異世界で目指せハーレム生活! でも仲間のほうがモテモテです

りっち

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4章 2人のために出来ること

閑話003 僕達の身に起きたこと ※シン視点

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「1人だけ……、心当たりがあります」


 スレイさんに頼れる人は居ないかと聞かれ、僕らに思い浮かぶ人物はトーマしか居ない。

 今までだって散々助けてもらっておいて、これ以上彼に助けを求めるなんて、あまりにも図々しいと思う。

 ……だけど、他に頼れる人なんて居なかった。


 犯罪奴隷になるのが僕だけだったのなら諦めもついた。
 でもリーンも犯罪奴隷に落ちてしまった今、図々しくても恥知らずでも、僕はトーマに頼るしかない。

 犯罪奴隷には人権なんてない。ましてリーンは女だ。
 売られた先でどのような扱いを受けるかなんて、想像したくもない。



「兄さん!どうしてトーマの名前を教えてしまったの!?」


 2人で部屋に戻されると、リーンは僕に食って掛かってきた。

 リーンの気持ちは痛いほど分かる。
 僕達2人はどれほど彼に助けられたか分からない。
 その彼に、更に迷惑をかけようというんだから。

 しかも僕達の売値はあまりにも高額で、もし連絡が取れたとしても、トーマにどうにかなる金額だとは思えない。
 もしかしたら、トーマの気分を悪くさせるだけなのかもしれない。


「ごめんねリーン。僕のことは許せなくても構わない」


 ……それでも、リーンを守るために僕に出来る事は、今の状況をトーマに伝えることだけだった。

 リーンは僕のことを、それ以上責めなかった。



 後日スレイさんに「トーマさんと話はしてきた。でもあまり期待はしないようにな」と告げられる。

 ……分かっている。僕達の売値はあまりにも高すぎる。
 トーマはとても優秀な冒険者だったけれど、僕達よりも冒険者になったのが遅いくらいの駆け出しなんだ。

 上級と言われる3等級以上の冒険者であっても、短時間で用意するのは難しい額だ。
 それを9等級であるトーマに支払えというのは、あまりにも無理な話だった。

 スレイさんはギリギリまで、僕達の販売を遅らせてくれると言ってくれた。
 でもそれに一体どんな意味があるのか、僕には分からなかった。


 販売予定日の前日になっても、結局トーマが僕達の前に現れることは無かった。
 せめて最後に彼に謝りたいと思った。
 それすら僕にはもう叶わない。


 一体どうしたら良かったのかと、奴隷になってから考えない日は無かった。
 何が違っていれば、僕達家族はこんなことにならなかったんだろう。

 明日誰かに売り払われたリーンがどんな目に遭うかと思うと、怖くて怖くて、一睡も出来なかった。


 夜明け前のまだ暗い時間帯に、突然スレイさんから声をかけられた。


「君達の購入者が来ている。2人とも一緒に来なさい」


 とうとうこの時が来てしまった。結局僕に出来ることなんて何もなかった。

 頭の中が絶望感でいっぱいで、何も考えることが出来なかった。


「ここだ。失礼のないようにな」


 案内された部屋からは笑い声が聞こえてきた。男の声だ。
 
 リーン。不甲斐ない兄さんで本当に……。


 真っ白な頭のままで案内された部屋に入ると、そこには見知った人物がおかしそうに笑っていた。

 え、なんで2人がここに……?
 あれ……?


 部屋に入った僕達を見たトーマは、まるでいつもギルドの前で待ち合わせていたときのように、本当に気安く軽く手を上げた。

 それがさも、当然であるかのように。


「「トーマ!?」」


 なんでトーマがここに……?
 購入者が来ているって言われたのに、どうしてトーマがここにいるの……?

 トーマが悪戯が成功した子供のような、意地の悪い笑みを浮かべているのを、僕はただ見つめることしか出来なかった。


 その後はすぐに奴隷契約に移った。

 図々しくもトーマに助けを求めたくせに、実際にトーマの顔を見て、そしてトーマが僕達を購入してくれようとしていると聞いた僕は、恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいになった。

 トーマに購入してもらっても良いか?
 そんなの良いに決まってる!

 だけど、トーマがどうやって僕たちの購入資金を捻出するっていうんだ……。


 あれほど待ち望んだ救いの手が差し出されているというのに、僕は返事をすることが出来なかった。

 それなのにトーマがあんまりにも気安く「俺に買われるのと別の誰かに買われるののどっちが良いか、それだけ考えて答えてくれりゃ良い」なんて言うものだから、ぼくはついかっとなってしまった。


「そりゃあ買ってもらえるならトーマのほうが良いに決まってるよ!だけど、」

「シンはオッケーと。リーンはどうかな?」


 トーマはもう充分と言わんばかりに僕の言葉を遮って、リーンへと返事を促した。


「……私も、私もトーマに買ってもらいたい……」 


 リーンが震えるように答えた。当たり前だ。
 犯罪奴隷として誰かに買われていくのに比べたら、トーマに買ってもらうなんて、奇跡に近い幸運なのだから。


 僕たちの返事を聞いたトーマは、もう充分といった感じで、スレイさんと話を進めてしまう。

 焦った僕は、まるでトーマに買ってもらいたくないかのようなことを言ってしまう。


「スレイさん待ってくれ!トーマも!僕達は犯罪奴隷なんだ!
 僕達を購入したらトーマにだって迷惑がかかるかもしれない!
 それに購入費用だって、」

「シン、トーマさんは既に支払いを終えられているのだ」

「「…………え?」」


 僕とリーンの声が重なる。

 ……今、なんて言われた?

 支払いが、もう……、終って、る……?


 信じられないことだが、トーマは本当にお金を集めてきてくれたらしかった。
 しかも1人分ではなく、僕達2人分の白金貨3枚もの大金をだ……。

 僕たちの返事さえ聞ければ、もはや何の問題もないかのように、奴隷契約は行われた。


 正式にトーマと奴隷契約が結ばれ、4人で商館の外に出た後も、僕は全然現実感が無かった。

 トーマが繋いでくれている手の温もりが、これは現実なんだと伝えてくるのだけれど、あまりの現実感の無さに、僕は夢を見ているとしか思えなかった。


 やがてオーサンの家が見えてきて確信した。
 これはやっぱり夢なんだと。

 初めてオーサンの指導を受けた日。
 あまりの厳しさに疲れ果ててしまった僕達兄妹を、トーマが手を繋いで歩いてくれたあの日。
 僕たち3人が、本格的に冒険者として活動することになったあの日の夢を、僕は思い出しているんだと。

 でもあの日と違って、僕達が到着する前にドアが開いて、クリリクさんが駆け寄ってきて僕達2人を抱きしめてくれた。

 ……あれ?
 あの日、こんなことは、なかったはずなのに。


 クリリクさんに抱きしめられたままでいると、トーマが宿に帰ってしまった。

 ……あれ?
 僕たちトーマの奴隷になったんじゃないの?
 ここに置いて行かれていいの?

 なにが夢でなにが現実なんだか、全然訳がわからない……。


「トーマが何をしたのか話してやっから、お前らとりあえず中に入ろうぜ」


 オーサンに促され、僕たちは家の中で改めて話をすることにした。

 そうだ。
 これが夢じゃないのなら、トーマが一体何をしたのか聞かなければならない。


 中に入ると、クリリクさんがお茶を入れてくれた。
 何度も口にした、とても落ち着くお茶の香りが、鼻をくすぐった。


「まぁ先に結論から言うとだな。トーマが金を稼いでお前ら2人を購入したわけだ。
 だがまぁ購入資金をどうやって用意したか分かるか?
 あいつは本当に頭がイカれてると俺は思ったぞ」

「……見当も付かない。
 トーマはどうやって白金貨3枚も用意したの?」

「くくく、思いつかねぇよなぁ。
 3枚の白金貨を、しかも実質たった4日間弱で集めきっちまった方法なんざよぉ」

「4日間で白金貨3枚を!?」


 そんな短期間でこれほどの大金を集める方法、全く思いつかない。

 さっきオーサンは頭がイカれているとか言っていた。
 まさかトーマは、犯罪に手を染めてしまった、とか……?


「ハハハハハ!お前らが想像してることが分かるぞ!
 だが違うんだ。その程度の誰でも出来るような方法じゃねぇ。
 アイツはな、正攻法で白金貨3枚稼いでみせたんだよ。迷宮のドロップ品の売却のみで、しかもスクロールは売らずにな!」


 その後オーサンは本当に楽しそうに、事の顛末を語ってくれた。


 僕たちと別れてからも、トーマは誰とも組まずに、たった1人で迷宮探索を続けていたこと。

 たった1人でもなんの問題もなく攻略を進め、10階層まで到達してしまったこと。

 スレイに話を聞いてすぐ、沢山の人に協力を仰ぎ、私財を投げ打ってすぐに行動を起こしたこと。

 まるで僕たちを助けるついでのように、沢山の迷宮孤児を助けてしまったこと。

 ほとんど休まず迷宮に挑み続け、本当に正攻法で、誰にも迷惑をかけず、僕たちの購入資金を調達してしまったこと。

 目的のために計画を立て、私財を惜しまず、何の躊躇もなく行動し、一直線に走り続け、奇跡にも幸運にも頼ることなく、己の力だけで、奇跡としか言いようのないことを実現してみせたのだと。



「全く、やってられねぇよなぁ……。
 こんなバケモノじみたことしてくれやがったくせに、それをした本人はケロッとしてやがるんだ。
 出来るとか出来ないとか考えていたようには思えねぇ。最初に自分が出来る最大限の計画を立てて、ただ実行しただけなんだよアイツは。
 金を引き出しに行ったときは本当に参ったぜ。たった4日間で白金貨3枚以上稼いでいて、口座を確認した商工ギルドの奴も驚いてたっていうのによ。トーマ本人はなんとも思ってねぇんだ。
 アイツにとっちゃ4日間の成果、それ以上でも以下でもねぇんだ」


 そこまで言うと、オーサンは僕たちを真っ直ぐに見つめて言った。


「トーマはこれから、すげぇ冒険者になっていくだろう。
 そんなアイツの横に並んで立ちたいなら、生半可な覚悟じゃ足りねぇぞ。
 俺が助けてやれることなら協力はしてやるつもりだがな」


 ……トーマが凄い冒険者なのはとっくに知ってる。
 彼は僕たち兄妹が困ったときは、必ず現れてくれる英雄なのだから。

 そして生半可な覚悟などするつもりはない。するわけにはいかない。
 今回僕たちの購入資金を作るためにトーマがした覚悟すら、今の僕たちにはまだ想像もできないけれど。

 僕たち2人は彼に命を助けられ、生活を助けられ、犯罪奴隷として売り払われる未来からも助けてもらった。
 命も生活も未来も彼に救われたのだから、救われたもの全てを彼に捧げたって構わない。

 
 彼が僕たちを助けてくれたように、トーマがが困ったときに力になりたい。
 そのためにもっともっと強くなろう。そう心に強く誓った。
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