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6章 波乱のヴェルトーガ

145 異風の旋律の初依頼④ チート能力vs達人

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「てめぇらぁ!ハヤミに何しやがったって聞いてんだろうがぁ!」


 転移くん(仮)が煩いなぁ。俺だったら騒ぐ前に逃げるか攻撃するかしてるよ?


「いやいや、お前らも見てただろ?詳しく解説するなら、攻撃魔法で上半身ふっ飛ばして差し上げただけだよ。
 納得した?どぅーゆーあんだすたん?」

「ハヤミを、ハヤミを殺しやがったってのか……!?
 てめぇら!そんなことしてタダで済むと思ってんのかぁ!?」

「逆だよ逆。お前らがやりすぎたせいで、タダで済まなくなったんだよ。それでも大人しく投降するなら、まだ話し合う余地もあったんだけどね。
 ビビったんなら、お得意の転移スキルで、尻尾巻いて逃げたらいいんじゃない?」


 ま、逃げられる方が困るんだけどね。 

 喧嘩の時の恫喝や暴言として使う「殺す」と、この世界の「殺す」は重みが違う。殺すと口にしたら、待っているのは殺し合いだ。

 お前らは俺を殺すと言った。その時点でお前らの処分が決定したようなもんだ。


「や、やべぇよ……。クガ、ここは一旦逃げた方が良くねぇか……?」

「キ、キリタニの言うことも一理あるぜ。ここは一度引いて、改めて態勢を整えるところじゃねぇか……?」


 さぞかしビビッてるだろうなぁ。恐らく仲間内では最強だったであろうハヤミが、目の前で殺されてしまったんだから。

 今まで絶対の自信を持っていたチート能力が、決して無敵ではないってことを、目の前で突きつけられちまったんだもんな。俺だったら逃げるね。逃げて二度と関わらない。


「ワタリぃ!キリタニぃ!ビビってんじゃねぇぞ!俺たちは……、俺たちは神に選ばれし能力者なんだ!こんなおっさん共に舐められっぱなしで、いいわけねぇだろうがぁ!」


 どうやら転移くんは、クガという名前らしい。かっこいい名前だなぁ。


「ちっ!女は勿体ねぇが、こんなところで負けるわけにはいかねぇんだよ!皆殺しにしてやらあぁぁぁっっ!」


 クガは右手を天に翳す。コイツの能力は転移、予備動作は必要なかったはず……。

 ってことは、何らかのサインか!?


「周囲警戒!何か来るぞ!」


 警告しながら、周囲を確認。
 ちっ、クガ達から視線を外すのはちょっと怖いな。


「トーマ!あそこ!」


 シンを見ると、俺のほうは向いてない。
 シンの視線を追うと、50メートルくらい先に、巨大な魔法陣が縦に出現している。

 ……範囲攻撃系か!?


「全員さっきの穴に飛び込め!あれは多分攻撃魔法だ!」

「ギャハハハハハ!死ね死ね死ねえええええ!」


 全力で水路に向かって走る!

 くそっ!絶対防御がいるから、仲間ごとふっ飛ばす危険もないのか!チート能力は複数組み合わせると、厄介さが跳ね上がりやがる!

 瞬間加速も使って距離を稼ぐ。

 水路の前まで来て、まさに柵を乗り越えようと思った瞬間、魔法陣が消失した。

 
「トーマ!?魔法陣が消えたよ!?」


 ハルを抱きかかえたまま、シンが確認してくる。

 なんだ?なんで攻撃が止まったんだ!?


「ふぅ。なんとか間に合いましたね」

「えっ!?」


 突然横からから声がしたので目を向けると、スカーさんが立っていた。

 ……やっぱこの人も、複合センサーに引っかからないよぅ。


「間に合ったって、どういう……」


 言いながら気付く。スカーさんは、人間の頭部を持っている。それも2つ。


 ……ウッソだろ。


 間違いなく、スカーさんが今の攻撃を止めてくれたんだろうけど、いったいどうやったのかさっぱり理解できない……。

 目測だから大雑把だが、魔法陣までは50メートルくらい離れていると思った。魔法陣が消失するまで、10秒もかかってなかったはずだ。

 単純な50メートル走であれば、10秒もあれば充分なんだろうが、スカーさんは、相手に到達し、2名の首を刎ねて、更にはこっちに戻ってきているのだ。しかも、誰にも察知されることもなく、だ。


「緊急で御座いましたので、生け捕る余裕はありませんでした。
 首を飛ばせば、流石に回復することは不可能でしょう」


 サラッと言ってのけるけど、この世界の達人やべーよヤバ過ぎるよ。
 ハロイツァはフィジカル最強だったみたいだけど、ハロイツァなんか野放しにする必要なかったんじゃ?

 それくらい、この世界の戦闘のプロのレベルは高い。チート能力者と同じくらい敵に回したくねぇ~……。


「オギ……?ウチダ……?え……?」

「え?どういうこと?は……?」


 相手は混乱中だな。無理もない。俺だって混乱してるし。

 ……しかしあいつ等、始めの位置から一切動いて無いんだよな。

 もしかして、動かないんじゃなくて、動けないのか?


 魔力感知にずっと反応があるので、今でも防御能力があいつらをドーム状に覆っているのは感じるんだけど、空間に干渉する魔法なんて、絶対消費魔力重いはずだ。
 
 もしかして、空間に干渉する能力じゃなくて、歪曲空間をする能力?術者の負担は下がる分、能力の自由度が下がる、みたいな。


「てめぇらあああああ!!絶対に許さねええええええ!」


 もう1つ不可解なのは、転移使いのクガだ。即時転移を使えば、いくら戦闘能力が低くても、出来る事はいくらでもあるはず。

 なんであいつは転移能力を使わない?……いや、もしかして使えない?


「シンはそのままハルの護衛を頼む。クガってヤツが居るから、一瞬も気は抜けないと思うけど宜しく。
 他の全員であいつらを包囲。魔力感知は切るなよ」


 リーン、トルネが散開し、シンがハルを庇うように背後に隠す。


「テッドさん、スカーさん。1つ聞きたいんだけど、この辺って被害大きくなっても大丈夫かな?」


 警備隊とタイデリア家の了承が得られればありがたい。


「ただの平隊員の俺に聞くんじゃねぇよ。だがまぁ、相手と実際に対峙してみて、こいつらのヤバさは実感した。
 勝てるんだったら、多少の事は目を瞑ってやらぁ」

「ディオーヌ様は、何より人命を優先される方です。人的被害さえ出なければ、多少の事はお許しになるでしょう。
 勿論、結果次第ではありますが」


 よし、後はこの戦闘に勝利するだけだ。
 
 最後の最後まで気は抜けないが、ようやく終わりが見えてきた気がする。
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