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2章 強さへの道標
024 井の中の蛙、井戸の深さを知る
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「か、はっ……!」
脇腹に蹴りを受けて、息が止まる……!
「振りがデカすぎて、動きがバレバレだっつってんだろ。もっと動きの無駄を、意識して減らせ。
魔物を舐めんなよ。人以上の知能を持つ魔物なんざ、いくらでもいるぞ」
昼寝が終って、現在1人ずつオーサンと模擬戦を繰り返している。
延々と繰り返しているのに、オーサンは息を切らすことすらなく、俺たち3人をいとも簡単にあしらい続けている。
「自分の番じゃなくても気を抜くな。お前らみたいに戦闘経験の浅い駆け出しには、他のヤツが戦ってるところを見るのだって大切だ。
人の戦いを見ながら、自分ならどうするか、自分との違いはどこかを意識しろ。発想の引き出しは、多ければ多いほど役に立つぞ」
発想の引き出し、か。
「今回は訓練だから問題ないが、この先冒険者を続けていけば、自分たちより圧倒的に強い相手と戦う機会だって訪れるだろう。地力でどうやっても敵わないなら、発想で勝負しろ。俺の動きを見て、どうやって出し抜くか考えろ。
俺たちには考える頭があるんだ。使わないと錆付いちまうぞ」
実力差という現実に折れずに、思考を止めないこと。
「冒険者を続けていれば、行きずりの冒険者と、即席で組むこともある。
突然の共闘でも混乱しないように、色んな武器を使う人間を見て動きを覚えておけ」
冒険者には、臨機応変な対応力が必須、と。
「リーンはセンスが良いが、まだ体に力が足りない。これは今すぐ鍛えてどうにかなるもんじゃないから、一旦忘れろ。お前は相手を仕留めるよりも、素早く立ち回って全体の動きを援護した方がいい。
どうしても相手を仕留める必要がある場合は、確実に急所を狙え。現在の自分に出来る、効率的な攻撃方法を探れ」
リーンの課題は一撃の軽さか。攻撃の軽さを自覚して、自分の立ち回りを見直せってか。
「シンは動きが素直すぎる。地頭が良いんだから、もっと頭を使って相手を動かせ。
剣の技術は、今日教えた動きを忘れなければ問題ない。
それと、お前は慎重すぎるのか、攻撃に思い切りが足りない。仕留められる時に仕損じると、一気に窮地に陥ることもあるからな。決めるべきと思ったときは、躊躇うな」
シンの思慮深さは長所でもあり、短所でもあると。
思考力を活かしつつも、思考に囚われすぎるな、ってことかな?
「トーマは、マッドスライムばっかり相手にしていたせいか、動きが大雑把で単調すぎる。今日教えてやった基本の型を毎日練習して、動きを身につけろ。
それと3階層に行く前に、頭部と腕と足防具は揃えておけ。石斧を使うお前は、回避行動に制限がかかりやすい。多少の被弾を覚悟して攻撃しろ。
それが嫌なら、もっと軽い武器を使うんだな」
基本も知らずに、1階層を回っていたことの弊害か。
威力の高い石斧を手放す気にはならないし、防具を揃える方向で考えようかな。
淡々と俺たちの問題点を挙げ連ねながら、黙々と俺たちをボコるオーサン。
俺たち駆け出しとはレベルが違うだろうとは思っていたけれど、思っていた以上に全然歯が立たない。
そんなオーサンですら5等級。中級冒険者の域を出ない実力なのだ。
オーサンより強い相手は何処にでもいくらでも存在する。
ちっ、参ったな……。自惚れているつもりはなかったけど、思ったより俺は慢心していたみたいだ。
まだまだだとは思っていたけれど、自分で思っている以上に俺は弱かった。
井戸の中から空を見上げて、空の蒼さよりも、自分がどれだけ低い場所にいるかってことを思い知らされた気分だ。
上を見れば果てしなく、今の俺はこの世界の誰よりも弱い。
「ぐえぇ……」
鳩尾に、オーサンの膝が突き刺さる。
い、息が出来ない……。
立ってられずに、膝をついてしまう。
「そろそろ日没だ。最後に一言話してやるから、集まってくれ。
おいトーマ、いつまでも寝てんじゃねぇ。さっさと起きろ」
く……そが……!簡単に、言いや、がって……!
「それでは、本日の戦闘技能指導はこれで終了する。3人とも良くやったと言っておこう。
たった1日ではあるが、お前たちの意識と動きが変わるきっかけくらいにはなるだろう。機会があればまた受けに来てくれ。
連日対応するのは無理だから、せめて10日くらいは空けてほしいがな」
最後にコイツはサービスしておいてやる、と俺たちに洗浄の魔法をかけてきた。こいつ生活魔法も使えるのか。
「何驚いた顔してやがる。これでも5等級だって言ってんだろ。
中級まで上がると、魔法が使えるヤツなんざ珍しくもないぞ」
今の俺には中級冒険者の背中すら遥か遠くで、実力を推し測ることすらできそうもない。
「それじゃあこの後は反省会も兼ねて、俺が夕飯食わせてやるよ。座学ってわけじゃないが、色々教えられることはあると思う。
俺はこの後、今回の報告書をまとめてからじゃないと帰れないから、お前らはロビーで一足先に反省会でもやって待っててくれ。
どんなに危機的状況でも思考を止めないのが、生き残るためには重要だ。反省会もその訓練だと思ってやるようにな」
そう言い残し、オーサンは訓練場を去っていった。
オーサンが見えなくなった瞬間に、俺たち3人は崩れ落ちて、地面に寝転がった。正直言って立っているのすら辛い。
「う~~……。つかれたー……」
「僕たちと、ベテランとの実力の差ってヤツを思い知らされたよ……」
「お~い寝ちゃだめだぞー……。オーサンが来る前にロビーに行ってないと、なにをさせられるか分かったもんじゃねぇぞ」
「うぅぅ……もう動きたくないぃぃ」
「僕だって動きたくないよ……。でも休むのは、ロビーに行ってからにしよう。
追加訓練なんて言い出された日には、明日まで生き残る自信がないよ……」
「違いない。最後にもうちょっとだけ頑張って移動しますか」
そう言って体を起こす。死にそうな体に鞭打って、のそのそと起き上がり、移動を開始する。
しかし俺たち3人の視線の先には、まるで最後の関門のように、1階への上り階段が待ち受けているのであった。
脇腹に蹴りを受けて、息が止まる……!
「振りがデカすぎて、動きがバレバレだっつってんだろ。もっと動きの無駄を、意識して減らせ。
魔物を舐めんなよ。人以上の知能を持つ魔物なんざ、いくらでもいるぞ」
昼寝が終って、現在1人ずつオーサンと模擬戦を繰り返している。
延々と繰り返しているのに、オーサンは息を切らすことすらなく、俺たち3人をいとも簡単にあしらい続けている。
「自分の番じゃなくても気を抜くな。お前らみたいに戦闘経験の浅い駆け出しには、他のヤツが戦ってるところを見るのだって大切だ。
人の戦いを見ながら、自分ならどうするか、自分との違いはどこかを意識しろ。発想の引き出しは、多ければ多いほど役に立つぞ」
発想の引き出し、か。
「今回は訓練だから問題ないが、この先冒険者を続けていけば、自分たちより圧倒的に強い相手と戦う機会だって訪れるだろう。地力でどうやっても敵わないなら、発想で勝負しろ。俺の動きを見て、どうやって出し抜くか考えろ。
俺たちには考える頭があるんだ。使わないと錆付いちまうぞ」
実力差という現実に折れずに、思考を止めないこと。
「冒険者を続けていれば、行きずりの冒険者と、即席で組むこともある。
突然の共闘でも混乱しないように、色んな武器を使う人間を見て動きを覚えておけ」
冒険者には、臨機応変な対応力が必須、と。
「リーンはセンスが良いが、まだ体に力が足りない。これは今すぐ鍛えてどうにかなるもんじゃないから、一旦忘れろ。お前は相手を仕留めるよりも、素早く立ち回って全体の動きを援護した方がいい。
どうしても相手を仕留める必要がある場合は、確実に急所を狙え。現在の自分に出来る、効率的な攻撃方法を探れ」
リーンの課題は一撃の軽さか。攻撃の軽さを自覚して、自分の立ち回りを見直せってか。
「シンは動きが素直すぎる。地頭が良いんだから、もっと頭を使って相手を動かせ。
剣の技術は、今日教えた動きを忘れなければ問題ない。
それと、お前は慎重すぎるのか、攻撃に思い切りが足りない。仕留められる時に仕損じると、一気に窮地に陥ることもあるからな。決めるべきと思ったときは、躊躇うな」
シンの思慮深さは長所でもあり、短所でもあると。
思考力を活かしつつも、思考に囚われすぎるな、ってことかな?
「トーマは、マッドスライムばっかり相手にしていたせいか、動きが大雑把で単調すぎる。今日教えてやった基本の型を毎日練習して、動きを身につけろ。
それと3階層に行く前に、頭部と腕と足防具は揃えておけ。石斧を使うお前は、回避行動に制限がかかりやすい。多少の被弾を覚悟して攻撃しろ。
それが嫌なら、もっと軽い武器を使うんだな」
基本も知らずに、1階層を回っていたことの弊害か。
威力の高い石斧を手放す気にはならないし、防具を揃える方向で考えようかな。
淡々と俺たちの問題点を挙げ連ねながら、黙々と俺たちをボコるオーサン。
俺たち駆け出しとはレベルが違うだろうとは思っていたけれど、思っていた以上に全然歯が立たない。
そんなオーサンですら5等級。中級冒険者の域を出ない実力なのだ。
オーサンより強い相手は何処にでもいくらでも存在する。
ちっ、参ったな……。自惚れているつもりはなかったけど、思ったより俺は慢心していたみたいだ。
まだまだだとは思っていたけれど、自分で思っている以上に俺は弱かった。
井戸の中から空を見上げて、空の蒼さよりも、自分がどれだけ低い場所にいるかってことを思い知らされた気分だ。
上を見れば果てしなく、今の俺はこの世界の誰よりも弱い。
「ぐえぇ……」
鳩尾に、オーサンの膝が突き刺さる。
い、息が出来ない……。
立ってられずに、膝をついてしまう。
「そろそろ日没だ。最後に一言話してやるから、集まってくれ。
おいトーマ、いつまでも寝てんじゃねぇ。さっさと起きろ」
く……そが……!簡単に、言いや、がって……!
「それでは、本日の戦闘技能指導はこれで終了する。3人とも良くやったと言っておこう。
たった1日ではあるが、お前たちの意識と動きが変わるきっかけくらいにはなるだろう。機会があればまた受けに来てくれ。
連日対応するのは無理だから、せめて10日くらいは空けてほしいがな」
最後にコイツはサービスしておいてやる、と俺たちに洗浄の魔法をかけてきた。こいつ生活魔法も使えるのか。
「何驚いた顔してやがる。これでも5等級だって言ってんだろ。
中級まで上がると、魔法が使えるヤツなんざ珍しくもないぞ」
今の俺には中級冒険者の背中すら遥か遠くで、実力を推し測ることすらできそうもない。
「それじゃあこの後は反省会も兼ねて、俺が夕飯食わせてやるよ。座学ってわけじゃないが、色々教えられることはあると思う。
俺はこの後、今回の報告書をまとめてからじゃないと帰れないから、お前らはロビーで一足先に反省会でもやって待っててくれ。
どんなに危機的状況でも思考を止めないのが、生き残るためには重要だ。反省会もその訓練だと思ってやるようにな」
そう言い残し、オーサンは訓練場を去っていった。
オーサンが見えなくなった瞬間に、俺たち3人は崩れ落ちて、地面に寝転がった。正直言って立っているのすら辛い。
「う~~……。つかれたー……」
「僕たちと、ベテランとの実力の差ってヤツを思い知らされたよ……」
「お~い寝ちゃだめだぞー……。オーサンが来る前にロビーに行ってないと、なにをさせられるか分かったもんじゃねぇぞ」
「うぅぅ……もう動きたくないぃぃ」
「僕だって動きたくないよ……。でも休むのは、ロビーに行ってからにしよう。
追加訓練なんて言い出された日には、明日まで生き残る自信がないよ……」
「違いない。最後にもうちょっとだけ頑張って移動しますか」
そう言って体を起こす。死にそうな体に鞭打って、のそのそと起き上がり、移動を開始する。
しかし俺たち3人の視線の先には、まるで最後の関門のように、1階への上り階段が待ち受けているのであった。
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