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2章 強さへの道標

033 ハズレスクロール

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 3階層に潜り始めて数日。明日は2度目の指導日であるため、今から既に逃げ出したくなっている。


 初めてSPを獲得できた日から数えて、5日間潜り続けて2度目のSP取得に至った。
 
 1SPを獲得するのに3階層を5日間探索する必要があるとするなら、3階層の探索3日目で獲得できた初SPは、1階層での果てしないマッドスライム狩りが無駄ではなかったことの証明になりそうだ。

 獲得すればするほど獲得しにくくなるなんてクソ仕様じゃない限りなっ!


 ここ数日の探索で、俺たち以外にも3階層で動いている他の冒険者には何度かすれ違った。2階層よりも3階層は広くなっているし、魔物の数も多いので、他の冒険者が居たら稼げないようなことはなかった。

 他の集団は一番少ないところでも6人で、多いところだと12、3人くらいで動いているみたいだ。3階層の脅威は結局数的に優勢を取れないことだけだろうから、レッサーゴブリンよりも多い人数で回るっていう作戦は、なかなか理に適った安全策のような気がする。


 冒険者同士ですれ違うときには特に何もない。人によっては軽く会釈してくれたり、軽く手を上げて挨拶のようなことをしてくれる人もいるが、迷宮には戦いに来ているわけで暇ではないし、お互い余計なトラブルを嫌っているのか、挨拶以上の交流が生まれることは今のところない。

 マジで2階層でシンとリーンに会ってなかったら、俺ってずっとソロだったんじゃないだろうか。
 ソロは気楽だけど探索の難易度は跳ね上がるから、全然探索進んでなさそうだ。


 目下のところ、俺たちの目標は『3人とも1人で問題なく3階層を探索できるくらいの戦闘力を身につけること』である。

 俺たちはずっと一緒に居れるとも限らないし、一緒に進むにしても少人数には変わりない。常に数では負けてるし、状況によってはお互いの援護が期待できない場合も想定される。何らかの理由で孤立してしまった場合にも生還できる地力を身につけたいのだ。

 ソロでレッサーゴブリンの集団と戦う場合、石斧だと取り回しに不安がある。もっと筋力をつけて石斧を今以上に自在に操れるようにするか、もう少し軽量の武器を試す必要がありそうだ。

 石斧のままでもレッサーゴブリンなんかに負けるとは思ってないが、なんだか泥仕合みたいになりそうなのが容易に想像できる。


 自分に戦闘センスみたいなものがあるとは微塵も思っていないけれど、人間ってやつはやればやるほど上達していくものである。
 別にテッペン目指す気もないので、お金を稼ぐ力と自衛に必要な力量さえあれば良いのだ。そのくらいなら才能が無くても努力と工夫で補える範囲だと思いたい。

 実際3階層で戦い続けたことで、初日に比べると戦闘時の視野が広くなったと感じている。今までは攻撃しようと思うと対象に意識が集中してしまい、結果被弾してしまうことも多かった。

 攻撃するときに集中するのは同じだけど、集中してもある程度、視界が広く保てるようになってきたと思う。
 目の前の相手の他にも敵がいるということを常に意識しながら戦っていたためか、今までより広い範囲を意識しながら戦えるようになってきた、と自分では感じている。


 現在は本日最後の周回中である。全部で12体ほどの、ちょっと大きめの集団と戦闘中だが問題ない。もっと大きな集団だって既に何度も経験している。

 
 最近ではリーンもシンの援護ではなく、1人で遊撃するようになった。
 シンが援護が必要ないほど腕を上げたってこともあるし、リーンの戦闘力の底上げも狙っているようだ。実際リーンが1人で行動していても、今のところ怪我どころか被弾すらしていない。


 レッサーゴブリンの動きと石斧の取り扱い、そして集団戦そのものにも慣れてきたので、この程度の数に遅れを取ることもない。

 近寄ってきた順に頭を潰してやる。続いて襲ってきた相手の頭部も潰す。

 そこで一歩下がって距離を取って、石斧を振り被る時間を確保。

 3体目は横薙ぎにぶっ叩いて首を潰し飛ばす。俺の近くにはあと2体か。


「あっ!!」


 っ!?

 リーンの驚いたような声が聞こえた。


「リーンどうした!?」


 シンが叫ぶ。俺も後ろに下がりながらリーンのほうを確認してみる。

 あれ?リーンの周りには既に敵はいないし、リーンも普通に立っていて怪我してる様子もないな?
 

「ごめん!なんでもないよっ!」


 俺たちの視線に気付いたリーンが無事を伝えてくる。なんか知らんけど、とりあえず無事ならいいか。
 残り2体なら小細工は要らない。ただ頭部を目掛けて、全力かつ最速で石斧を叩きつけるだけだ。

 近くの2体を一撃で確実に処理しつつ、シンに注意が向いている固体を後ろから殴り殺し、戦闘は無事に終了した。

 一応周囲を確認し、おかわりがないことに確信が持ててからリーンに声をかける。


「ふぅ。そんでリーン、さっきは何かあったのか?」


 リーンは申し訳無さそうにネコミミを折りたたんで俯いている。


「う~、ごめんなさい~。私が倒したレッサーゴブリンがスクロールを落としたのが見えて、驚いてつい叫んじゃった……」

「えっ!スクロール出たってマジ!?こっち側のドロップ品回収してそっち行くわ!

「じゃあリーンはそのまま周囲の警戒をお願い。僕も回収の方に回るね」


 ささっと回収完了!さてさてお楽しみはこれからだー!


「リーンセンパイ!スクロール俺にも見せてくれー!」

「これだよー。売り物は見たことあるけど、ドロップしたのは初めて見たのー」


 リーンの手には正に巻物といったデザインのアイテム。思ったより大きくないな。長さ的には30センチもないように見える。


「で?で?これってなんの魔法が覚えられるんだ?そして売った場合はいくらくらいの価値になる?」

「ちょっとトーマ落ち着いて!スクロールはどこかのギルドで鑑定してもらわないと種類が分からないんだ。
 一攫千金の夢のあるアイテムなんだけど、3階層なんて浅い場所で出るものにはあまり期待しない方が良いと思う。
 もしも攻撃魔法だったら、正に大当たりと呼ぶに相応しいんだけどね」

「く~!帰るまでのお楽しみかー!じゃあさっさと回ってアイテム集めようぜ!
 いやースクロールゲットなんて流石リーンセンパイ!」

「もー、トーマは調子良いんだからー!」


 なんて言いながら満更でも無さそうだ まぁ結局のところ運だからな。自分の手柄では無いと分かってるけど褒められて照れているって感じかな。まったくリーンセンパイはかわいいなぁ。


 その後探索を終えて、換金と一緒にスクロールの鑑定をお願いする。


「おー、スクロール出たのか。おめでとさん」


 オーサンがめんどくさそうに祝ってくれた。
 やっぱりおめでたいことなんだなーいやぁ結果が楽しみだわ。

 スクロールの鑑定料は1000リーフ、銀板1枚だった。たっけぇ~。


「おう、こっちが報酬の1165リーフだ。
 スクロールは鑑定の結果『音魔法』のスクロールだと判明した」


 へー、音魔法ね。漫画なんかだと結構強いイメージあるけど、リンカーズではどういう扱いなんだろな。


「スクロールは買い取りに出してもいいし、自分たちで使用しても良い。
 迷うなら一度持ち帰ってから、後日買取に出しても問題ないぞ」


 俺としてはぜひ習得したいところだけど、2人の意見も聞かないとなー。ドロップさせたのはリーンセンパイだし、優先権とかあるのかな?


「やっぱり音魔法だったか」

「まー3階層だしねー。ハズレスクロールなのは仕方ないなー」


 あれ?2人はなんか残念そうだな?
 音魔法って、ハズレ扱いなの?
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