日1日宜しく頼む」
オーサンが真面目な口調で自己紹介をしてきた。
そして顎をクイッと上げて、俺に続けと伝えてくる。
「10等級のトーマ。3階層へ上がるために基礎を学びに来た。ご指導のほど宜しくお願いする」
「同じく10等級のシン。先日2階層で、己の未熟を痛感したばかりだ。宜しくお願いします」
「私はリーン。みんなと同じで10等級です!今日は宜しくおねがいしますっ」
リンカーズで自由に生きるためには力が要る。
たった1日の訓練。だけどプロによる手解きなのだ。無駄にするわけにはいかない。
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